まだ帰れなかったみたいです
「コン、コン、」
なんの音だろう? 私はまだ半分夢の中にいる感覚の中で考えてみた。
何だか、とても長い長い夢を見ていた気がする……。
私はゆっくりと目を開いた。見なれない天井が目に入る。
「え?」
その瞬間に昨日の出来事が頭によみがえる。夢じゃなかったんだ。
やっぱり帰れなかったんだ……。
「コン、コン、コン」
先ほどより大きな音が聞こえてきた。
音の方を振り向くと少しだけ怖い顔をした先輩が開いたドアの内側に立っていた。
「あ、先輩おはようございます」急いで起き上がり頭を下げる。
まだ先輩は怒っているのか怖い顔のまま言った。
「キミ、寝起き悪すぎ」
「すみません……」
というか乙女の寝ている部屋に返事もないのにドアを開けて入ってきている先輩の行動もどうかと思うが、もちろんそんな反論は出来ない。しかも寝起きの顔をバッチリ見られているし……。
「ここにキミがいるということは……」
「すみません、まだ帰れなかったみたいです」と私は下を向いた。
「気にするな、俺がキミが帰れるまでサポートしてやるから」
「ありがとうがざいます!」と先輩の顔を見つめた。
やっぱり先輩の顔は優しい笑顔じゃなくて、実に楽しそうな笑顔だった。
「俺、部屋にいるから支度が終わったら来て」
「はい」
先輩がドアを閉めると同時にベッドから飛び起きる。
簡単にベッドメイキングをしてからアイボリーカラーのカーテンを開けて外を眺める。
「うわー!!」
さすが高層マンションだけあって眺めは最高。帰れなくて落ち込んでいた気持ちも眩しい朝日に解けていくようだ。
木目調の壁掛け時計を見る。
既に九時過ぎだった。急いで制服に着替えて洗面所に行く。
あ、歯ブラシ……。
やっぱり生活必需品は買ってもらおう。




