スキュータム号への合流。
「飛びますか?」
「そうだね、練習がてら飛ぶか」
ヴァンスを退けた俺とファンはドームの外に出てきていた。
魔法が使えれば飛ぶこともできる。知識としてそれはあるのだが、実際にできるかは別なんだよな。
さっそく、全身を魔力で包んで、下方に魔力を放出するイメージを思い浮かべる。
……なるほど、浮いた。浮いたが、出力の調整が難しいな。少し練習が必要そうだ。高いところは苦手なんだよなぁ。大丈夫かなぁ。
……十分程の後。
「わー! すごいですね! さっきの一撃も初めての魔法とは思えませんでしたし、すごいですね」
「なんだか、体が勝手に動いてるような気がするんだけどね」
「先ほどから精霊魔法を中心に使ってますね。たぶん助けられてるんですよ」
「そういうことか」
「じゃあ、記念館まで一気にいきましょうか」
「頑張ってついて行くよ。目立たないように迂回していった方がいいんじゃないかな」
「そうですね。じゃあ宇宙港の裏から行きましょう」
「オーケー」
ファンは黒髪のショートで活発な女の子だった。二十歳前後だろうか。師匠を尊敬し、それでいて師匠を弟のような扱いをしているがそれは好意からのことなのが感じ取れた。
そんな彼女が今の状況を受け止めて強く前を向いている……ようには思えない。不自然な元気というよりも現実を受け止めていないような気配すら感じる。
――――しばらく飛んでいると、宇宙港の周りに人が集まっている様子が見えてきた。一万人とは言わないが数千人はいるだろう。
「ルーク! 宇宙港にフィンとフォンの魔力を感じます」
「エドガーの弟子の二人だね。無事だったんだ、よかった。どうする?」
「合流しても、いいですか?」
「あぁ、その方がいいと思うよ。心配してるだろうし」
「じゃあ、行きましょう!」
ファンは方向転換と同時に急降下していった。俺も後に続く。向かっているのは宇宙港の端にある埠頭だった。
「あの埠頭に私たちの降下艇があります。フィンとフォンもいるとすればそこだと思います」
「なるほど、確かに魔力を感じるけど俺にも詳細な場所はわからないな。ところで、あまり大きい船は見当たらないみたいだね」
「宇宙港には基本的に降下艇サイズの宇宙船しか立ち寄らないんです。大型艦は出力が大きいから惑星大気に影響を及ぼしてしまいますから、大型艦は周回軌道で待機して、降下艇で地表に降ります。私達の降下艇は五人乗りの小さなものですが、大きいものでも百m程度で、二百人程度乗れるはずです」
埠頭に近づくと、降下艇の横に二人の人影が見えた。フィンとフォンだろう。ファンのスピードが上がった。
「フィン! フォン!」
サッと着地したファンが二人に駆け寄っていく。俺は着地に手間取っていた。初めてなんだから仕方ない。不甲斐ない自分に言い聞かせた。
「転移後にいなくて心配したぞ。どうしたんだ」
「無事でよかった~。ファンなら無事だと思ってたよ~」
「エドガーのところへ戻ったの。……間に合わなかった」
二人はファンの言葉を聞いて表情が暗くなった。
「やっぱりそんなところだと思った。エドガーの力の喪失はこちらでも感じていた。そして、新たな力が他に宿ったのもな」
「それじゃあ、あの人が継承者なの~?」
「そう、紹介するね。あの人が大賢者の力を受け継いだルーク。さっき四将軍の一人を倒したんだよ。本物だよ」
二人はファンの言葉を聞いて予感が事実となってそれでも受けいれているようだった。
着地に成功した俺は三人のところへ歩いて行く。
フィンは黒髪の長身、いかにも紳士な高潔な雰囲気の男だった。そしてフォンは、おっとりとした印象にフワッとした金髪のロングがかわいらしい印象で、あぁなるほど、巨乳が好きという師匠の弟子であるな、という印象であった。
「初めまして。エドガーのことは、何もできず、すみませんでした」
「いや、いいんです。それは仕方がないです。………だが、なぜあんたみたいな人に力が」
「そんな言い方よくないよ~」
「そう言われても俺にもわからないですよ」
「エドガーが言うには、”アデヴィスの魔力に巻き込まれてこの宇宙に引き込まれた者”らしいのよ。エドガーはこの時のことも話してくれてたじゃない。自分の力は弟子には継承しない。魔法の修業を続けてきたお前たちに力を渡せばお前たちの努力が無駄のように感じてしまうだろうし、それに、強い力をもったヤツがもう一人増えたほうが役に立つだろう、って」
「つまり異世界人? ……それが決め手なのか? いや、だが……魔力に巻き込まれて引きずり込まれて無事ということは、そもそも力を持っていたということなのでは………?」
「俺の世界には魔法はありませんでした。よくわからないんですよ。気づいたらこの星に」
「うーん………すみません。少し感情的になってしまったようです」
「仲良くしよ~! ねっ!」
エドガーの弟子たちと無事に合流できて一安心したところで、軍人たちと合流して脱出しようという話には彼らも賛成してくれたが、さてどうやって合流したらいいものか。彼らは無事に記念館についているんだろうか。
「今の宇宙港の状況ですが、およそ一万人が脱出しようとしています。俺たちと転移してきた人たちも他の埠頭にそれぞれ分かれています」
「でもね~軌道上にある大型客船も五千人しか収容できなくてね~困ってるんだよ~」
「そうです。それにまだ三千人程度しか客船には乗れていないのです。全員が乗れないとみんな気づいてるから、あちこちで揉めています」
「スキュータム号に残りを乗せることはできませんか?」
「うーん。戦艦の構造がわからないのでなんとも言えませんが、全員は無理だと思いますよ」
「私達の船が軌道上にありますが、それでも十人か二十人か、それくらいです」
「カジャイム号にはそんなに食糧がないですよ~」
「うーん、情報不足だ。とりあえず、ここにいても仕方ないですしスキュータム号に向かいましょう」
――その時、再び光が地面に降り注ぎ、大地を震わせた。
「始まったみたいですね。時間はなさそうです。みなさんの降下艇で記念館まで行きましょう」
「わかりました。さあ、みんな行くぞ!」
降下艇は、五人乗りの小さなものだが荷電粒子砲を一門搭載したちょっとした戦闘艇だった。フィンが操縦して離陸する。かなりの速度だ。あっという間に記念館上空に到着した。
屋上の吹き抜けからスキュータム号が見える。
「吹き抜けから直接降りましょう。フィンさん、行けますか?」
「大丈夫です。行きましょう」
「フィンがんばって~」
「フィンは操縦うまいんですよ、安心して大丈夫ですよ」
敵の攻撃が記念館の外壁に直撃し黒煙が上がった。それを横目に降下艇は真っ逆さまに、そのままスキュータム号の直上へ急降下を開始した。
「――っ!!」
操縦がうまいとかそういう問題ではなく、この急降下はジェットコースターよりスリリングだった。