???の覚醒 序章
「……おねがいがあります」
「…………いいでしょう。好きにしていいですよ」
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時は流れ───12月24日
この日は言わずと知れたクリスマスだ。そして、雪の降るタイミングが見事に合ってホワイトクリスマスとなっていた。
「えりかちゃんっ、外行こうよっ!」
「ま、まってよぉ〜さむい……ブルブル」
そして、扉の前で長袖長ズボンのジャージを身にまとった少女たちが手袋を嵌めようと躍起になっている。
理由なんて1つくらいだろう。
「じゃあ、えりかちゃん! 勝負だよ!」
「ゆりちゃんはしゃぎすぎだよ〜っ。でもっ、負けないんだから!」
手袋をはめた2人は同時に家から飛び出す。そのまま由莉は左に、えりかは右に分かれると急いで丸い塊を次々に精製する。
「そ〜れっ!」
「おっと、お返しだよっ!」
かけ声とは合わない球速の雪玉が由莉を襲うも、それを体を左にひねることで回避、そこから左方に一回転しながら由莉は2つの雪玉をえりかに向かって投げる。
「っと!」
えりかはそれを2つの雪玉をぶつける事で相殺すると、由莉に向かって山なりに雪玉を投げた。
「そんなんじゃ当たらない…………!?」
「どうかなっ」
由莉は油断してその雪玉の軌道を目で追ってしまった。それが仇となり飛んできたもう1つの雪玉に対処しきれずそのまま顔面にヒットしてしまった。
「わぁ!?」
「よしっ、かった!」
「むぅ……えりかちゃんの雪玉速すぎるよ……」
冷たさと痛みが重なり思わず目を閉じる由莉を見て、えりかは勝てたと思いっきりガッツポーズした。
「これで20回やって15回わたしのかちかな?」
「うぅ、うまく勝てないよぉ……」
「うーん……ゆりちゃんって、せめた時にすきがあるからだと思うよ?」
「……あっ、そうかも……」
えりかに自分で気づけない弱点を教えてもらい少しだけ照れるように由莉は頬を赤らめた。由莉も振り返ってみれば、たまにえりかに負ける時は必ず自分から攻めに行った時だと言うことにもハッとなって気づいたのだ。
そんなこんなではしゃぐこと30分、えりかは阿久津に夜ご飯の手伝いを頼まれていたので一旦由莉と分かれるとキッキンへと向かった。
すると、既に阿久津は材料を揃えて待ってくれていた。
「さて、えりかさん。今日はたくさん作るので気合を入れてくださいね?」
「はいっ!」
気合をいれようとパチッと頬を叩くえりかを微笑ましそうに見ていた阿久津だが、ふと思い出すかのように引き出しの中から1つの箱を持ち出した。
漆塗りの黒色の箱に1輪の青い花が拵えられた───えりかから見てもすごいものだと言うことがすぐに分かった。
「と、行きたい所ですが、その前にえりかさんに渡したいものがあります」
「……? これ……は?」
えりかは震える手で受け取ったえりかはその箱を開けると───そこには3本の包丁があった。
「クリスマスですしね。最近は毎日のようにえりかさんには手伝って貰ってますし、そのお礼も兼ねてですよ」
「…………すごい、です」
そんな言葉しか出てこなかった。
左から、肉を切るための牛刀、魚を切るための出刃包丁、野菜を切るための菜切包丁───どれも間違いなく1級品である事は間違いない。
息を飲みながらえりかは牛刀を手に取ると、不思議なくらい手に馴染んだ。まるで、今までずっと使ってきたような……そんな感覚だった。
「えりかさんの手の大きさに合ったサイズに柄は調整しました。よければ使ってください」
「……はい……っ!ありがとうございます、あくつさん……っ」
涙が瞼からあふれるとポタリと頬を離れ、床に跳ねた。嬉しくて……たまらなかったのだ。胸が暖かくて……とても……。
「さて……えりかさん、そろそろ始めましょう。今日はえりかさんにもたくさん動いて貰いますから覚悟してくださいね?」
「……っ、がんばります! ぜったい……おいしいものを作ってみせます!」
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由莉と音湖がやってくる頃には万端の用意が出来ていた。
ローストチキンに、バラの花のように飾られたマグロの刺身、色とりどりの野菜で作られたサラダ、ジューシーに焼かれたサーモンの卵乗せ、更にはビーフシチューまで────
「あっ、ゆりちゃ〜ん! こっちこっち!」
「うわぁ〜いい匂いだよ〜。お腹空いたよ〜」
「2人でこの量を作るのは……すごいにゃ」
後ろで手を組んでにっこり笑っているえりかが由莉は愛おしくてたまらなかった。いつまでも一緒にいたくなって……思わず抱きついてしまう。
「えりかちゃんすごいよ〜!本当にすごい!」
「えへへっ、食べて食べてっ!」
そう言われた由莉はすぐにえりかから離れると椅子に座った。それにつられるように他の3人も座ると揃った声で『いただきます!』と口にすると、食べて食べて食べまくった。どれも美味しくてほっぺたがとろけ落ちそうなくらいだった。まさしく幸せの味そのものだった。
「おいしいな〜っ。えりかちゃんと阿久津さん本当にすごいよ!」
「もぐもぐ……大好きなゆりちゃんのためだもんっ。おいしいごはんを食べてほしいし……」
「もうっ、えりかちゃん本当に可愛いな〜〜」
褒めるように由莉はえりかの頭を撫でると、唐突だったせいでピクっと体を跳ねさせたがすぐに気持ちよさそうに撫でる感触を味わっていた。
「ゆりちゃんになでられるの気持ちいいな〜本当に……ずっとなでて欲しいよ」
「……うんっ。これからも、ずーっと一緒にいられるんだからね? 撫でて欲しいなら言ってくれれば好きなだけ……ねっ。でも、今はご飯食べよっ? 冷めちゃったら悪いし……」
「うんっ!」
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そうして、堪能しながら食べているとあんなにたくさんあった料理の数々が皿を残して全部空になってしまった。4人とも、満腹でたいそう満足していた。
「にゃあ〜〜もうお腹いっぱいにゃ……ごちそうさまだにゃ」
「お粗末さまでした。皿を運ぶのは手伝ってくださいね? …………あっ、それと1つ朗報です」
そんな中、阿久津はふと思い出したかのように立つのをやめると、自分も少し嬉しそうにしながら由莉が待ち望んでいた事を話した。
「明日、マスターが帰ってきますよ。今日の昼頃に連絡がありましたので間違いないです」
「!? ほんとですか!!??」
「にゃっ、あの方が帰ってくるのかにゃ?」
由莉は目をキラキラと輝かせて、音湖は緊張と驚きの表情を阿久津に向けていた。
「そうですよ。……4ヶ月もかかるなんてマスターにしては珍しいですが、ともかく無事みたいですよ? そうですね……昼頃には帰ってくると思いますよ」
「やっと……マスターに会える……!」
「久しぶりにあの方と会うにゃ……ちょっと緊張しなくもないにゃ」
由莉と阿久津と音湖、それぞれがそれぞれの想いでいる中、えりかは浮いてしまっていた。一度も会ったことがないのだから無理もない。だけど、由莉がそんなに喜んでいるのだからすごい人なんだろうと会うのが少し楽しみになった。
(どんなひとなんだろう……やさしいひとなのかな)
そんなえりかを由莉は放っておくわけもなく、さっと立ち上がると後ろからぎゅっと抱きしめた。
「マスターならえりかちゃんの事もきっと気に入ってくれるよ! マスターはとっても優しい人だから好きになるはずだよっ」
「わかったっ」
由莉の優しさが背中越しに伝わってきて、安心できた。由莉の言葉なら信じられるとえりかも安心しきった表情をしていた。
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食器片付けが終わると2人は仲良く手を繋いで部屋に帰るとそのままベットに入ると1つの毛布の下で抱きつくようにしながら眠りに付いたのだった。
…………
……………………
『こいつを殺したいんだろ?』
これは……だれの記憶?
『あぁ、そうだ。こいつを殺さないと……ダメなんだよ。絶対に』
…………だれ?
『……好きにしろ。だが、勝手な真似は許さん。いいな?』
『わーかったよ。あんたの命令は受ける。その通りにぶっ殺せばいいんだろ?』
『それでいい。それさえすれば後はどうでもいい』
『……あっそ。じゃあな』
わたしに似てるけど……でも、こんなのわたしじゃ…………
『いつか……仇をとってやる……絶対に!!!』
だれ……なの? うっ、あたまがいたい……っ。われそっ……ううぅう……っ!!
がぁあああっ………あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!




