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ゆりスナ! 〜引きこもりの少女はスナイパーを目指します!〜  作者: ミカサ
第6章 第2節〜もう1人のスナイパー〜
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変わるために、出来ること

「はい……了解しました。これで作戦は終わりですね」


 プツッと通信を切ると璃音は天音に全て終わったことを知らせると、真っ先に立ち上がり、自分の荷物だけ肩に担ぐと、ショットガンのスリングを肩に掛け直した。


「お姉様っ、じきに阿久津さんたちが来るので急いでいきましょう」


「うん……ね、璃音。少しだけ時間をくれない? ちょっとだけ……ね?」


「……ぁ。はいっ、分かりました」


 由莉をずっと見てきた璃音は天音が何をしたいかすぐに分かったようで笑顔で頷くと、ゆっくりと近くに座った。

 一方、天音もまた、見られない場所まで移動すると、まだほんのりと熱い自分の愛銃をぎゅっと抱きしめた。


(……やっと、ここまで来れたね。8ヶ月くらいかな……?待たせて……ごめんね。ゆりちゃんみたいなすごいスナイパーに使ってもらえたら良かったのに……けど、ついてきてくれて……ありがとうね)


 やっと自分たちも来た、由莉のいる場所に来たんだと、天音はつい頬を緩ませて、あの瞬間を思い出していた。


(あの光景を……ゆりちゃんは見てたんだ……敵が血をぶちまける瞬間を……)


 言葉には出さなかったが、天音の心には確かに快楽があった。なんの抵抗も許さず敵を殺せた、それが天音にはたまらなかったのだ。……いつまでもこうしていたいが、さすがに時間だと天音はケースにAWSをしまうと、肩に担ぎ直した。


「よしっ。璃音、行こっか」


「はいっ、お姉様っ」



 ────────────────




 由莉たちはそれぞれ車とバイクに別れ、天音達を回収に向かった。前もって連絡を入れていたので、到着する頃には既に物陰に潜む2人の姿はあった。


 キュッと、車とバイクが同時に到着すると、天瑠と由莉、今度は2人が同時に飛び出していく。大好きな2人の元へと。それとほぼ同時に天音と璃音も飛び出し、4人は同時に思いっきり抱き合った。


「みんな……お疲れさまっ。3人とも本当に頑張ったね! 璃音ちゃん、咄嗟にあの冷静な判断が出来たね。勝手に聞いちゃってたけど……璃音ちゃんほんっとすごかった!」


「ありがとうございます、由莉ちゃんっ!」


「天音ちゃんも、あの子で連射狙撃が実戦で出来るなら……私は師匠としても、もうあまり言うことはないかな。成長したね、天音ちゃん」


「ゆりちゃん、ありがとっ」


「さっきも話したけど……天瑠ちゃん。多分、今日の中で一番重要な所を抑えてくれて……本当にありがとうね。天瑠ちゃんがいなかったら、天音ちゃんと璃音ちゃんの頑張りが全部無駄になる所だった。助けに来てくれて、本当にありがとう!」


「どういたしましてっ」


 由莉からそれぞれ褒められた3人は3人とも嬉しそうに心の底から笑い、お互いに労いの言葉をかけあっていた。……と、これ以上ここにいる訳にもいかないと待っている阿久津の車に乗り込もう、そうしている3人のうち、1人の手を……天瑠は掴んだ。







「待ってくださいっ、お姉さま!」


「っ? どうしたの、天瑠?」


「音湖さんのバイクに乗るの代わってくれませんか?」


 そのお願いを聞いた天音は不思議そうな表情をしながら、真意を探った。音湖に嫌なことでもされたのか、もしくは……と。


「天瑠、何かあった? ……まさか、ねこさんに嫌なこと言われた?」


「違いますっ。お姉さま、いいからっ、乗ってください! ベルトと天瑠の銃は貸しますし、お姉さまの銃は天瑠が責任を持って預かるのでっ!」


「ちょ、ちょっと待てってば天瑠っ、押さないでって」


 天瑠はいつにない積極ぶりで天音を困惑させ、その混乱に乗じていつの間にか天音が音湖と一緒に帰ることになっていた。天音がやって来ると音湖は嬉しそうな……でもちょっとムスッとしてバイクを動かす準備に入っていた。


「天瑠……っ、後で……分かってるな?」


「……お姉さま、天瑠がこうした意味を考えてください。それからなら……天瑠はお姉さまの言うことはなんだって聞きます。罰だって何だって受けます。……じゃあ、お姉さま、また後で!」


 若干キレ気味の天音を天瑠はするりと抜けると阿久津の車へと駆けていった。その後ろ姿を、天音はただ不思議そうに見ていた。ここまで天瑠が自分に純粋に歯向かったのは初めてだったのだ。


(天瑠の……意味? いや、そう言われても分かるわけない。よりによって、このタイミングで……)


「……早く乗るにゃ。置いてくにゃんよ」


「…………」


 音湖のぶっきらぼうな言い草に天音はイライラしながら後ろに乗ると、天瑠に言われた通りにベルトを音湖と繋げ、嫌々、腕を音湖の腹に回すと、阿久津の車がエンジンを噴かせて出発するのと同タイミングで音湖たちも出発した。


「…………とりあえず、よくやったにゃ。なかなかの芸当だった、とでも言っとくにゃ」


「……そりゃどうも」


「……」


「……」


「…………」


「…………」


 ……会話が成立しない。お互い口を聞こうとはせず、天音は早々に家に着いて欲しいと思うようになった。



 ★★★★★★★★★★★★★


「やっぱり、そうだったんだ……」


「うん、音湖さんも……お姉さまと仲良くしたいけど……由莉ちゃんとお姉さまの間にあった事があるから……自分からは言えないみたいで……嫌われても、それでもいいから音湖さんは関係を持ちたかった、そう言ってたよ。天瑠は……お姉さまと音湖さんに仲直りして欲しい……そんな理由で喧嘩してる2人を……見たくない……っ!」


 車の中に乗り込んできた天瑠に由莉と璃音は事情を聞くと、想像していた通りの想いを音湖も持っていたことにホッとしていた。音湖も天音も本当はこんな事したくなかったのだ。そして、その取り次ぎをなんとかしようと頑張った天瑠を由莉も璃音も本当にすごい、としか言いようがなかった。

 だが……やはり、最後に解決しなければならないのは……天音自身であることは確かだった。


「お姉様と音湖さん……仲良く出来ればいいんだけど……多分、お姉様から切り出さないと、音湖さんは……」


「……そこは天音ちゃん次第だと思うよ。自分の気持ちに素直になれたら……きっと、」



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



(天瑠……なんでボクをこっちに乗せたの? 確かに……気持ちいいけどさ……すごい気持ちいいよ? けど……)


 天音は音湖にしがみつき、風を感じながら、ずっとその理由を考え続けていた。あの時の天瑠が見せた真剣な目は……確実に何かを訴えていた。


『……お姉さま、天瑠がこうした意味を考えてください』


(ボクに……何をさせようとしているの? ねこさんと……ねこさん……と……、えっ? もしかして……いや、でも……元はと言えば、ねこさんが悪いんだ。なんでボクが先に……っ)


 天音は暫く考えて、天瑠の言おうとした事が何となく分かった。けど……天音は先に何か言う、なんて事は出来なかった。だが、それは音湖もほとんど同様の気持ちを抱いていた。


(天音ちゃん……うちは……自分からは出来ないにゃ。その資格がうちにはないのにゃ……だけど……あそこと戦うのなら……協力は必要なのにゃ)


 黒雨組とやるなら……覚悟をしなければならない。みんなが、ただの1人の犠牲も許さず、決着をつけるなら……各々が出せる限界まで力を高め、全体で息を完璧に合わせなければならない、音湖はそう考えていた。


 じゃなかったら……近接戦闘組の誰かが死ぬ事になる。自分か天瑠か天音か……場合によっては阿久津やマスターまで含めた中で犠牲が出る。

 今の音湖にはそれは何があろうと避けたい事実だった。だからこそ、黒雨組・元No.1&元No.2である音湖と天音は協力は必須だった。


(だったら……やる事は1つにゃ)


「っ!!」


 音湖は一旦ブレーキを踏み、阿久津の車を後ろから回り込むようにして、阿久津が運転している側まで移動すると、阿久津に合図を送ると、窓を開けた阿久津が首を傾げた。


「どうしましたか?」


「ちょっと2人で行くとこあるから、遅れるかもにゃ」


「そうですか。なるべく早めに帰ってきてくださいね」


「りょーかいにゃ〜」


 淡々と、スムーズに進んでいく会話に天音は音湖に口を出すタイミングを見失ってしまう。そしてやっとの思いで聞こうとすれば、その時……既に遅しだった。


「いったい、なにを────」


「んじゃ、行ってくる……にゃっ!」


 音湖はバイクのギアを上げ、思いっきりアクセルを踏み抜き、爆発的なエンジン音を唸らせ、一気に加速した!


「きゃ!? 急に……スピードをあげるなぁぁぁぁーー!!!」


 慣性の法則に体ごと引っ張られ、天音は可愛らしい女の子の悲鳴を上げ、そんな中を音湖のバイクは疾風のごとく、道路を駆け抜けていった。


 そして……音湖たちがたどり着いたのは……埠頭。人っ子1人いない、その場所で音湖はバイクを止める。その時には、天音は困惑とイライラで鋭い視線を音湖に向けていた。


「……なんで、ここに来たの」


「簡単な話にゃ。」














「天音ちゃん、うちと戦うにゃ」


 月光の下で髪の毛が海風に揺られ、その中にいる音湖の瞳は……本気だった。


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