異世界
目を開ける。
ぼやける視界が晴れていく。ただ自分が誰なのかも、今立っているこの場所がどこなのかもわからない。周りを見渡すと、一面だだっ広い草原だ。
身に着けているものは布切れ一枚、下着も履いていない。寒さを感じないのは照りつける太陽のお陰だろう。
足元を見ると素足の横に鋭利な刃物が落ちている。俺のものか…?。
身を屈めてその刃物を手に取った瞬間、体が蒸発してしまいそうなぐらいの強烈な何かが体を駆け巡る。
熱く、それでいて心地良い。思わず腰をついてしまいそうになったが、なんとかこらえる。
一体何が起きたのかと刃物を確認するも、何の変哲もない尖った鉄鋼物だ。先端が先ほどより幾分か丸くなり、刃物全体の長さも縮んだようにも思えたが、どちらでもいい。
少しの気だるさを感じながら前方に顔を向けると、人がいた。
訳の分からない今の状況を助けてもらおうと一歩踏み出す。が、様子がおかしい。
黒髪に黒服、肌色は驚くほどに真っ白。体は痩せ細っているが、背丈は高い男だ。薄ら笑みを浮かべながら、手に刃物を持ち、手首をスナップするように小さく振っている。
目線が合う、俺を見ている。
何なんだ一体。自分の状況も分からないが、目の前の人間もわからない。
前方の黒服の男が一歩足を前に出す、こちらに近づく。
先ほどは近づこうとした足が後ろずさる。恐怖心。
男は一歩一歩近づいてくる。体を反転させ逃げ出したいと思うのだが、足が動かない。
こいつは何者だ!?ってその前に俺は、ここは、何も分からない!
「…ぁっ」
声がかすれて音にならない。喉が閉じているような感じで呼吸もし辛い。
男は歩く、笑みをうかべ、刃物を小さく振りながら歩く。顔が見て取れる位置まで近づいてこられた時、恐怖心が限界を超えた。
俺は思う。こいつは敵だ。
敵なんだ。戦わなければならない、そして倒さなきゃいけないんだ。
だからこそ俺の足元に刃物があった、戦わなきゃいけない。
多分、悪い奴だ。
こいつは悪い奴だ。怪しげな風貌に、武器を携えている。俺を殺そうとしている。
刃物を握る手が震える。
もしかして、俺は何か大事な使命を抱えてるんじゃないのか。じゃなきゃおかしい。この状況は説明がつかない。
使命じゃないにせよ、俺は特別だろう。こんなおかしな話し、特別じゃなきゃ起こりえない。
戦おう。相手の懐に飛び込んで、刺す。
相手との距離はもう10メートル前後。お互いはっきりと表情が見て取れる。
何者か知らんが、許さんぞ悪党。殺してやる。
いくぞ、いくぞ… いくぞ!