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えりかの戦い



 〜その頃、えりかと女の子〜


 由莉と別れた二人は道無き道を必死に走っていた。少しでも由莉が無事に逃げられるように、負担にならないように、自分たちのMAXスピードで走っていた。


「だいじょうぶ? 走っててきつくない?」


「はぁ……はぁ、大丈夫……です。でも、あの子が私たちのために……」


 自分を連れ去った男達を食い止めるために一人残った由莉を心配していたが、えりかはその女の子の手をぎゅっと握った。


「ゆりちゃんはあんな人たちに負けないよ。だから、わたしたちはにげることだけ考えよ?」


「は、はい……」


 今はとりあえず逃げよう。そう女の子も思いつつ走っていた、その時、ある異変に気がついた。


「あれ?……あの……えりか、さん?」


「さんじゃなくて、『えりかちゃん』って呼んでいいんだよ?」


「じゃあ、えりかちゃん……さっきあの場に何人いたか分かります?」


 何故か普通の事を聞くその子にえりかは不思議に思いながらも、「5人だよ?」と言うとその子の顔がサッと青ざめた。


「おかしい……私を誘拐しようとした男の人たちは……『6人』いたはずなんです」


「えっ……?あと一人は……っ、あぶない!」


 木影からその子にゆらりと伸びた手を躱すように、えりかはその子ごと引き倒し難を逃れた。


「おいおい、逃げんじゃねーよ? ふひひっ、大人しくしていれば何もしなかったのによぉ〜」


「……っ!」


 いち早く体勢を立て直したえりかがその木の方を見ると、金色のモヒカン頭の男が豚のような声を漏らしながら二人に近づいてきた。


「どうしたの、お兄さん? わたしたち早く戻りたいんだけど……」


「んなわけにもいかないんだよねぇ〜、大人しく捕まってくれれば痛いようにしないから、な?」


(あの男の人の手についているあれが武器……なのかな)


 男の右拳には……いわゆるメリケンと言われるものがついていた。当たれば確実に怪我するとえりかも何となく察しがついた。


(やるしか……ないのかな? でも、素手の戦いなんてやった事ないよ……)


 素直に言ってしまえばえりかは怖かった。もし、自分が人殺しだとしてもその記憶を忘れた状態、しかも、素手に対して相手は武器あり、身長差も力の強さも桁が違う。


 そんな状態でこの子を守りきれるのか―――


(……っ、だめ、こんな弱気じゃ……ゆりちゃんの横になんて立てない。信じて任せてくれたゆりちゃんの期待を裏切るなんて……死んじゃった方がまだいいよ……っ!)


 今、この子を守れるのは自分だけ、ゆりちゃんが助けたいと願ったこの子を………っ、そう思うとえりかは力が漲ってきた。


「ごめんなさい、それは出来ないので先に行かせてください」


「あぁ、そっかぁ〜じゃあ……死ねぇ〜!ひゃっは〜!!」


 奇声を発しながら殴りかかる男の手首を何とか抑えるも数秒ともたないと感じたえりかはその女の子に逃げるように伝えた。


「っ、先ににげて! もう、すぐそこだから一人でも行けるよ」


「で、でもっ! えりかちゃんまで……」


「だいじょうぶだよ……っ、わたしも……すぐに追いつくから……っ早く!」


 耐える限界が来て早く行くように叫ぶえりかの気迫に押されその子は脱兎のごとく横を駆け抜けようとした。


「人質を逃がすほど甘くないよぉ〜♪」


「させ……ないっ!」


 振り放して行こうとする男をえりかは必死に食らいつき、なんとかその女の子が見えなくなるまで耐えきった。


「ちっ、そういう邪魔されると女だろうとぶっ殺したくなるんだよなぁ〜!」


「ひゃっ!? くぅぅ……っ」


 堪忍袋の緒が切れた男はデタラメな力でえりかを近くの木まで吹っ飛ばした。えりかは背中を打ち身する直前に身体を捻り、なんとか行動不能の事態を避けるも、それでも左半身にダメージを負ってしまった。


(どうしよう……この人を倒すか、逃げないと……っ、でもまだあの子が逃げ切れてなかったら……っ。やるしかない……ここで防がないと……っ!)


 僅かに痛みはあるが骨が折れてなさそうだと判断したえりかはもう一度立ち上がり男と対峙した。


「あの子は……絶対に、助ける……っ」


 ―――ゆりちゃんがそう願うのならわたしはその願いを叶えるために……!


「……あーもういいや、やっぱりあのガキを探すの辞めて……お前をズタズタに引き裂いてやるよぉ〜その方が何だか楽しそうだしぃ〜ふぅぅ〜!!!」


まともにやりあって勝てないと判断したえりかは、その女の子が逃げ切れそうな時間を稼ぐため、決死の防衛戦をする事を心に決め、迫る狂人の拳を待ち構えるのだった。




 ―――たった一人の女の子を助けるため


 由莉は1対3の数量違いの戦いを


 えりかは狂人とタイマンを張る


 ―――それが彼女達の願い




 マスターが阿久津にしたように、


 マスターたちが由莉にしたように、


 由莉がえりかにしたように、


 そして今、由莉とえりかがまさにやろうとしている……





『誰かを救う』ということなのだから。




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