先輩のマンション
先輩のマンションに向かいながら、先輩は自分の家族のことを話してくれた。お母さんは優しかったけど高校一年生の時に病気で亡くなったこと、お父さんは会社の経営をしていて元から忙しくて家を空けがちだったこと、だけどお母さんが亡くなってしまってからは会社の近くにマンションを借りてほとんど家に帰ってこないことも……。
「だから、自分の家のように思ってくれていいから」思いがけない優しい言葉にまた涙が浮かんできた、思わず先輩を見上げてみた。先輩は新しいオモチャをもらった子供のような無邪気な笑顔。
――はいはい、今日から私はオカルト好きな先輩のオモチャです。
先輩のマンションはセキュリティー万全の超高級マンションで高層階、ワンフロワー全て先輩の家だった。
エレベーターを降りるとそこは先輩の家の玄関だった。高級感あふれるダークブラウンの大きなドア、金色のドアノブ。ドアを開けたら広い玄関ホールが迎えてくれた。正面に廊下が続いている。先輩はスタスタと自分の部屋に向かって歩いて行ってしまった、急いで靴を脱いで先輩の後を追いかける。
先輩はノートパソコンでパラレルワールドについて調べながら夕食を食べていた。その日の先輩の夕食は帰り道に寄ったコンビニのお弁当と緑茶で私はサンドイッチと紅茶。ほとんど一人暮らしといってもいい生活を送っている先輩は料理以外の家事は完璧だそうだ。ほとんど家の手伝いをしないでお母さんに任せっきりの私は何だか肩身が狭い、料理くらい習っておけばよかったなぁ……。
先輩は自分で淹れた食後のコーヒーを飲みながら「明日からはゴールデンウイークだから色々調べられるな」と満足そうに言った。