満点の星空
あとドアの開いている病室は二人部屋と四人部屋だった。個室だけソファセットがあったけど二人部屋と四人部屋にはなかった。でも戸棚やテレビ冷蔵庫はベッド数だけあり、ドア付近には洗面台とトイレもある。
以前、お祖母ちゃんのお見舞いに行った病院の病室には洗面台とトイレはなかった。お祖母ちゃんの入院していた病院よりも、この病院は新しかったのかもしれない。
そんなことを考えていたら先輩が「そろそろ帰るか?」と声をかけてきた。
「帰りましょう」と私はうなずく。
病院の建物から出ると陽はすっかり暮れていて空には星が輝いている。
「先輩、星がいっぱい見えます」と私は少しだけはしゃいだ声をあげていた。
「ここは山の上だからいつもより星が見えるだろう?」先輩も星空を見上げていた。
「はい!」
それから私達は無言で満点の星空を飽きずに眺めていたのだった。
病院からの帰り道、車の中で「着いたら起こすから寝ていてもいいぞ」と先輩は言った。
「大丈夫です。まだ軽い興奮状態なのか眠くないです」そう答えながら、昨日の神社よりも今日の病院の廃墟の方が怖くなかったことに気がついた。
なぜだろう? 先輩と一緒だったからかな? そうだ! あの時は必死だったけど先輩はずっと手をつないでいてくれたし、ゆっくり私のペースで歩いてくれていた……。私も少しだけ怖いものに慣れてきたけど、先輩も少しずつ優しくなってきているのかな?
結局今日も元の世界に帰れなかったけど昨日までよりショックを受けていなかった。




