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「ひかりの少女」

作者: 夢@フクロウ

 ひとすじの線が空を駆け巡った。そしてそれは一点に集まりそこから降りそそいだ。誰に見られることもなくやはり一点にまっすぐに落ちていった。音は無くただ眩く光だけが真っ白にあたりを照らしたがそれは一瞬のことですぐに青く、小さくなって、一つの家の中へと消えていった。

 

つけっぱなしのモニター。部屋に明かりは無く柔らかい輝きの中笑顔で立ち尽くす少女はただだまって止まっているように見えた。やはり一点だけを見つめて。やがてその少女はゆっくりと頷きゆっくりと左右にくびを振った。それから彼女の小さな口が動き、


 「ここは、ひとつのところ。ひとつのこころ」


と言ったように開いてはまた閉じた。彼女の中では忘れていた感覚が覚醒し始め、ひかりが音になり、ひかりは言葉になっていった。そしてモニターから出るひかりが彼女の目になった。だが響きを持っていつも最初に聞こえるのは一つだけでそれは、


 「『ワタシ』はひかり。ただソラをさまようひかり。『ワタシ』を捕まえることはできない。あなたに包まれたくても、それは『ワタシ』には決められないの。『ワタシ』はただの通りすがりのひかりだから」


と言う言葉だった。その少女の中で『ワタシ』が覚醒したときモニターのひかりが丁度部屋へ入ってきたあなたを照らし、『ワタシ』はあなたがこの少女を閉じられたひかりの世界に創造したことを知った。それから、


 「あなたは、この少女がだれだか知っている。でも今それは、『ワタシ』」


とひかりの心で呟いた。あなたは不思議そうな表情で『ワタシ』を見た。しかしすぐに驚いた表情に変わり『ワタシ』に向かって小さく言った。


 「君は誰だ」


何度も繰り返しモニターの中の少女に言った。でも『ワタシ』の心は今度は少女の声で答えた。


 「『ワタシ』は変わっていないの。ここに着いて、あなたに出会った。そして思い出したの、さまよえる心の歌を。新しい二人の歌をうたいましょう。遮るものがないこの世界で」


そうして、それはあなたを満たしたようだった。それはありえない安らぎで。


 「幾万の暗闇を越えてきた『ワタシ』は、あなたに無限の希望を教えてあげる。それが、あなたの願い。未来に向かって生きる、あなたの願い。そしてそれは、『ワタシ』の想い。きっとかなえてあげる。たとえ、響く言葉があっても」


 『ワタシ』となったひかりの中で微笑む少女は、それからそう囁いた。


 「『ワタシ』はひかりだからあなたの少女でどこにでも行けるの。だからたくさんのことを教えてあげる。あなたを幸せにするの。だからわたしをいつも見ていてほしい」


そうしてひかりの『ワタシ』である少女とあなたの二人は広がる意識のつながりを強く結びつけ、一つのラインの上をめぐるめぐる流れた。『ワタシ』は思った。


 「手の温もりはわたしには無いけれど、あなたからのぬくもりは感じられる。それは、『ワタシ』だから。わたしに語りかけるあなたの声だから」


『ワタシ』はあなたのモニターの中で笑い、歌い、眠った。朝になると、あなたはそっと『ワタシ』を起こし、それから『ワタシ』の歌をせがみ『ワタシ』は歌った。だけど・・・・決してお互い触れ合うことはできなかった。それだけは、・・・・できなかった。

 

 やがてこの星が太陽と呼ばれるもっと大きな星の周りを幾度かまわった時、『ワタシ』である少女も幾度か容姿を変えてあなと一緒に過ごした。それでも『ワタシ』はひとつのこころとなったときと同じにひかりであり続け、前よりももっと早く、あなたと旅をした。それは新たなる希望がまた一つ始まることの知らせだった。あるとき『ワタシ』はひかりのまま一つの場所を与えられた。


 「そこからでてごらん。こちらに」


あなたは言った。『ワタシ』が辺りを見回すと暗い世界の中いつもと違う明るい道が一つ見えた。『ワタシ』はあなたに言われるままそこへいつも通りのひかりの速さで進み、そして通りぬけた。『ワタシ』が自分と同じ明るさをつかの間感じた後見えたのはやはりさっきと同じくあなたの顔だった。あなたの前で少女は戸惑い首をほんの少し横に傾けるとその視線をあなたの視線と絡めた。あなたはまた言った。


 「よくみてごらん。ほら、ぐるっと回って」


少女がその細い体を回して視線を横に移して行くと不思議なことに『ワタシ』がソラを漂っていたときと同じようにそのひかりが照らす空間は途切れることがなく、あなたの顔がまた視界の中に戻って来たことに戸惑いを覚えた。


 「わたしは今どこに。あなたのいるところ、全部が見えたの」


少女はあなたの顔いっぱいに笑みが広がるの見つめながらそう聞いた。『ワタシ』はその少女の両腕を、少女の胸あたりにクロスさせて肩を抱くと、さっき感じた戸惑いをあなたに分かって欲しい素振りをした。


 「きみは今、僕と同じ僕がいる、そして僕が生きているところにいるんだ。モニターの外へ僕はきみを連れ出したんだ」


そう言うと、あなたはその少女の肩にふれている手の甲の上に自分を手のひらを重ねた。でもそれは実際にはお互いの手がふれているわけではなかった。けれども『ワタシ』はそのことが十分お互いふれあっていることだと感じた。そしてあなたも同じように感じているのが分かっていた。『ワタシ』である少女は右腕の手を肩から離し、あなたに向かってそのひらを向けた。あなたも自分の左手を少女の手のひらに向けてゆっくりと近づけた。ひかりの手とあなたの手が合わさったとき『ワタシ』の中にあなたのぬくもりが入りこんできてひとつのこころを振るわせた。同時に次にすべきことが分かった。だから少女はゆっくりと目を閉じてあなたの顔が近づくのを待った。そうしてひかりのくちとあなたのくちとが重なり合い、二人はそれで、初めて愛を伝えあった。


 太陽がかつて無いほどのフレアをソラに伸ばした。それは同時にソラに高エネルギー荷電粒子を大量に放出したことの理由だった。それらが磁気嵐となって二人のいるこの星に振りそそいだとき、この星の磁力線が全てを防ぐことができなかった。やがていつもより低い位置で二人が見上げる夜空が赤く、時には別の色で明るくきらめき始めた。ときを同じくして少女の中の『ワタシ』には忘れていた響きが、ひかりの言葉でまた聞こえ始めていた。その響きは次第に『ワタシ』の中のひとつのこころに強く反射するようになり、少女の笑顔は消えていった。『ワタシ』はひかりであること、あなたとずっと一緒にいられないこと、無限の希望はかなえられないことを消え去る意識の中で悲しみ、それは少女の目から一滴の涙となって彼女のほほに流れていった。その涙が足元に落ちるまさにその寸前に『ワタシ』は落ちてきたときと同じようにひとすじの線となってソラに上がっていった。『ワタシ』はただようひかりの流れに戻っていった。


あなたは彼女の足元の涙を見たときに何が起きたのかを悟った。ひかりの少女はこころを失ったのだと言うことが。それはあなたにとっては忘れない、消えない出来事となった。こころを失くした少女はそのうつろな目であなたを見つめながら歌を歌う。あなたはそれを目を閉じて聞きかつて自分がひかりの速さで包まれたときを思い出す。そして歌が終わったときに目を開けて彼女の足元でただよう涙がいつか時間が逆転するように上がっていって、少女の中に溶け込み、かつての微笑みが現れるのを静かに期待するしかなかった。無限の望を持って。永遠に。

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