寂れた神社
「本当に先輩はここで待っているんですか?」
もう神社に着いてから何度目の確認だろう……。
「ふたりで行ったら何も起こらないかもしれないし、逢魔が時にこの神社に入ったら俺までパラレルワールドに迷い込んでしまうかもしれないじゃないか」
やっと先輩の本音が出た、やっぱり先輩は鬼だ。
「じゃあ暗くなる前に行ってこい」と無情にも先輩は私の背中を押した。
背中を押された勢いでヨロヨロと鳥居をくぐり抜け境内に入る。
この神社は私が小さい頃から神主さんがいなかった。神隠しの伝説までは聞かなかったけれども、外に遊びに行くときには『神社に行ったらだめよ』と必ず大人から注意されるような神社だったのだ、ここは。
手に持った懐中電灯は何か怪しいものが視界に入らないように足元だけを照らす。そして何かを起さないように何かに気がつかれないようにそろりそろりと歩く。
「ガサガサガサ」足元の雑草が音をたてて揺れた。逃げたいのに身体が金縛りにあったように動けない、胸の鼓動だけがやけに耳に響く……。
「にゃー」とほのぼのとした声で鳴きながら雑草の間から猫が出てきた。しかも黒猫。いつもは黒猫でも可愛いと思えるのに、この奇妙に張りつめるような空気の中で見る黒猫は恐ろしかった。
ボロボロに朽ちかけたお賽銭箱の前で手を合わせて「元の世界に戻れますように」とお願いをする。
最後に礼をして素早く後ろを向く。鳥居の影から背の高い先輩のシルエットが見える。最初の鳥居をくぐり抜けるまでに時間がかかってしまっていたので、もう空には一番星が輝いて見える。
帰り道は、なにかから逃げるように走る。鳥居の外側に居た先輩の顔が見えた時には心からホッとした。
何も起こらなかったのがつまらなかったのか先輩は「お百度参りに変更するか?」と笑えない冗談を言っている。
結局、三日目も元の世界に戻れないまま過ぎて行ったのだった。




