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ゆりスナ! 〜引きこもりの少女はスナイパーを目指します!〜  作者: ミカサ
第6章 第3節 合同強化合宿
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ももには百合を───

 ───たたたっ、たたたたっ


 くぐもった銃声と空薬莢の落ちる音、鋭く尖った金属音がシューティングレンジに響き渡る。


「……よし、当てられるな」


 銃の調子を確かめ、セレクターを指で動かしセーフティの状態にすると、桜はイヤーマフを外し、一息ついた。


「桜さん、すごく使い慣れてますね……! 私も使ったことはあるんですけど少し苦手みたいなので……すごいです!」


「ふふっ、ありがとな由莉ちゃん。そう言ってくれるならあたしも嬉しいわ。……初めて銃を触ったのは12の時やったな。いろんな銃を撃ってみたわ。けどなぁ……あたし、拳銃の腕が本当にないんやわ。けど、この銃……アサルトライフルだけは撃ち始めてすぐに慣れた」


 胡座をかいて銃を膝の中に置いた桜は由莉たちに続けてその頃の事を話した。


「あたしだってな、馬鹿じゃないんや。銃と刀、遠距離からなら……あたしは殺されるかもしれない。そんなすぐ死んだら、母上にあの世で半殺しにされてまうわ。やから、あたしは刀は近接で、銃は中距離から遠距離で攻撃する用に使ってるんやで? それなりに重くなるけど、もう6年くらい経つんや。嫌というくらい筋力は付けたし、鍛錬し続けたからな」


 ───強い。


 由莉たちは話を聞かされて、その想いの強さに感覚が震えた。たった一つの限りもない強く硬く煌めく、さながらダイヤモンドのような想いだけでここまで強くなったのかと。

 ……と、ここで天瑠は1つ気になったことを桜にぶつけてみた。


「……桜さんは、いつ人を殺したの……?」


「んー……中学に入って……半年経ってからやな。その時はまだ筋力も二つ持つのでギリギリやったから、刀だけ持っていってたんや。そん時は……2人殺った。今でも覚えてる、一人は抜刀術『月華』で頸を跳ね飛ばして、残った一人を連術『破月-上弦-』で上半身は縦に心臓まで斬り裂いて上半身と下半身をつなぐ部分を半分斬った。奇襲やったから呆気なさすぎるくらい早く終わったけど、死なないよりは幾分かマシやとは思った。殺した罪悪感は……微塵も感じなかったな。そんなもの、あのバカ親父を殺そうと思ったあの日に捨ててきた」


 淡々とその時のことを話す桜に、由莉たちも黙って聞いていた。『裏側』へと自ら入っていった1人の強い女の子の話を。

 ……と、桜はまたもシリアスな雰囲気になりかねないとそこで話を終わらせて、由莉たちをシューティングレンジへと強制的に投げ出した。


「はいっ、じゃあ由莉ちゃんたちは射撃練習な」


「は、はい……」


 若干、桜の行動に疑問を持つ由莉だったが、今からやるべき事だと割り切り、他の3人と一緒に射撃練習を始めた。


 そうした理由は、実は桜にはもう1つあったのだ。由莉たちが集中しているのを見届けると、桜は霞の中に消えるようにしてその場を去っていった。


 ───────────────


「……はぁ…………」


 ため息をつく声が1つ、高い壁の端っこでももは体操座りになりながら俯いていた。


「なにか……ないのかな……」


 ももは現在進行形でやることを失っていた。体力だってみんなのような底なしの体力はない。拳銃だって下手もいいとこ。唯一あるかもしれない狙撃でも人を撃てないからただのゴミと化している。何をやってもだめ。

 考えれば考えるほど自分があまりにも惨めになって泣きそうになっていた────、


「も〜〜も〜〜ちっ」


「ひゃっ!? さ、桜ちゃん……びっくりしたぁ……」


 突然肩を掴まれて何事かと見た先に桜がいることに、ももはほんの少しだけ安心した。桜も、ももがどんなことを思っているのか言わずとも分かってあげると、そばに正座で座る。


「ももち、おいで? これ好きやろ?」


「……ん……」


 ももは桜に引っ張られるがままに倒れ、桜の筋肉質だが、柔らかみもある太ももに頭を置いた。


「……桜ちゃん……わたしって……どうしてこんなに弱いのかな……」


「ももち……」


「なんにも……たったの一つも守れないこの手は……なんのためにあるのかな……っ」


 泣きだしそうになるももを、桜はただ黙ってももの髪の毛を撫でてあげた。


「な、ももち……ももちは本当に優しい子やで? こんな場所にいるのが不思議なくらいや」


「……」


「ももちはももちやで? 誰かと違うのも普通やし、誰かと同じになんてなれへんよ。ゆっくりでええから……答えを出すのは……な?」


 そう優しく言われたももは、体ごと横に向けて桜と視線を合わせようとなかなかしなかった。

 桜の優しさも、今のももには効果は薄く、震えているばかりだった。


「……7年……だよ? こうやって迷って……立ち止まって……動けずにいるんだよ……っ。わたしどうすればいいの……?」


「…………っ」


 悲痛に洩れるももの嗚咽の混じった心の叫びに桜は何も言ってやることが出来なかった。桜も、ももの事は知っている。『あの過去』を知っているからこそ、桜も悲しそうにして今も苦しんでいるももを、ただただ撫でていた。


(ももちの苦しみ……何とかしてやりたいけど……どうすればええんやろ…………あたしじゃ……無理や……。話ならいくらでも聞いてあげられるけど……友達なのに……ほんま情けないわ……)


 何も出来ない不甲斐なさは桜も同じ気持ちだった。ももの辛さを少しでも背負えたらどれほど良いかと歯を食いしばった。


「……辛かったらいくらでも相談してや? それくらいしか出来へんけど……あたしはももちの味方やよ。誰が何を言おうと、それだけは忘れんといてな?」


「……ありがとう……桜ちゃん……っ」


「ん……さ、ももちも由莉ちゃんたちのとこに行こか? 1人でこんな所にいても寂しいだけ────」


「─────にゃっと!!」


「うぉ!?」「ひゃっ」


 突如上から降ってきた物陰に立ち上がっていた2人は飛び上がってしまった。

 落ちてきて地面に叩きつけられるかと思いきや、下方向のエネルギーを筋肉の僅かな呼吸で横方向に逃がし、そのまま一回転、ピタリと止まるまでに1秒とて要しなかった。


「ふぅ……ちょっと遅かったかにゃ……」


「び、びっくりしたぁ……。……えっ? まさか……音湖さんこの壁登ってたん!? それで一番上から飛び降り!?」


 15m以上はあるであろう壁なのに、普通の人なら死ぬやろ!?と突っ込む桜に音湖は軽く笑いながら背伸びをした。


「まぁにゃ。これくらいは日課だにゃ」


「むちゃくちゃやろ……」


「にゃははっ。由莉ちゃんたちにも唖然とされたにゃ。……もも、その悩みをどうしても解決したいかにゃ?」


 一転し、音湖はももに視線を向け、そう尋ねる。まるで案があると言わんばかりの様子にももも、顔を曇らせながら頷いた。


「……はい……。わたしだけ……なんにも出来ずにいるのは……嫌です……っ」


「そっかにゃ。なら、いい方法を教えてあげるにゃ」


「……音湖さん、なんかあるんか? ももちを変える方法なんて……」


 桜も半信半疑でそう聞く。桜が言うのもなんだが、ももが立ち直ることは困難を極めると思っていた。桜がその状況に置かれていたらどうならのか分からないくらいだ。

 だが、音湖は自信たっぷりに頷く。


「もちろんだにゃ」


「音湖さん……教えて……ください……」


「いいけどにゃ、うちにはタメでいいにゃんよ? 言っても3歳の年の差だよにゃ? 桜も、別に気にしなくていいにゃ。あっ、あと、さん付けされる程、うちに敬意なんて示さなくていいにゃ。それでもさん付けしたいなら強要はしないけどにゃ」


「……そうか? なら、そうさせてもらうわ。そうやなぁ……ねこ……にゃー……よし、『にゃーこ』やな」


「う……何でもいいとは言ったけど、流石にその名前は抵抗が……」


「ええやんっ、かわいい名前やん『にゃーこ』♪」


 とんでもないあだ名を付けられ赤面する音湖を桜はこねくり回すように煽った。


「由莉ちゃんたちの前で言ったら暫く、にゃーこって呼ばれそうやな、にゃーこ♪」


「にゃ……無性に腹が立ってきたにゃ……けど、呼ばせたのうちだし……にゃああぁ……」


「あははっ、にゃーこも可愛いとこあるやんっ。最初からこうやって話せてたら良かったわぁ」


「あーーもう……まぁ、好きにしてくれにゃ……。さて、ももはどうするにゃ?」


 これはダメだと早々に見切り発車する事にした音湖は、ももはどうするのかと聞くと少し恥ずかしがりながら、ポツリと呟いた。


「……ね……ねこちゃん……」


「っ! 言われてみればうち……ちゃん付けされた事はなかったにゃ。いっつも、さん付けか呼び捨てだしにゃ……たった今、とんでもないあだ名付けてくれたやつもいるけどにゃ」


「ん? 呼んだか、にゃーこ?」


「桜はだまってるにゃ!! ……まぁ、いいにゃ。話が逸れたにゃんね。それじゃ、その方法を教えてあげるにゃ」


「……っ、うん……」


 どんなすごい事を言うのか、ももも然り、桜までも緊張していた。そして、音湖が口にした言葉に……2人は唖然とする。




「由莉ちゃんの側にいるにゃ。することはそれだけでいいにゃ」

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