隠し名・She side
一気に3話投稿してますのでご注意ください。
――パリィン
何かが割れるような音が聞こえ、ふと目をやるとあの子と一緒に施した術が解除されていた。その証拠に自分の模様がムサシからマツリへ戻っていた。
「……そう、あなたは頼れる人を見つけたのね」
彼女は鉄格子の填められた窓から見える月を眺めながら、今は遠く離れている妹のことを思い浮かべた。
思い出されるのは初めて会った時の小さな小さなあの子。
碌に口も利かず、それでも私やママの跡をついて回っていた可愛い子。
「ムサシ、あなたは自由に生きなさい。私たちのことは気にしなくてもいいの。あなたは私とママの大切な宝。あなただけは決して穢させはしない」
神職に就いているから体こそ穢されていない。神職は処女性を求められることが多い。神聖なモノほど能力が高い…そう考えられている。
(だけど……)
それでも母親と妹を人質に取られ、脅されるがままにスキルを使い続けた。
私の【予知】は自分を中心に行う。自分のいる場所に起こりうる未来を見るのが私の【予知】。その力を使って、神職の人が来るのを避けたり、税を回収しに来た勅使たちを誤魔化したり。
(…私の心はもう穢れてしまった)
誰が何と言おうと、自分でそう考えてしまう。
「ムサシに会いたいな…」
ムサシを逃がしてからというもの、私は部屋の外に出ることすら許されていない。
今でもこの狭い部屋の中で手枷をされている。
ムサシがもしも助けに来ているのなら、なんとかママを助け出す手立てを立てないと。
…把握しているだけでも、この件に関わっているのは村長をはじめとした4人。
(普通なら大の男4人を倒すのは無理。勝機があるとすれば、あいつらが知らない私の秘密)
ククリユ・マツリ。
彼女には本人とムサシしか知らない秘密があった。
それは彼女のジョブ。それが二つあるということ。
ククリユ・マツリ:女 拠点;ラギリ村
ジョブ:神官・記録士
固有スキル:【結界】【治癒】
派生スキル:【隠蔽】
特殊スキル:【予知】
ジョブを二つ習得できる人間はこの世界でも極々一部に限られる。
それこそアーティスト(A)の称号を得るよりも遥かに難しく、神官職に就ける者その中でも【予知】を発現する確率よりもさらに低い。
100万人に一人ほどの確率だとも言われている。
まさか、貴重な【予知】を持っている者がさらに貴重な二つのジョブを持っているなどと想像できるはずもない。
(…何の因果か、【隠蔽】が出てくるなんて思わなかったけど)
村長がマツリのジョブやスキルを隠すために使うスキル【隠蔽】それを身近に感じていた。だから、その力を身に付けることが出来てしまった。
(そのおかげでムサシを逃がすことができたんだから、なんて言っていいやら…)
「さて、妹が頑張っているのに、姉である私が頑張らないわけにはいかないわね」
ここ数年で久しぶりに生気を取り戻し、立ち上がる。
「能力を次に使うのは……6日後」
【予知】は莫大な魔力を奪われる上に、使うのには一定の魔力を求められるだから能力を使うのは一定期間になる。
「……ムサシもおそらくそこを狙うでしょうけど、大丈夫かしら?」
あの子ちょっと抜けてるのよね~。
「………まつ、り……む…さし」




