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信仰の終焉

 これで都市間騒動編は終了となります。次へ行くまでに少し時間を空けるかもしれませんが、ご了承ください。

「……さて、残るは一人か」

 気絶したアネストさんを横たわらせながら、視線をジュリアンさんに向ける。


「…アネ、スト?」

 彼女は信じられないという表情で横たわるアネストさんを見つめていた。

 しかし、俺たちが近付き始めた途端、発狂したように叫び始めた。

「アネストッ!さっさと起きて神意の下にその異端者たちを殺しなさいっ!あなたにはその義務があるのですよ!寝ている暇などありますか!!」

 喚き散らし、杖なども放り投げてくる。

 それがアネストさんに当たらないように気を付けながら、近付いていき、

 ぱんっ!と頬を叩いた。


「……っ!?」

 叩かれ、一瞬呆けた様子だったがすぐさまキッと睨みつけてくる。

 その眼はやはり正気ではなかった。

 まるで呑み込まれそうなほどドロドロと濁った瞳。

(…何があったら、こんなことになるんだ)

 思わず後ずさってしまうようなおぞましさがあった。


「……ジュリアンさん、あなたの…あなた方の負けです」

 彼女に飲み込まれないように、できるだけ感情を失くして宣言する。

「…敗け?ふざけないでくれるかしら?私たちはまだ負けてはいないわ。だってそうでしょう?あなたたちは何も解決できていないのだから!」

 自信満々に答える彼女。

「…元々、アネストのあの力は想定外。だけど、私の【予知】によって見た未来はまだ起こっていないわ」

 淡々と事実を告げるジュリアンさんは意思を変えないだろう。おそらくここで拷問や何かをしても彼女は【予知】の内容を語ることはない。

 

 これが殉死するということなのか?

 神にすべてを捧げた女性。彼女を今止められるとすれば良心ではなく、信仰だけだろう。

 それは信仰にすべてを捧げた彼女を止める術がないということを物語っていた。


「ジュリアンさん!」

 それでも説得しようと声を張り上げた瞬間――それは始まった。


 ドゴンという轟音と共に天井を突き破り現れたのは、巨大な岩塊。いや、熱を持っている感じからこれは…。

「……隕石っ!?」

 そして、それは始まりすぎなかった。

 間を置かずに次々と飛び込んでくる隕石の塊。

 天井を突き破り、壁を破壊し、床に穴をあけていく。


「……ふふっ、始まったわね」


 動揺する中、ジュリアンさんの喜悦の含んだ声がやけに耳に届いた。

(これが彼女の【予知】!)

 どれほど大規模な災害を事前に知っていたんだと、慄く。

 これほどの大規模な被害が彼女の【予知】には現れる。だとしたら、彼女がこれを救おうとするのは間違っているのか?

 それを蔑ろにされれば狂ってしまうのは当然ではないのか?

 そんな疑問が頭の中を埋め尽くし、思考力と行動力を奪っていくが、状況がそんな暇を与えてはくれない。

 降り注ぐ流星群から引火し、燃え上がる。

 隕石による破壊と火の脅威が迫って来ていた。


「陛下っ!」

 落下してくる隕石が王の頭上に現れる。

 それを助けるバトムスさん。先程まで王が腰かけていた玉座は隕石で押しつぶされ、粉々に砕け散っていた。もう少し彼が動くのが遅ければ、王は隕石の下敷きとなり死んでいただろう。


(ぼーっとしてる場合じゃない)

「皆っ!できるだけ早く逃げろぉおおお!!」

 声の限り、叫ぶ。


「ジュリアンさん!」

 彼女も助けなければ、そう思い振り返ったが先程まですぐ傍にいた彼女の姿が消えていた。

「一体どこに…!」

 あの体でそう遠くへ行けるはずがないのだが。


「シィド!」

「……クソッ!」

 キャロルの言葉で後ろ髪を引かれる思いを感じながらも、駆け出した。

 その時は、彼女に気を取られてもう一人姿がなくなっていることに気付かなかった。もし気付いていれば、あんな未来は避けられたかもしれないのに…。




「ふふふふふふっふふふふふふっ」

 隕石が降り注ぎ、倒壊していく廊下をジュリアンは移動していた。

「まだよ。まだまだ。あなたたちは逃げられない。私だけは生き残る」

 狂気のままに進んでいく。自分は助かるという未来を信じて。

 事実、ジュリアンの見た【予知】に従わなければ彼らは助からないだろう。助かる術を知っているのはジュリアンだけ。

 だが、彼らがジュリアンからそれを聞き出す日は永遠に来ない。

 ジュリアンは決して助けようなどとはしないのだから。

「…私の民たちのために、あなたたちは信仰の名の下に犠牲になるがいいわ」

 そう言って笑う彼女は、まるで天上から下界を眺め人々が争うのを面白おかしく見つめる堕天使のようだった。

 だが、堕天使だというのならば、彼女はやはり天上から追放されるだろう。

 他ならぬ身内の手によって。


「――ジュリアン様」

 暗闇から姿を現したのは、気絶していたはずのアネストだった。




「一体、どこに行けばいいんだよ!」

 悪態を吐きながら必死で走り続けるが、ここは広すぎる。

 その上、見つけた避難経路は進んでいくと隕石で破壊されている。それを先程から繰り返していた。


「そこを破壊しろ!」

 一緒にいたクノン代表の号令で階段を塞いでいた瓦礫を破壊していく。

「時間がないっ!」

 だが、落ちてきた隕石巨大だったようで階段を貫くような形になっており、上から落ちてきている瓦礫も大量だった。

 目の前に見えている部分だけを破壊しても上からまた崩れ落ちてくる。

 焦りだけが募っていく。


(このまま死ぬのか?)

 頭の中に、死という文字が過ったその時、光が差した。


(……なんだ?)

 先程まで落ちてきていた瓦礫がなくなった?

 ふと上を見上げると隙間から空が見える。

(こんな時だっていうのに、空はこんなにも綺麗なんだな)

 流星群が降り注ぐ中、空は眩しいほどに黄金色に輝いていた。

 場違いな感想を抱きつつも、隙間から見えた人影に驚愕してしまった。


「…アネストさん!」

 だが、アネストさん以上に驚いたのは、彼女が持っていた()()


「……こっちではありません。反対側の中庭にある池を突っ切る形で外に出なさい。そうすれば助かるはずです」

「………それは、ジュリアンさんから聞き出したのですか?」


「――はい。命を奪う前に聞き出しました」

 彼女はハッキリとそう告げた。

 その際、愛おしそうに手に持っていたジュリアンさんの首に口づけを落としていた。


「…なぜです?」

 こんな問答をしている間に早く逃げなければ。そう思ったが、聞かずにはいられなかった。

「あなたにとって、彼女は大切だったんじゃないんですか?」

 ――それこそ自分のすべてを捧げられるほどに。

「大切ですよ。今でもね」

 過去ではない。

 進行形で大切。

 彼女はそう言っている。彼女の態度に、「何も知らないくせに決めつけるな」そう言われているような気がしてくる。

「だが、私はお前たちに敗れた。ならば、けじめは着けなければならない。それだけだ」

「そのためにジュリアンさんを殺したんですか?」

「……そうだ」


『――ジュリアン様』

『アネスト!無事だったのね』

『ええ、あの状況では不利を感じたのでやられた振りをしていました』

『よかったわ。あなたがいれば、何度でもやり直せる』

 会った瞬間こそジュリアンは嬉しそうな表情を浮かべたが、その言葉はやはり一つの目的に妄執していた。

 その表情を見た時、アネストの心は決まった。

『では、ジュリアン様。私が先導いたします。道を教えていただけますか?』

『もちろんよ。あいつらは下に降りることばかりに目がいってるけど、階段ではなく池を通らなければならないの』

 ジュリアンは自分の見た光景を語っていく。

 途中の隕石で吹き飛ばされたのか、彼女は池にいたこと。その池にいたおかげでこれから降り注ぐ一点集中のような激しい流星群を避けれたこと。

 そこから這い出すと無事に助かったことを。つまりは、池にいれば助かる。

『わかりました。……ジュリアン様、今までありがとうございました。あなたのことを生涯、敬愛いたしております』

『……へっ?』

 これまでの感謝と想いを告げ、アネストの刃折れの剣がジュリアンの命を刈り取った。

 彼女は、信じられないようなモノを見るように目を見開いていたが、あるモノを見つけた。

『すいませんすいませんすいません』

 床に転がった首を抱えながら幼子のように謝り続ける彼女は気付かない。

 ――ジュリアンの表情かおが彼女がかつて知っていた優しかった頃のように微笑んでていたことを。


「――さあ、行け」

 もう話すことはないとアネストさんは道を指差す。

「アネストさんもっ!」

 俺は手を伸ばし、彼女もこっちに来るように促したが、アネストさんは確固たる決意で首を横に振った。

「シィドさん!」

 その時、ヤノンが必死に俺を呼びつける。

 ハッとなり確認すると丁度できたばかりの隙間を埋め尽くすように隕石が落ちてきていた。

「アネストさーーーーん!!」

 手を伸ばすが届かない。 

 その間にも迫ってくる隕石。俺は後ろから引っ張られ、徐々に遠ざかっていく。

 仲間の制止に抵抗し、追い縋るように手を伸ばすが届かない。

 とうとう彼女の頭上に隕石が見えた時、


「―――――」

 

 アネストさんが何を言ったのかはわからなかった。

 ただ、彼女の満足した表情が頭から離れなかった。




 あの事件から数日が経った。

 ペンタ連合国首都、中央主要都市セントルの宮殿に降り注いだ流星群についてはひとまず解決の目処が立ちそうになっていた。

 といっても、問題が大きすぎるのでただの自然災害として片付けるようだが。

 南北の代表をはじめ、宮殿にいた人間。少なくとも数十人が命を落とした大規模災害だが、避けられない事態として処理するしかないのだ。

 あの場にいた俺たちには箝口令が敷かれ、アネストさんが北部主要都市代表ギッシー・アンキを殺害した一件は闇に埋もれることとなった。

 これについてはしょうがないと思うし、よかったとも思ってる。

 そもそも同族殺しが禁止されているこの世界で人殺しが起きたなんて言っても誰も信じないだろうし、アネストさんの名誉を守るという意味でもそれがいいだろう。

 ちなみに、ジュリアンさんの遺体は胴体部分は見つかった。上手く崩落の隙間に車いすが挟まり潰されずに残っていたのだ。

 最後に目撃した場所を探したが、アネストさんの遺体はとうとうでてこなかったという。


 クノン代表から依頼されて調査していたジェンネさんより、二人の過去については大体知らされた。

 二人がどういう思いで動いていたのか、それの本質はわからないがたしかに自分の正義があったんだと思うようになった。納得はしないけど、そういうものだと考えるだけだ。

 

 俺たちは、代表の葬儀が終わり次第、ジルバニア公国へ旅立つ。

 何やらマツリが話したいことがあると言っているし、ジルバニア公国も一筋縄ではいかないような波乱の予感を感じている。


 そういえば、あの隕石が降ってくる前に空が金色に輝いていたと言っていたからもしかしたら金雲が表れていたのかもしれない。

 この世界に来てから二度目の遭遇か。だとしたら、食べれるようになる日もそう遠くないかもしれないな。

 アネストのスキルについて簡単に説明しますと、設定集にも載せますがあれは【断罪】というスキルです。彼女が感じる怒りを相手にぶつけるみたいなスキルだと思ってください。

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