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ある愛の詩〜和人形〜

作者: ミカ=エル

ある人形店にて。



父親「やぁこれは菜々子に良い物を買って貰ってしまったなぁ。本当に良かったのかい母さん?」す

その母親「当たり前じゃないかぃ。ウチの家からすればもう少し高い人形を用意して貰っても良いくらいだよ」


父親「いや、そうじゃなくて。本当に買って貰ってしまって良いのかい?」


母親「・・・ああ、そういう事かい?世間から見ても当たり前の事だろう?出産祝い。可愛い孫に何かさせてもらわないとね〜。」


産まれたばかりの娘を抱いた母親「お義母様ありがとうございます。」

母親「なになに初孫だしねぇ。貴女に似て器量良しになりそうだしこのくらいはねぇ」


赤子の母親「ありがとうございます。」

頭を下げて言う。


母親「ふふっ本当に将来が楽しみな子だよ」

母娘を見ながら目を細めて言う。


人形店店主「また良ければ雛人形などもお買い求め頂けると幸いです。」


店内を見回しながら

母親「そうだねえ、雛人形もだけど男の子が産まれたら五月人形一式この店で選んでも良いかもねぇ」


店主、笑顔で「またのご来店お待ちしております」


店を出て。

母親「お前の兄ももう少し甲斐性が欲しいね。跡継ぎとは言え三十半ばになっても浮いた話の1つも無いのはちょっと心配になるよ」


父親「いや、兄さんは兄さんでかなりモテるからね、ちゃんと考えながら行動してる結果じゃないのかな」


母親「それなら良いんだけどねぇ。あんたんとこも菜々子の成長もだけど出来れば男の子も産まれるのを楽しみにしてるよ」


父親「家もそんなに離れてるわけじゃないんだからちょくちょく会えば良いさ」


母親「結局3年経っても長男は結婚したけれど未だ子供居ないしここに来るのが楽しみなんだよねぇ」


父親「と、そんなこんなでこの人形はお前が産まれた時にお前のお婆ちゃんが買ってくれた物なんだ。」


菜々子「うん!このお人形さん、大きいし可愛いしあたし好き!おばあちゃんも大好き!」


母親(おばあちゃん)「今度は皆でお雛様見に行こうね」


菜々子「うん、あたし待ってる!楽しみ!」


母親(おばあちゃん)「じゃあ、またね」




その数日後。


呆然としている父親「・・・・なんて話をしてたのになぁ」


泣いてる菜々子を抱きながら泣いている母親「本当に」


泣きながら頭を下げている運転手「すみませ、すみません。」


父親の兄「なんでこんな」


場所は警察署



運転手の運転する車で病院に行った帰り。

青信号で交差点を走行中の母親が乗る車に横からスピード違反でパトカーに追い掛けられた車が突っ込んだそうだ。

母親の乗った車は大破、母親はほぼ即死。

母親の運転手は軽傷、突っ込んだ車の若い男と助手席の若い女は共に頭を打ったようだが軽傷。


付き添いの警察官「事故を起こした車の運転手は車中でアルコールを摂取。酔っ払い運転で捕まるのが恐くて逃走・・・」


兄「もう良いです。しばらく家族だけにしてもらえませんか」


菜々子の父親「兄貴」


兄「お前は何も心配するな遺言次第というのはあるが予定通り家は俺が継ぐし遺産分配も弁護士交えながら普通レベルで俺主導でやらせてもらう。まぁ少しは相談する事もあるかもしれないが知らない親戚とか出て来てもそっちには迷惑いかないようにするさ」

だてに会社経営に関わってないさと笑って言う。


菜々子の父親「ウチはウチで独立してやってけるからある程度気にせずやってくれれば良いよ」


菜々子「おばあちゃん、おじちゃん、あたしあのお人形さん大事にするね、するからね」

父親「最近床の間を避けてるがどうしたんだ?」


菜々子「最近なんか嫌なのよ。怖い、というかなんか変というか・・・」

13歳になった菜々子がそんな事を言う。


件の人形は今は床の間に飾られているが数日前までは菜々子の自室に置いてあった。

床の間に飾りたい両親と違いなかなか自分の元から離さないような気に入りようだったのだが、ここ何日かは床の間にさえ入る事をせず部屋を避けてる様子が見られるのだった。


菜々子「夢を・・・うん、完全に夢だって分かってるんだけど怖い夢を見ているの」

と困ったように言う。


父親「夢?床の間、いや違うか?人形のか?」


菜々子「うん。夢の中で普通に街を歩いてるんだけど。急に足を掴まれるの。」ブルッと震えて言う。


両親「・・・」


菜々子「それで。。。必死になって振りほどくんだけど・・・」


母親「それで?それが人形なの?」


菜々子「ううん、違うのよ。」

困ったように言う。


菜々子「必死に走って逃げて家に帰るんだけど。家のドアを開けた途端に目が醒めるの」


父親「?それなら人形は?」


菜々子「目が合うのよ」


両親「目があう?」


菜々子「うん。変な話だと分かってるんだけど。目を覚まして顔を上げると部屋の人形と目が合う感じがするの」


父親「うーん。」


菜々子「うん、分かってる。別に人形の位置が変わってるとか、動いてるとかもないの。床の間に飾ってからも何回か夢は見たけど人形は見てないし。だから最初言ったように何か変に感じるだけだし夢は夢って分かってるの。」


母親「そんな時もあるんじゃないかしら。別に気にしなくても良いと思うわよ」と、思春期の女の子を慮り言う。


父親「しかしほぼ毎日見るのか?そんな夢を?」


菜々子「うん。何かのテレビ番組とか友達との会話の影響かとも思ってるんだけどもう4日続けてなの。もちろん他の夢も見てるんだけど、ね」


両親「うーん。あれは古い物じゃないし変な事は無いとは思うけどとりあえず人形については気にしておくかな」


菜々子「まぁ何か変わった事あったら言うね」


そしてその日の夜もそんな不気味な夢を見るのだった。


そして何事もなく過ごしていき。



菜々子が夢を見続けて7日目ソレが起きた。



友人達と帰宅途中の交差点。

横断歩道を友人3人と他愛のないおしゃべりをしながら渡っていたが、急に菜々子だけが立ち止まる。


菜々子「え?」

「菜々子?」


「菜々子どうしたの?」


菜々子「あ、う、うん。」

顔が引きつっている。


「早く渡らないともう赤になっちゃうよ」


夢の中のあの感覚が菜々子を襲っていた。

小さい手に右の足首を握られている感覚。


菜々子「うん!」


ここ何日かの夢の中でやっているように思い切り力を込めて全身で前に出る。


勢いのまま小走りに横断歩道を渡り切る。


「良かった〜、ビックリしたよ〜!足首でも痛めたの?」


菜々子「う、うん、そんなとこ。」

軽く笑って応える。

少し顔は青ざめていたが。


その日の夜両親にその出来事を話したが、無事を喜ばれただけであった。


菜々子「まぁ人形も全然だしね、そもそもなんだったのかよくわからないよ。」

その日の夜から例の夢は見なくなった。

そして菜々子16歳のある冬の日。

突然またソレが始まった。


菜々子「なんか最近変な夢を見るの。床の間の人形が抱きついてくるのよ」


両親「前にもそんな変な夢を見ると言っていた事があったなぁ」


菜々子「そうだった?」

菜々子本人は日々の生活で忘れていたが両親は覚えていた。


母親「それで?人形に抱きつかれるだけ?」


菜々子「ううん。怖いの。どこを歩いてるか分からないけど突然人形が抱きついてきて。勢いもすごくて。身体中がすごく痛いの」


両親「ふむ」


菜々子「それで本当に痛くて目が覚めるんだけど。」下を向き震えているようだ。


菜々子「起きて夢かぁ、って安心するんだけど・・・」


両親「うん」


菜々子「居たのよ!」


菜々子「昨夜はベッドの横にあれが!あの人形が!居たの!」


父親「え、いや、いや、そんな馬鹿な事が」

母親「え?いえ、それは無いと思うわよ」


菜々子「居たのよ!本当にビックリして気絶しちゃったのか次に目を覚まして見た時には居なくなってたけど」明らかに怖がっていた。

父親「だがなぁ、床の間では父さん達が寝てるんだぞ?」


母親「そうよ?私も夜中起きだしたりするし」


菜々子「でも!見たし!居たのよ!」


父親「うーん」

多分二重に夢を見てたのでは無いかと言う父親。

母親「そうね、多分目が覚めた、と思ったのも夢の中の出来事だったんじゃないかしら」


菜々子「うううーん」

そう言われてしまうと自信がなくなる。


父親「夜中気をつけているから安心なさい」


母親「もし何かあったら声をあげるのよ。良いわね」


菜々子「うーん、わかったわ」



その日の夜。

土曜の夜なので両親は相談して父親が起きている事になった。


朝まで人形は動かず菜々子の部屋から声は上がらなかった。


菜々子「声上げたはずよ?!」


父親「いや。一晩中起きていたが静かだったし菜々子の部屋の前まで様子見に行ったんだぞ?」

そう。だいたい目が覚める時の時間が同じくらい、夜中の2時半くらい、だと言うのでわざわざ部屋の前まで見に行っていたのだった。


菜々子「・・・え。でも・・・」


母親「また居たの?」


菜々子「居たのよ!絶対!声も上げた!」


父親「やっぱり夢の中の夢ではないのかな」


菜々子「ううう」


不安と不満から友人達と電話でも話をしたのだが、案の定と言うかやはり同じくそう結論付けられてしまった。

結局モヤモヤしながらそのまま同じ怖さの夢を見続ける日が続いた。

そしてやはりそんな夢を見始めてから7日目。

ソレが起きた。

自分に自信が持てず、かと言って納得もいかない菜々子は1人学校帰りに病院へ向かっていた。


青信号で交差点を渡る。


プーッ!プーッ!


菜々子「え?」


横を見た菜々子の目の前には大型トラックの正面がある。

サングラスをしたおじちゃん運転手と目が合う。

ドガンッ


すごい音がした。


菜々子「え、え、え?」


トラックは・・・呆然としたままの菜々子の横を通り抜けたのだろう。横断歩道を両断するような形で止まっていた。

どうやら跳ねられたり轢かれた人間は居ないようだ。


菜々子「え、え?」


トラックの運転手が車から降り掛けた状態でこちらを見て固まっている。


菜々子「え、え、え?」


救急車とパトカーが来た。

病院で検査を受け、警察官に事故の状況を聞かれ。

やはりトラックの運転手が信号無視だったのだが。


まず青ざめた顔の母親がやって来た。


母親「良かった菜々子〜!」


菜々子「うん、私はなんともないよ」


母親「うん。うん。良かった〜」


そして仕事を切り上げてきた父親も慌ててやってきた。


母親「それで。。。家に帰ったら話したい事があるのよ」


父親「ああ。わかった。菜々子が事故に巻き込まれたと聞いた時は肝を冷やした。跳ねられたりしたわけじゃないと聞いたが無事で良かった」


菜々子「うん。よくわからないんだけど私は無事。全然大丈夫」


帰宅の許可が出たので皆して帰宅する。



そしてソレを母親から聞かされる。


母親「ビックリしたのよ、急にすごい音が床の間からして。」


帰宅してすぐに床の間へ案内された父親と菜々子は立ち尽くしたまま聞いている。


母親「何があったのかこうなってて。片付けをしようと思ったけど集められるなら大きな欠片を集める事から始めた方が良いのかな、とか困っていたら病院から菜々子が救急車で運ばれたって連絡があって」


床の間は酷い有り様であった。


白い粉、破片が粉々になった結果だろうが・・・やら大きな欠片や人形の着物の切れ端や着物についたままの塊やらが部屋の半分くらいに散らばっていたのだった。


・・・そう、人形の欠片・・・


菜々子「なんで?」


母親「わからないわよ」

そもそも誰も部屋に居なかったのだから分からないと。


父親「・・・これは、まさか・・・」


菜々子「ん?」


父親「菜々子。跳ねられた。完全に跳ねられたと思った、と言ったな?」


菜々子「う、うん。音もしたしなんか運転手さんも「強くあたった衝撃があったしやっちまったぁって思ったけど」、って言ってたし」


菜々子「私も跳ねられた感じしたし。それに・・・トラックを正面に見た気がする」


母親「・・・でもトラックにも貴女にも傷無かったのよね?」


菜々子「ううん。トラックの前は何かに当たったように潰れてたの。だからそれもあって救急車呼ばれたんだけど・・・」


父親「・・・そうか・・・」

近くにあった人形の欠片を大事そうに広い胸へ持っていく。


菜々子「?お父さん?」


父親「菜々子、きっとな、きっとこの人形がお前の身代わりになってくれたんだよ」

少し泣きそうな顔で言う。


母親「・・・あぁ」


菜々子「お父さん、お母さん?」


父親「お前は覚えているかどうかわからないが、お婆ちゃんがこの人形を買ってくれたんだが。それだけじゃなくな。雛人形も買ってあげると言ってお前と買い物に行くのを楽しみにしていたんだよ」


菜々子「人形をお婆ちゃんが買ってくれたのは知ってるけど・・・」


父親「あぁ、その前に急に亡くなってしまってな。雛人形を買うような金はあったんだが、この人形は形見になってしまったし立派な人形だったから雛人形は買わずにこれまで来てしまったんだ」


菜々子「うん。私が雛人形ねだっても買ってくれなかったよね。そういう理由があったんだ。」


父親「ああ。それで雛祭りにもこの人形しか無かったんだが。雛人形という物は元々は女の子の身代わりの為の物なんだよ」


菜々子「そうなの?」


父親「ああ。詳しくは勉強してみると良いが。それで。」

少し考えて言い淀む。


父親「ひょっとしたら前のおかしな夢を見た時も。今回もこの人形がお前の事を守ってくれたんじゃないだろうか、とね。」


菜々子「守って・・・」

そう口にした事で以前菜々子は感じていた変な感じの正体が分かった。


菜々子「そうか、私にこういう事が起きるよって教えてくれてたんだ。」


母親「菜々子」


菜々子「そっか。だから。夢の中でも出来事自体は怖かったけど人形自体はそんなに怖い感じがしなかったんだ」

しゃがんで足元にある着物がついた大きな欠片に手を伸ばす。


菜々子「ありがとう。守ってくれたんだね。」


そして。


菜々子「え?」


暖かい空気に包まれる。


お婆ちゃん「菜々子、大丈夫だったかい?これからも元気に、ね」


菜々子「お、ばあ、ちゃん?」

菜々子を軽く抱きしめる姿。


父親「かあさん?」

母親「お、義母さん」


穏やかに微笑んで消えていく。


菜々子「お、おば、おばあちゃん」


父親「・・・そうか、今回の事故現場って」


菜々子「おば、あちゃんが。守って、くれてたん、だね」

人形の欠片を抱きしめたまま泣く。


母親「お義母さん」



「ありがとう、ありがとう」



泣きながら抱き合う家族の姿があった。





〜終〜







ホラーの話を別口に考えていたのですが、こういう流れで書くのも良いかな、と。

自分らしい作品になったかと(笑)


読んだ後に何か残る物があれば、と思います☆


※16日21時に一部「トラックのの」→「トラックの」修正。


事故後の会話少し加筆しました。


2017.8.14 飾れいて→飾れていて、修正。

一部加筆修正しました。

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