地獄への道は善意で舗装されている
ある日、ぼくと彼女は誘拐された。犯人はぼくらをいたぶって喜んだ。だけど、ぼくらを殺そうとはしなかった。
だから、ぼくは思った。
彼女をちゃんと殺してあげよう、と。
どんなに苦しくても彼女はぼくにつらい顔を見せなかった。そんな彼女を殺すのはとても後ろめたかったけれど、彼女が助かるのはそれしかない。ぼくは彼女を、押し倒して首に手をかける。一瞬、彼女の顔に戸惑いの表情が浮かんだ。それを見てぼくの決意がつい鈍ってしまう。
けれど、ぼくはもう迷わない。
苦しむ彼女は必死にぼくの手を強く握る。それでも、ぼくは非情に徹して彼女を殺す。たとえ、この手が罪で汚れたとしても、ぼくは君のために君を殺す。
死の間際、彼女は口を動かした。それは声にならない声だったが、たぶんこう言っていたんだろう。
『信じていたのに』
ぼくはその言葉に心底打ちのめされた。
ぼくは君を救えなかったのか。
そして、ぼくは彼女の後を追うように自分の首を絞める。苦しさにぼくは手を止めてしまうが、ぼくはこの手を止める訳にはいかない。ぼくも彼女と同じように苦しまなければならない。そうでなければ、先に死んだ彼女に申し訳ない。
意識を失う瞬間に思った。
『ぼくたちは救われますか?』
※地獄への道は善意で舗装されている とは
善意による行動が悲劇を招いてしまうこと。または、悲惨な出来事が皮肉にも善意の行いが発端となっていること。