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手応えのない脱走

「(……こんなところがあったとは。まったく知らなかったでござるよ)」

 騒動を起こした俺たちは一人だけ倉庫に残った男(村長)を放置し、こそこそとどこかへ向かっていく男たちを追いかけていった。

 追いかけていった先にあったのは小屋に隠された洞窟。それを見て、ムサシは驚愕に目を見開いたのだった。

「(……知らなかったのか?)」

 ムサシは俺の問いに小さく頷いた。

 どうやらムサシたちというか村の子供たちにはあの小屋は儀式などに使う神聖な道具があるから近寄らないようにと言われていたらしい。

(いや、怪しさ満点じゃねえか。気付けよ)

 仮にも義母が拐されているんだから怪しい場所は探すべきだと思ったが、マツリともなかなか接触できなかったらしいし、その場合ムサシは村に一人だけ。

 危険な真似はできなかったのだろう。

 ……それとも、単純に気付かなかっただけか?




「(……入ってくるみたいね。上手くやりなさい)」

 天井に張り付いているキャロルさんからの情報にこくりと頷いて身構える。

 おそらく入ってくるのは村長だろう。

 これだけの騒動。私一人では無理だが、誰かと協力すればできないことじゃない。怪しく思ったら、私のところに来るだろうとは予想できる。

(ちょうど【予知】の時期とずれていたしね)

 

 入ってきたら油断しているところにキャロルさんが攻撃を仕掛け、私の枷を外させる。

 問題はキャロルさんが入る時に開けたせいで窓が壊れていることだけど……。

 …なんとか誤魔化さないと。


 ――ガチャ


 ずかずかとまるで自分の家のように足音は無遠慮に近付いてくる。

(…止まった)


「――おいっ!無事………みたいだな」

 何よ!慌てたフリなんて白々しいっ。

「……んっ?あの窓は一体…?」

 ずいぶん慌ててたみたいなのに、すぐに異変に気付いたのね。

 こっちはあんたの白々しさのせいで睨んでて忘れてたわよっ!

「おい、どういうことだ?」

「……さあ、知らないわね。むしろこっちが聞きたいくらいよ」

「…チッ。まあいい。枷も外れないようだし、そもそもあの窓も外側から壊された形跡があるからな」

 やっぱり、目敏い。

「……で、何しに来たわけ?まさかとは思うけど心配でもしてくれたの?」

「心配は心配だったぞ?お前に万が一のことがあれば俺たちにも影響が出るからな」

 つくづく下衆な考えを持っているようね。

「……とはいえ、何が起こっているのか。もしも、お前が母親を助けたいと行動をしたのなら愚かなことだ。もう既に母親の方へは人を向かわせてある。…逆らえば、わかるな?」

 そう告げて、鍵を取り出した。

(…やった!)

 願ってもいなかった展開に心の中でガッツポーズを取る。

「……これから手枷を外して移動だ。一応、母親にも会わせてやるよ」

 卑しい笑みを浮かべ、近付いてくる。


 ――すとっ


 その背後にキャロルさんが降り立ち、

「――ぁん………れぇぇ…え?」

 振り向いた村長の鳩尾に一発。ドシンと響くような一撃をお見舞いしていた。

 白目を剥き、崩れ落ちる村長。びくんびくんと震えている。

「――今までの恨みよっ!」

 そのこめかみ付近を蹴りつけ、動かなくなったのを確認して足早に倉庫を後にした。




「(結構長いな…)」

 ムサシと共に後を追いかけてから結構経つが、未だに洞窟の内部を歩き続けている。

 一体、どれほどの深さがあるんだ?


「(……止まったようでござる)」

 たしかに。何て言っているのかは聞こえないが、微かに話し声が聞こえる。


『――――で、――――ように』

『―――ね――――――よ』


「(ムサシ。ここで待つぞ)」

 おそらくはあそこが行き止まり。ということは二人の母親ククリユ・エニシさんがいるのもそこだろう。下手に突っ込んで行って彼女を人質に取られるわけにはいかない。

 だったら、帰ってきたところを襲って返り討ち。これすなわち必勝!

 問題は前方にいる奴らが鍵を持っているかどうかか。

(……キャロルたち、上手くやってるかな?)


「……くんくん、くんくん。こっちよ!」

「はいっ!キャロルさん」

 凄い!なんでかは全然わからないけど、匂いでムサシのいる場所がわかるなんて!

 辿って行けば、ママもいるはず!

 その期待を胸に私の足は限界を超えて動き続ける。


(待っててね!ママ)




「――っ痛ぅ…。あぁ~、手酷くやられちまったか」

 キャロルの一撃をまともに喰らったにも関わらず、村長は早々に目を覚ましていた。

「……こりゃ、どやされっかなぁ~」

 怒られることを心配しつつも「まあいっか」と何事もなかったかのように殴られたお腹を擦りながら歩き出す。

「……大体、あの人も人が悪いというかなんというか」

 昔から知っているがゆえに依頼人への文句をこぼしながら。

 

 マツリやムサシが黒幕だと思っていた村長は、肩の荷がようやく降りるのを感じながら真の黒幕の下へと歩みを進めるのだった。

 黒幕とはいったい誰なのでしょうか?というところで今回は終わりとなります。明日は投稿できないかもしれません。できたらする予定ですのでお待ちください。

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