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水音

作者: 睦月いろは

大学生の時、僕は友人と旅行に行くことになった。友人も僕もそんなにお金があるわけではなかったから、夜行バスで行こうという話でまとまった。この時僕らは、事故が起こるなど考えもしなかった。

霧で視界が悪かったために十数台を巻き込んだ大事故となり、その上に火災も発生。死傷者数は50人を超えたという。その事故の際に僕は頭を強く打ったらしく、意識のない状態で病院に運び込まれた。気がついたのは日が暮れる頃だった。僕は運良く全くの無傷だったが、友人は意識不明の重体。医者にもどうなるかわからないという話だった。医者は、僕が無傷なことを不審にすら思っているようだった。

僕が頭部の精密検査を受け終わり、友人の様子を見に行ったときのことだ。まるでタイミングを計ったかのように友人の容態が急変した。医者やら看護師やらが慌ただしく処置をしている中、一滴の水音が聞こえた気がした。何かと思ってあたりを見回しても近くに水が流れている場所などない。不審に思った僕の耳に、無機質な電子音だけが響いていた。

友人が死んでから一週間が経った。事故のショックと親しかった友人を失った悲しみの中で、僕は一つのことに気がついた。近くで人が死ぬ時にピチャン、と水音が聞こえるのだ。最初は気のせいだ他思っていたが、それにしてははっきりと聞こえた。

一ヶ月近くが過ぎ、ショックが癒えるとともに自身の「能力」に関しても多くのことがわかってきた。まず、自分の近くで人が死ぬ時に水音が聞こえること。ただし範囲は狭く、半径100メートルくらいだということ。そして、寝ている時にも聞こえるということだ。夜中に水の立てるような音がして目が覚めた。その直後にサイレンが近づいて来て、すぐ近くで止まった。

火事だったという。三人が亡くなり、住宅二棟が全焼した。そういえばあの夜、水音は3回聞こえた。

一年経つ頃には、水音にも慣れてきていた。僕の「能力」は強くなっているらしく、今では一時間に一度くらいは水音が聞こえる。僕はもう死に対する感覚が麻痺してきていて、人の命などすぐに散ってしまうものだと思い始めていた。

そんなある日の早朝、激しい雨音で目を覚ました。天気予報ではしばらく雨は降らないと言っていたはずだから、なかなかに憂鬱だ。今日は出掛ける予定なのに。

ため息をつきながら窓の外を見た僕は、あまりの衝撃に何もすることができなかった。


今日もとてもいい天気だ。あんなに煩かった水音も全く聞こえなくなった。

思い出してみれば、僕はあの事故の時にも無傷だった。

今朝の大雨で思いついた小説です。

手に入れたものが一つかどうかなどわからないものです。

使ってみなければ。

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