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「オトシモノ」  作者: 葉月 晶
七日目
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エピローグ

 気がつくと再び私は図書館の棚の前に立っていた。


 すぐにポケットからスマートフォンを取り出し壁紙に設定した写真を見る。うん。ちゃんと先輩と過ごした日々を覚えてる。


 図書館の壁掛け時計を見上げる。時間は四時過ぎ。

 そしてもう一度スマートフォンで今日の日付を確認する。うん、五月七日だ。


 それから一番に先輩のマンションに向かう。

 いつもは先輩が入口のオートロックを鍵で解除してた。だけど今は私ひとりなので先輩の部屋番号を押してみる。ずーっと待ってみたけれど先輩は出なかった。


 この世界の先輩は、あの七日間は記憶に残ってないのかな? でも、ふたりで写した写真が証拠になる。


 先輩は証拠がないと信じてくれない……。

 でもこの写真は信じてくれるだろう。だって先輩の部屋がバックに写っているんだもの。ふたりのツーショット写真は画像処理は出来ても、先輩の部屋に入ったことがなければこの写真は写せない。


 少しだけ安心して自宅に向かう。家には入らないで表札だけ確認する。うん、『桐村 あきら』が消えて『桐村 さくら』に戻ってる。やっぱり戻ってこれたんだ。


 先輩はどこに行っちゃたんだろう? 少しだけ考えたけど、やっぱりあの場所かもしれない。

 

 それは図書館だ。

 このめちゃくちゃなストーリーは図書館から始まった。USBメモリを拾ったのも図書館だったし、先輩と会ったのも図書館だし、戻るきっかけを見つけたのも図書館だった。

 だったら、この世界で先輩と再会するのも図書館かもしれない。私の足は迷いなく図書館に向かって一歩一歩進んでいる。


 やがて図書館が目に入ってきた。レンガ造りの二階建ての私の街の図書館。


 館内に入りまずは先輩と会ったパソコンのコーナーに向かう。三台ほどあるインターネットコーナーには誰もいなかった。少しだけ嫌な汗が出てきた。

 自習室? 長時間過ごした自習室には、まばらに学生や大人の人はいた。けれど先輩はいなかった。


 やっぱりこの世界の先輩はあの七日間を過ごしていなくて図書館に来ていないのかな? それとも、もう用事がすんで帰ってしまったのかな?


 突然、頭の中が真っ白になってしまってなにも考えられなくなる。とりあえず図書館を一回り探してみよう。自分に言い聞かせるように本棚の迷路をフラフラと歩きまわる。


 自宅から図書館に向かった時に感じていた自信はもう欠片も残っていなかった。もう一度スマートフォンを取り出して壁紙設定にした先輩の顔を見つめる。穏やかな笑顔を浮かべている。

 そして先輩の部屋に視線を移す。ふたりの背後には大きな本棚が写っている。


 そうだ! オカルト関係の資料だ! 今度こそ迷わずにオカルト関係の資料が揃えてある本棚に向かう。

 大きな本棚の前には見なれた後ろ姿が見えた。

「先輩? 五十嵐先輩」私は囁くように声をかける。


 先輩が振り向いて小さな声で「おかえり」と笑った。

 私も半分泣き出しそうな顔で笑って答える。「ただいま」って。

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