彼女と僕の関係Ⅱ
そんな言葉で締め括られた約四千字の文章を僕に手渡した日から、彼女は学校に来なくなった。空席となった図書委員の席を誰が埋め合わせたのか、僕はそれを知る術が無いし、図書室へ足を運ぶ理由も無くなった。やるべきことは図書室でなくとも出来るのだから。そして、僕も何かの糸が切れたように学校へは行かなくなった。それが彼女に釣られてなのか、そうでないのかは分からなかった。けれど、彼女が何らかのトリガーだったことは確かだった。
僕の話をしようと思う。いや、僕と彼女の話をしようと思う。
ずっと恋をしていた。彼女がフラッシュ暗算の塾に通う以前から、僕は彼女を知っていた。それは小学校の入学式に彼女が、彼女の母親らしき人と一緒にパイプ椅子の並んだ体育館の、一番右端の後ろから二列目の席に座った時から、僕は彼女を知っている。彼女を追っていた。その美しさの虜だった。そして、その美しさに、僕は近寄れなかった。追い着けなかった。遠すぎるその距離を、縮めることが出来なかった。
しかし、僕はそれを埋め合わせる努力をして来た。彼女に少しでも近付くために、彼女に触れられる距離まで、僕が行き着くために、僕は努力をして来た。読みたくも無い小難しい本を読み漁って、知りたくもない知識で武装し続けて、いつのまにか自分の立っている位置さえ、良く分からないところまで来てしまった。
何かになりたいわけでも無くて、何処かに行きたいわけでも無かった。ただ、単純に、彼女を見ていたいだけだったのかもしれない。
しかし、あの日の、あの昼休みの、僕が彼女に関わり合いながら生きることを決められてしまった昼下がりの、あの瞬間に、僕と彼女は、死んだのだ。




