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ゆりスナ! 〜引きこもりの少女はスナイパーを目指します!〜  作者: ミカサ
第6章 第2節〜もう1人のスナイパー〜
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天音vs音湖

「は? 戦えとか、意味わからないんだけど」


 急にそんなこと言われても、と天音は馬鹿にするような視線を送っていたが、音湖の目はまじの本気だった。


「……いいから構えるにゃ。殴り殺す気でかかってくるにゃ。うちも……そのつもりだからにゃ」


「…………っ、そっちがその気なら……受けて立つ」


 音湖の本気を見た天音も覚悟を決め、音湖と向き合う。天音も薄々分かっていたのかもしれない。




 話して駄目なら………


「…………っ!!」


「…………ッ!」


 直接、その拳で語るべきだと!!


「はぁぁっ!!」


「はぁっ!!」


 距離をゼロに詰めた2人はお互いに右のストレートをかますも、左手でコースを外される。そこから、音湖が追い打ちをかけるように蹴りを叩き込もうとする、が天音は腕をクロスさせ、後に飛ぶことで衝撃をほぼ0にした。


 それでも……腕が軽く痛むほどに、音湖の筋力は凄まじかった。


(やっばぁ……これがNo.1……でも……こっちも……っ!)


 天音は地を砕くように踏み込むと、たった数歩で音湖との距離を一気に詰める! だが、音湖も想定の範囲内と冷静に天音のラッシュを捌いていく。


「にゃあ、天音ちゃん、黒雨組のことどう思ってるにゃ?」


「そんなのっ! あんな組織……っ、ボクが叩き潰す!!! あいつらは……1人残らずぶっ殺してやる!!!」


 天音の攻撃の手数はさらにあがる! だが、それに伴って音湖の防御も果てしなく固くなる……が、音湖もいつまでも守ってばっかりなのも癪になった。


「ほらほら、どうしたにゃ! そんなもんかにゃ、No.2ってのはッ!!」


「くぅ……っ、まだまだぁぁぁあああああーーー!!!」


「にゃははっ、いいにゃいいにゃっ! なら、うちも……行くにゃあっ!!」


 防戦から一変、音湖の鋭い攻撃が入り込み、途端に天音は防戦を強いられる。一発一発が重すぎて、捌くだけじゃ、天音の腕が持ちそうにない。


(おも……すぎでしょ!? あの体、どんな作りしてるんだ……ってのっ!!)


(これ、本気なのに天音ちゃんよく凌ぐにゃあ。なるほど、伊達に暫定だけど、黒雨の1番を背負ってた訳じゃないって事かにゃ)


 天音は避けて力を受け流しての合間に攻撃を入れ、音湖は激しい攻勢の中にも相手の攻撃を一切受けるつもりのない守りの姿勢も見せる。天音だから……音湖だから出来ることだった。普通に戦える如きではお話にすらならない、そんな領域での戦闘は……熾烈を極めた。


 天音と音湖は近接戦闘に関しては天性クラスの才能があるが……その才能はそれでも音湖が圧倒的に上だった。その差を、天音は色んな手を駆使して埋めようと抗った。


「おらぁっ!!」


「きゅっ……やったにゃあ……また……胸を殴ってくれたにゃあ!?」


「そこが急所なんでし……っ!?」


 こんな時にでも胸をぶん殴ってきた天音を音湖は半分ブチギレて、天音の腹に拳を押し当てると、後にあるコンテナの壁まで吹っ飛ばした。


「かはっ……、ちぃっ!!」


 咄嗟に受身は取ったが、天音の背中にはダメージが幾分か残ってしまい、舌打ちすると、さらに攻めの姿勢を強めた。音湖に攻撃のスキを与えないように、考えさせないように蹴りと殴打を組み合わせ、一切の気の緩みさえ許さないと────。

 だが、それでも音湖の実力は圧倒的だった。天音の肝心の手も音湖の前には一切の効果がなく、ただ純粋に……強かった。天音では『まだ』音湖のいる場所には届きそうになかった。


 それでも、何とかお互いに掴みあって膠着状態に入った天音と音湖はお互いの気持ちを暴露するかのように、思いっきり言葉を吐きまくった。


「だったら……ねこさんはどう思ってるの!? あの組織のことっ!!」


「あんなとこ大っっ嫌いにゃ、特にあのクソ野郎は……うちにとって因縁はいくらか……あるんだ、にゃ!! 今度は1人残らずぶっ殺す予定なんだにゃ!!」


「そうなんです……かっ!! ねこさんが1番戦う理由ないように見えましたけど!」


(ちょっとは動揺してくれるよね……ちょっと………は…………?)


 もちろん、ハッタリだった。気を動揺させられればいいくらいにと、思ってのことだった。……とそこまで言うと、音湖の表情が酷く歪んだ。その瞳からは……既に涙が溢れていた。音湖の泣くところを見た事がなかった天音は逆に動揺してしまい腕の力がほんの少し抜けてしまった。……それと同タイミングで、音湖の血走ったような言葉が天音を容赦なく襲った。


「……バカ言うんじゃねぇにゃ!!今回は……うちも敵討ちなんだにゃ。うちが助けた瑠璃ちゃんが……よりによって組織に殺される……クソ野郎に殺されたんだとしたら、謝っても……うちは謝りきれないんだにゃあ!!」


「くっ!?」


 音湖の馬鹿みたいな力に押された天音はお互いに掴みあったまま背中をコンテナに叩きつけられた。もう逃げられない、必至の状況に陥った天音が見たのは……大粒の涙だった。


「うちはにゃ……瑠璃ちゃんの想いを今更知って後悔しかしてないんだにゃ!! 瑠璃ちゃんをうちなら助けようと思えば……助けられたにゃ……もしかしたら、4人全員助けることだって出来たかもしれない、そう思ったら……っ、ここ毎晩苦しくて苦しくてたまらないんだにゃあ!!!」


「……ねこ、さん……」


「初めはあの組織が邪魔だから潰したい、それしか思ってなかったけどにゃ……っ、瑠璃ちゃんが殺されたのなら、瑠璃ちゃんを助けたうちが……敵を取らなくてどうするんだにゃ!!! 天音ちゃんも……分かるんじゃないのかにゃ!?」


 苦しさと怒りで音湖の口調が荒くなる中、ここまで思いを爆発させられた天音は同じように怒りを心の中に滾らせていた。────黒雨組に。


「っ、分からないわけない!! ボクだって……パパとママ……瑠璃……3人も……っ、3人もあの組織に殺されているんだ!! 大事な……失いたくない人を……ボクはもうこんなにも……っ。もう、これ以上大切な人を失いたくなんてない!! みんな生きて……っ、全員であのクソみたいな組織を潰したいんだよ!!!」


「同感だにゃ!! あの組織に殺されていい子なんて……ここには……ただの1人としていないんだにゃ!!」


「こっちのセリフだっての!! ゆりちゃんも天瑠も璃音も……マスターも、あくつさんも……っ、ねこさんにだって!ボクは死んで欲しくないっっ!!





 ……あっ」


 怒りの感情に任せて言葉をぶちまけてしまった天音は……撤回しようにも時すでに遅しだった。聞き逃してくれたら……と些細な思いも、音湖の緩んだ表情を見た瞬間あっけなく崩れ落ちてしまった。


「ち、ちが……これは…………そのっ!」


 何とか言い訳をしなければと天音はあたふたする中────音湖はそんな天音を自分の胸の中にそっと抱きしめた。


「……やっと、言ってくれたにゃ。うちも全く同じ気持ちにゃ。もう、誰も死なせなくない。死なせる気もない。天音ちゃんにも、もちろん死んでなんか欲しくないにゃ」


「…………」


 天音はなぜか今は……今だけはその音湖の胸がうっとおしく感じなかった。むしろ、ほんの少し……心が暖かくなった。


「…………ごめんにゃ、天音ちゃん」


「………………いいですよ。あそこと戦うのに、これ以上喧嘩なんてしたくないですから」


 そっぽを向いて頬をかすかに桃色にしながらそう口にした天音を音湖は優しく撫でてあげた。


「……そっかにゃ。……それにしても、天音ちゃん強いにゃ。常時9割くらい本気出さないとヤバいのは……あの時のあっくんと、マスターくらいにしか出したことないかにゃ」


 こっちは必死だったのに……と、ムスッとしながら天音は胸に顔を埋めた。


「……そこそこ余裕が、とか余計だし、すっごく腹立つ……だったら今度は肋骨がへし折れるくらい胸を殴って……」


「あーやったら天音ちゃん間違いなくうちに殺されるからやめるにゃ、今のでも十分キレかけたにゃ」


 ちょいちょいと柔らかい双丘を人差し指でつっついている天音と、若干青筋を浮かべる音湖。お互いにお互いを見ていると……なんとなく笑いがこみ上げてきた、


「分かってますよ〜だ、……ふふっ」


「なーに笑って……にゃはっ」


 なぜか……本当になぜなのか、2人も知らずに笑っていた。結構な期間喧嘩していた気がするのに……すんなりと収まろうとしている事がなんだか可笑しくなったみたいだった。


「にゃはははははっ、あ〜なんかおっかしいにゃ。なんでこんな笑ってるのかにゃ〜」


「ふふふっ、ボクも分からないですよ……くすっ、あははははっ」


 もう、なんだかいいやとそんな気概で、2人の笑い声が誰もいない埠頭に響き渡った。……と、暫くして笑い疲れた音湖と天音は息を切らしていたが、その表情はお互いに満足そうな表情だった。


「……んじゃ、帰るかにゃ」


「はいっ!」


 パシンっ、と海風の音に2人のハイタッチの音が静かに響き渡る。その表情はもうお互いを信じている、そんな風だった。



 これが───元No.1とNo.2が元いた組織を潰すため、手をがっちりと組んだ瞬間。


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