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職業とジョブ

 やって来ました冒険者ギルド!建物は鍛冶師ギルドに比べると作りはしっかりしてる割にこじんまりとした印象を受けるが、鍛冶師ギルドは土木関連も扱うため石材や木材なども置く場所が必要で大きいのと冒険者ギルドは支部だというのが理由らしい。

 冒険者ギルドはその勢力の大きさから時には下手な小国よりも遥かに権力を持つために各地に支部を作っているそうだ。唯一拮抗しているのが神を祀る教会ということでも規模のデカさを窺わせる。

 冒険者ギルドの中は、人でごった返しておりこの世界に来てからこんなにたくさんの人を見たのは初めてだったので、ちょっと面食らったほどだ。

「あっ!マスターおかえりなさい!」

 こちら、正確にはリリィさんに気付いた少女が声をかけてくる。

「ジュリ!?あなたこちらで何をしますのっ?…シィドさんこちらはワタクシたちのクラン所属のジュリです。ジュリ、こちらは先ほどやって来たシィドさんですわ」

「はじめましてシィドさん!」

「こちらこそ。よろしくジュリさん」

「呼び捨てでいいですよ。さん付けされるとなんだか照れちゃいますから」

「で、ジュリあなたはここで何をしているのかしら?今日は特に予定もないですし、売りに来るような素材もなかったと思いますけど…」

「……あ~、実は、そのぉ」

 言い出しにくそうにしているジュリさんだったが、その様子で察することが出来たらしく二人の表情は若干険しいものになっていた。

「…またですの?」

「うぅ~、はい。またですぅ」

「しょうがないなぁ。リリィ、早く帰った方がいいんじゃない?売却の方は明日にでもすればいいよ」

「そうですわね。…シィドさん、アルタフィルさん申し訳ありませんが急用ができましたのでここで失礼させていただきます。ジュリ、あなたは報告が済んだらすぐにホームに戻ってきてちょうだい」

「はいっ!わかりました!」

 そう言うと二人はジュリと呼ばれた少女を残して去って行った。

「はふぅ~、やってしまいましたぁ。ごめんよぉ、ヤヤちゃん」

 二人を見送って張りつめていた緊張の糸が切れたらしい彼女はビシッとしていた敬礼をやめたかと思うと、そのままへにゃへにゃと崩れ落ちてしまった。

「(何かあったのかな?)」

「(こういう時は見て見ぬフリをするのも優しさってもんさ。まぁ、大体の事情はわかるけどね)」

 彼女に聞こえないよう小声で聞いてみたのが、結局その時はよくわからなかったが、会ってすぐの人間が深入りすることじゃないと思ったので深く考えないことにしてさっさと進むアフィの後をついて行った。

 この時のアフィの訳知り顔が意味することを知ったのは少し後になってからだったが、この時は彼女たちの抱えるクランの問題に深く関わることになるとは夢にも思わなかった。


「ようこそ冒険者ギルドフィアード支部へ。あら、町長がお連れになったということはそちらが先ほどの落ち人さんですね」

「やあ、モニカ。さすがに目敏いね。名前はシィドだ」

「シィドです。よろしくお願いします」

「ようこそコメディカルティアへ。受付のセルハ・モニカです。本日のご用件をお伺いします」

「ええっと今日は――」

「シィドの家ができるまでの宿と彼に職業などについて詳しく教えてあげ欲しいんだ。ボクは少し席を外しておくから詳しい説明を頼むよ。シィド、ボクは席を外すからわからないことは遠慮なくモニカに聞いてくれ。終わったら三軒先のの店に来てくれ」

 ったく、何なんだ?まあ、わからないことはモニカさんに聞けばいいか。

 そそくさと出て行ったアフィをからモニカさんに向き直り、頭を下げておいた。

「わかった。じゃあ、モニカさんよろしくお願いします」

「あらあら、お手柔らかにお願いしますね」


「では、まずは宿をと言ってもギルドの空き部屋になるのですがそちらの手配をしておきましょう。こちらが部屋の鍵です。一応、清掃はしてありますので何か不自由があった時にはお申しつけください」

 差し出された部屋の鍵を受け取る。その際、紛失時には代金を支払うという誓約書にサインをする。これは、ギルドに泊まる際には毎回書かされる書類なんだそうだ。ちなみに、代金は1万(メダ)。冒険者の最低賃金が3000Mとなっているのでまあまあ高い金額だ。少なくともこの世界の相場がわからないので返すのにどれだけの時間がかかるかもわからん。絶対に無くさないようにしよう。そう心に決めた。

「そんなに用心しなくても大丈夫ですよ。この世界に来たばかりの人にそんな無茶言いませんから、例え失くしても今の状態ならば請求は保証人である町長にいくことになっています」

 だから安心してくださいと告げられ、それなら別にいいかと思ってしまう。だってしょうがないじゃん!モニカさんいい人だし、こんな人に微笑み付きで言われたら男なら誰だって気は緩んじゃうって!


 ……後で聞いた家の代金が約10万Mだった時は軽く絶望した。

 

 それからはモニカさんに職業について教えてもらった。

 この世界には一般的な職業とジョブと呼ばれるものがある。職業とはそのままでアフィならば町長、モニカさんならば受付嬢となる。しかし、ジョブは全く異なる。ジョブとはこの世界における神々からの恩恵【スキル】と大きくかかわって来るものらしいが、そもそもスキルってなんだよって話なわけで…。


【スキル】簡単に言うと神の与えた恩恵でジョブに付くと覚える呪文と考えればわかりやすいかもしれない。スキルは道具によって似たような効果を得られることもあるので必ずしもジョブに付かないと使えないわけではないがジョブに付いた方が使いやすい。

 スキルには固有・派生・特殊の三種類あり、固有とはジョブに付くことで自動的に習得できるモノ。派生とは、ジョブについて自分なりの行動をしているうちに生まれるオリジナルスキル。固有とは違い、ジョブが変わってもそのスキルは使える。特殊はジョブに付くことで発動するが、発動条件なども不明発動する人も少ないレアスキルのことらしい。


 つまりは職業に合わせてジョブを選ぶかジョブやスキルに合わせて職業を選ぶこれがこの世界における常識。また、ジョブの中にも変異職と言うモノがあり、ジョブに付いてからの行動によってジョブが変わった時に生まれるジョブだそうだ。そして、ジョブを極めた場合、称号に【アーティスト(A)】が付く。

 例えば鍛冶師のの場合は同じ材料や工程の場合でも比べなければわからないほどの違いだが、性能が上と言うわけだ。ただし、レアスキル・称号持ちは極々限られた人物に限られており、一国に5人もいないのが普通らしい。


「これまでの説明で何か気になることはありますか?」

「……そうですね、職業はともかくジョブはどうやって決めるんですか?」

「ジョブは冒険者ギルドや教会、または滞在している町や国の代表者に依頼することで決定します。ただし、ジョブの中には適性がないとなれないモノが存在しますので、それらは選んでもなれない場合がありますのでご了承ください」

 料金は無料らしいが、特殊な職業については場所によってそこに所属することを半分強制される場合があるらしい。教会が大半を占める神職はほぼ強制的に教会への所属が義務付けられ、国などによっては強力な使い手を自分の手元に置こうとする場合があると教えてもらった。

 後で聞いた話だが、冒険者ギルドで行った場合は珍しいアイテムなどを手に入れた場合に融通を求められる場合もあるそうだ。

「そうなんですか。でも、職業とジョブはいつ頃決めたらいいんですか?」

「そうですね~、基本的に二つ一緒に決めるのが一般的ですね。ジョブは途中で帰られますし、この世界の人々はジョブを幼い頃から家庭の事情でジョブを習得している場合も多いので…」

 こういう細かいところで落ち人と現地人の違いを実感するな。変なところに納得していたが、そのあとに続いたモニカさんの台詞に俺は驚愕させられる。

「…あぁ、ただしシィドさんの場合、ひとまず職業は冒険者になると思いますよ?」

「へっ!?な、なんでですか?」

「ここへ立ち寄る前に鍛冶師ギルドへ立ち寄られませんでしたか?」

「たしかに立ち寄りましたけど、それが何か?」

「ええ、家などを建てる場合の費用は安くしているとはいえただではありません。ですから、落ち人の場合まずは冒険者として活動して借金を返してからこの世界で生活を始めるんです」

「ええーっ!?」

 前のめりになりながら絶叫する。そんなことってあるのかっ!?というか、それって詐欺じゃねえか!

 あっ、だからアフィの奴逃げやがったんじゃ!

 アフィが出て行ったのは俺に気を使ったとか、冒険者ギルドが面倒臭いとかではなく、ただ単に俺に恨まれるのを避けるためだったと考えるとそそくさと出て行ったのも納得できる。くっそ~、アフィの奴……!

「あ、あの大丈夫ですか?」

 悔しさのあまり歯を食いしばって扉の方を恨み気に睨みつけていると、モニカさんが遠慮がちに声をかけてくる。

 くそっ!覚えてろよアフィ。ひとまず、モニカさんの優しさに免じて今すぐに追いかける真似はしないが後から絶対に報復はすることを誓った。

「大丈夫です。取り乱してすみません」

「いえ、お気になさらず。落ち人の皆さんはこの世界に来たばかりでは混乱することが多いですから」

 ああ、モニカさん。癒されるなぁ~。顔がにやけないように堪えないと…!こんな早々にモニカさんに惹かれたらこの世界で生きていけねえ!

「ご安心ください!借金を返し終えるまでは町の代表クランから指導員が付くことになっていますから危険はありません。それに、最初の方は依頼料が高めになるのでひと月もあれば借金は返済できますよ」

「そうなんですか。よかった」

 ホッ…。ひやひやしたぜ。

 あれ、代表クランっていうことは…、

「あの、つまり指導員になるのはリリィたちなんですか?」

「はい、リリィさんをはじめとした『貴婦人の話題』メンバーの誰かになります。おそらくはリリィさんかペルニカさんになると思います。指導員は基本的には常任一人、難易度によって追加で一人二人となります。今現在一人二人で行動できるような実力者がお二方だけですので二人の内どちらかになるのはおそらく確定でしょう」

 あの二人なら少しは知っているから安心だな。ここで見ず知らずの人になってギクシャクしながら命がけの冒険をするのはごめんだぜ。

「以上で私からの説明は終了となります。ご質問がある場合またお気軽にお声かけください」

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