再度自宅に
「ピンポーン」
警戒されないように先輩がインターフォンを押してもらうことにした。すると「あきらのお友達かしら?」とお母さんの声がして玄関のドアが開いた。
開きかけたドアの隙間から私とお母さんと目が合った、その瞬間、お母さんの表情が変わった。
「誰を連れてきても無駄ですよ! あまりにしつこいと警察を呼びますよ!」と私に向かって怒鳴った後にドアを閉めてしまった。
泣き出したい気持ちを堪えて先輩を見上げる。しかし先輩は満面の笑みを浮かべていた。
しかも「表札も調べないとな!」と言いながらとても楽しそうだ。
それから二人無言で表札を眺めていた、私は絶望的な表情で先輩は楽しそうな表情で……。
やっぱり『桐村 あきら』の名前はあったけれど『桐村 さくら』の名前はなかった。本当はわかっていたんだ、私の名前はないって。でも先輩が私のことを覚えていてくれたので少しだけ期待していたのかもしれない。
気がついたら私は表札の前で立ちつくしていた。これから私はどこに行けばいいの? 何をしたらいいの? 頭の中が真っ白になってしまって何も考えることができなかった。そんな私を救ってくれたのはあの冷たかった先輩だった。
「キミはこの世界で居場所はあるの? 女の子だしサイフも持ってないんだろう? 俺の家にでもくるか?」私の肩に手を置いて先輩のファンが聞いたら失神しそうなことをさらりと言った。
「先輩、信じてくれたのですね。よろしくお願いします」と私は泣きながら頭を下げたのだった。