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ゆりスナ! 〜引きこもりの少女はスナイパーを目指します!〜  作者: ミカサ
第5章 第6節 大羽由莉の死
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音湖の死

 ―――おぼえて……ない? 音湖さんのナイフが心臓に刺さる寸前……私は何をしたの?


 何かとんでもない事に気づいた気がした。由莉の記憶は刺さる直前からえりかの腕に抱かれている所までの間すっぽりと消えてしまっていた。


 ―――この間に……何かあった。私にも……音湖さんにも。腕の傷は……多分、私が庇おうとしてかばいきれなくてついた傷だよね。でも…………うっ、何があったのか分からない……けど、その後に音湖さんは殺そうとしなくなった。えりかちゃんが銃を持って来る間にも殺せる機会はあったはず…………じゃあ、『音湖さんは何かを分かったから殺すのをやめた?』そもそも『本当に殺す気で何かを確かめようとした?』


 由莉が頭の脳細胞を駆使しまくって出した結論だった。合点の行く答えだと思ってはみたが……自分に都合が良すぎる気もした。そんな思考に入っている内にすっかり周りの音が聞こえなくなっていて


「―――ちゃん、ゆりちゃん?」


「っ! ご、ごめん……少しぼーっとしちゃってた……」


「血が出ちゃってるから……かな? 早く止めないと……けど……どうしよう」


 由莉もあまり見ないようにしてたが、自分のジャージが紺から紫になるくらいの血を出していた。ちょっと寒いが、それまでだから取り敢えずホッとひと安心していたが、階段の上の方から誰かが降りてくる音が聞こえ、動けない由莉を庇うようにえりかはサッと身構え持っている拳銃を強く握りしめた。


「えりかちゃん……多分この音は阿久津さんだよ。だからそんなに警戒しなくてもいいと思うよ……?」


「う、うん……少しあせっちゃった……人に銃を向けようなんてあまり考えちゃだめだよね……」


 えりかは少しだけ浅はかだったと念のためにマガジンを引き抜いてポケットにしまい、役目を失った本体をホルスターにしまうと阿久津が来るのを待った。


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「……由莉さん怪我してますね。見せてください」


 阿久津はえりかの不安の元であった由莉の傷をまるで知っていたかのように治療セットを持ってきていた。由莉の切り裂かれた腕を急いで消毒と止血をすると、包帯で真っ赤な患部をしっかり包んであげた。相も変わらずその手際の良さは2人には目を見張るものがあった。


「阿久津さん、ありがとうございます……」


「いえいえ、気にしないでください。……さて、何があったんですか?」


 阿久津は予想以上に由莉の様子が安定していることに驚きつつ、自身を本当の戦いの中に投じた。絶対にえりかに悟られてはいけない、本心を由莉にだけ伝えるように―――


「―――ということです。これであってるよね、えりかちゃん?」


「……うん。……ねこさんはどうなりましたか?」


「…………………………」


 一通り話をした由莉に連なるようにえりかは音湖の事を聞くと阿久津は一気に深刻そうな表情へと一変させた。この様子はえりかは初めて見る表情で変なもやもやが心の中に渦めいた。


「ねこは……もう長くないでしょう」


「…………ぇ?」

「……っ」


「2人には今から少し見てもらいたいものがあります……ついてきてください」


 信じられないと、2人はふらふらになりながら立つと階段の所まで行った。そこには……2段に1段は落ちている赤い痕がずっと続いていた。登っても登ってもその痕は無くならなかった。


「……えりかさんに撃たれた部分が出血させるには十分な箇所に当たっていて……私が見つけた時には出血性ショックを起こしかけていて……」


「う、そ……」


「……どういう事なの? ゆりちゃん、それってなんなの!?」


 信じられないと言わんばかりに叫ぶえりかに由莉はその事について細い声で説明した。


「出血性ショック……体から血が減ることでなるんだけど……1L、コップ5杯くらいの血を失うと……そのまま死んじゃう……」


「……じゃあ……本当にねこさんは、」


「手当てをしようにも……もう手遅れでねこは『死に場所は決めさせてほしい』と言って出ていきました……」


 握り拳を震わせ俯きながら話す阿久津の言葉は階段の血痕と合わさってえりかを信頼させるには事足りていた。その事実と向き合わなければならなかった。


「わたしが……ねこさんを殺した……わたしが……殺したんだ……」


 えりか自身後悔はしていない。由莉を殺そうとしたんだから当然だという思いが思考の大部分を占領し、初めて人を殺した感覚に自分を浸らせていた。


「…………っ」


 阿久津やえりかが黙って俯く中で由莉だけはどうしても腑に落ちずにいた。未だに音湖が死んだかもという阿久津の言葉を信じることが出来なかった。


 ―――音湖さん……嘘だよね? 死んだなんて……っ、まだ何も聞いてないよ……? どうしてこんな事をしようと思ったのか……聞いてからじゃないと……こんな別れの仕方って、そんなのないよ……っ! 阿久津さん……っ


「…………」


 阿久津はえりかが自分の世界に入っていったのを視認すると由莉の方を一瞬チラッとみると由莉と完全に目が合った。阿久津には今の由莉にならばこれだけで伝わる自信があった。後で由莉を呼び出すのも一つの手だ。だが、この場で片付けなければいけない気がしたのだ。

 そういう由莉は阿久津の目を見てその目に悲しさが残ってない……何かが届いて欲しいと言ってるように由莉には見えて目をほんの少し見開いた。


 ―――っ!? ……やっぱり阿久津さんは……何かを隠している。多分だけど……音湖さんはまだ死んでいない。でも、なんで……? えりかちゃんに音湖さんが死んだって言って、私にはそうは言ってないように聞こえるよ……


 由莉はその狙いを聞きたくてたまらなかったが、阿久津にも何か狙いがあってこんな回りくどい事をしているんだと感じた由莉は渋々ではあったがその場では同じように黙っていたのだった―――



 ★★★★★★★★★★★★★★★★★


 ……その様子に阿久津は心の中で驚嘆と満足で充たされていた。


(由莉さん、よくこれだけで異変に気が付きましたね。本当に頭の回転が早くて私も舌を巻きそうです。少し心配でしたが……これでねこがやった事も一時期は収まるかもしれません。さて……ここからですよ、ねこ。次のねこの行動で2人との、これからの関係が全て決まります。仲間内でギクシャクは……私自身が経験してますし、そうなって欲しくないものです)


 そんな思いも内に秘めながら由莉とえりかを連れて地下室から出るのだった―――

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