男の意地
――からんからん
地面に落ちた武器が音を立てる。
(……ゆ、油断した)
「ほぉれ、そんなもんか、よっ!」
シィドの胸ぐらを掴み上げていた村長は愉快そうに顔を歪め、再びシィドの顔面にその重い拳を振るう。
殴られ、地面を転がりながら仲間たちの下へ。
勢いよくぶつかった先ではキャロル、ムサシそれにマツリが呻き声をあげて横たわっていた。
戦闘が始まり、真っ先にマツリが倒された。正確には彼女が逃げ出せないように意識を刈り取られた。
――後になってこれはマツリの【治癒】を警戒しての行動だったと気付かされた。つまり、この時点で相手が自分たちよりも遥かに対人戦闘の経験が豊富だと気付くことはできたのだ。
だが、魔力をほとんど使えない相手に負けるはずがないと高を括り慢心していたために気付けなかった。あるいは怒りが判断を鈍らせたのかもしれない。
「俺ぁな、これでも元は冒険者でな…」
「かつては世界各地を練り歩いてたもんだよ。その時代はまだまだ冒険者にとって厳しい時代でな…」
何をべちゃくちゃと…!
「……だから、お前らみたいな半端者を見るとイライラするんだよ」
「……勝手な」
「あぁん?」
「勝手なこと言ってんじゃねえよ!」
それが、何だって言うんだ?
そんなことで彼女の、マツリの人生を踏みにじっていいわけがないだろう!
再燃した闘志を小さな火種から豪火へ変えて。
「俺は絶対にお前を許さない!!」
「……ほう、でどうするってんだ?」
「簡単だ。殴って解決する!」
「ハハッ、わかりやすいねぇ…」
だが、それがいいと拳を構える。
俺もそれに釣られるように構えを取った。
自然と口端がつり上がる。
「「うらあああっ!!」」
男と男。拳と拳がぶつかり合い、激しい衝撃が生じる。
ドゴッ!目の前にいる男の拳は重くめり込むように体の芯まで入っていく。
メキキッ!俺の拳は左頬を穿っていく。頬骨は折れ、めり込んだ拳は相手の頬を醜く歪めていく。
その後も互いに相手を徹底的に破壊あるいは倒すべく殴打を繰り返していく。
「ふああ~、退屈ね。ムサシ、何か一発芸でもやってこの場を盛り上げなさいよ」
「へ、ふぇえええっ、なっなんでござるかその無茶振り!?」
「いいじゃない別に。惚れた男が姉とはいえ別の女のために戦ってるのよ?ちゃんと自分に注意を向けとかないと」
「ほほほほ、ほりぇてにゃど!」
「あらムサシ?それは興味深いわねえ。お姉ちゃんによぉ~く聞かせてごらんなさい?」
「だから違うとっ」
(…誰のために頑張ってると思ってんだ!)
女3人寄るとかしましいとは言うが…。
というかさっきまでの剣呑な雰囲気はどこに行ったんだ?
離れた場所で何やら話しているらしい気配を背中で感じながら、馬鹿馬鹿しくなる。
相手も同じかと思えば、逆に火が点いたように苛烈さを増していく。
(一体何なんだっ!?)
「イチャついてんじゃねえぇえええ!!」
醜い男の嫉妬でした。
「…はぁ、はっ」
「ぜぇー、ぜぇー……」
互いに満身創痍になりながらも膝を着くことなく殴り続けた。
視線が絡み合うと再びグッと握り締めた拳をぶつけていく。
「「いい加減に――」」
最後に渾身の一撃を放つべく、拳を振りかぶった。
「――しろぉ!!」
だが、最後の一撃は衝突することなく。
突如乱入してきた第三者によって阻まれたのだった。
意識の外からの攻撃は俺と村長を軽々と吹き飛ばした。




