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想いの強さ

「「でやああああっ!」」

 マツリとアネストさん、二人の女性が思いを込めて放った一撃がぶつかり合い、衝撃波が謁見の間を揺らしていく。


 初めのぶつかり合いは互角。

 だが、二人の戦いは徐々に形成がアネストさんに傾いていった。


「くっ、ぐぅ…!つぇあっ」

 あくまでも一撃必殺のアネストさんの攻撃をマツリは必死に防いでいく。

 相手の力がわからないのは同じだが、危険度は遥かに相手が上。

 想いの強さでは負けていない、両者だが…。このままでは…。


(つ、強い!)

 わかってはいたでござるが、この御仁の強さは異常でござる!

 そもそもどういう原理かこの御仁はこの世界で初めて人を殺し得た人物。生半可な一撃では傷一つつけられぬでござろう。

 だが、こう一撃一撃が重くては、手の出しようが……!


(たしかに、想いは本物のようだ)

 アネストもアネストで同じように考えていた。

(だが、いくら想いが本物のであってもそれに伴う力がなければ無意味!)

 かつての力なき時代を思い出し、その時の無力感を思い出す。そして、今自分が為すべきことを悟った時……彼女の力は増していく。


(……来るっ!)

 猛攻を受け続けながら、マツリはアネストが必殺の一撃を放つ用意をしているのを感じていた。

 先程から刀身越しに伝わってくる気迫、それは収まるどころか時間が経つにつれてどんどん膨れ上がっていく。

(…このままでは)

 そう思った時、マツリは彼女よりも先に必殺の一撃を放つべく力を解放した。


 ――“桃源郷への誘い”

 譲れぬ想いを悟ったマツリは、その想いが至る悲劇を避けるべく彼女の正気を取り戻すための一撃を。

 ――【断罪】

 内側から溢れ出る暗き衝動を抑えきれず、自分のすべてを乗せる一撃はかつての力なき時代の自分と重なる相手を切り崩さんと無慈悲な一撃となる。


 どちらの想いもとても強いモノだった。

 だが、ここでの勝因を上げるとすれば過ぎ去った過去としてどうなるかを知っていたという経験だろう。

 ……軍配はアネストに上がった。


 マツリの放った一撃はまるで力を失くしたように枯れ果て、アネストの放った一撃はマツリの一撃を喰らいつつ彼女自身も呑み込もうとしていた。

 渾身の一撃を退けられ、崩れ落ちるマツリ。

 そんな彼女に死神のように無慈悲な刃を振りかざさんとするアネスト。

 

 アネストの凶刃がマツリを断ち切ろうとしていた時、炎の刃がそれを断ち切った。


「――アネストさん、こいつは一人じゃないんだ。次は俺が、俺たちが相手になりますよ」

 俺は、背後に仲間を引き連れ彼女とマツリの間に割って入る。

「させるとでも?」

「…そうは思わないさ。だから――」


「――押し通らせてもらう!」

 俺が不敵に言い放つと、俺の背に隠れるようにしていたミルルが飛び出し、彼女を惑わす。

 注意を逸らされた彼女は、ミルルごとマツリを断ち切ろうとするが、二人は後方に控えていたヤノンがスキル名の通り、まさに『軽々』と引き寄せる。


「くっ!!」

「ははっ、随分悔しそうですね」

 そんなに、マツリとの決着を着けたかったのか?

 いや、違うな。

 彼女が決着を着けたかったのは、かつての自分自身だ。マツリの真っ直ぐさは昔の彼女に似ていたんだろう。

(だったら、尚更あいつを殺させるわけにはいかねえな…!)


「さあ、仕切り直して行きましょう。まだまだ俺たちはあなたを止めますよ?」

 さて、問題は二つ。

 彼女との間合いを測りながら、俺はこの戦闘における問題点を考えていく。


 一つは、当然彼女の力。

 どういう原理かはわからないけど、彼女の一撃は命を奪うことができる。まあ、それについては確証こそないが対処はできそうだな。

 マツリとアネストさんの攻防は無駄ではなかった。

 二人の戦いを見て、ヒントは十分掴んでる。そこにさえ気を付ければ…。

(どちらかというと大変なのはもう一つの方だな)

 もう一つの問題。それは…、ジュリアンさんの【予知】。

 あの様子だと彼女がアネストさんとの戦いに参入してくるとは考えにくい。だが、彼女は王たちの死を予知している。

 どういう状況でそれが起こるのかはわからないが、彼女自身ジュリアンさんがいることが条件だと言っていた。

 つまり、彼女が見た「死」は迫ってきている。

 早々にケリを着けないと…。


「――さあ、第二ラウンドですよ」


 相手が殺す気で来ている以上、こちらも手を抜いてなんかいられない。

 それはわかっているが、どうしても……。

「どうした!その程度の攻撃で私を止められると思っているのか!」

(チッ、重い…!マツリの奴、よくこんな攻撃を受け切ってたな)

 アネストさんの攻撃は一撃一撃が重い。いや、重すぎる。

 一切躊躇ない攻撃。対処法が朧気に簡単にわかっているとはいえ、これを受け続けるのはマズイな。


 その時、アネストさんがダンッと踏み込んできた。

 来た…!

 咄嗟にある部分を防ぐ。


 ――ガキィィン!!

「やった!」

「バカなっ!?」

 刃と刃が激しくぶつかり合い、辺りに金属音が響く。そして、それを合図にしたかのように真逆の言葉がそれぞれの持ち主からこぼれ出た。


(ほらな!思った通りだ。やっぱり、アレは首しか落とせない)

 俺は思惑が的中したことを素直に喜んだ。

 先程からのマツリとの戦い、マツリは想いに囚われ過ぎていたのか防戦一方だったが、見ていればほとんどが首を狙っていることに気付いた。

 だから仮説を立てた。

 ――もしかしたら、首しか斬り落とせないのでは?

 それをたしかめる手段はなかった。首以外に相手の攻撃をぶつけさせるというのは危険すぎるし、もしそれで仮説が外れていたら…そう思うと試す気にはなれない。

 だから逆に考えた。もし仮説通りならばここぞという時、つまりは必殺の一撃の際には首を狙ってくると。

 そして、それは正解だった。

 そして、防いでしまえばアネストさんの方が不利になる。

 元々この世界で剣というのはあまり重視されていない。ほとんどが儀礼用ということは刃がある必要がない。つまり、潰してある。

 

 火力を一気に上げ、丸みを帯びた刃に突き立て、思いっきり振りぬく!

 【炎刃】という熱の刃で相性もよかったのか、アネストさんの剣の3分の1を軽々と切り落とした。

(よしっ!)

 内心で喜び、戦闘中だということを忘れてしまった。

 圧倒的有利になったという状況が慢心を産んだ。

 

 必殺の一撃を止められたことでアネストさんの意志は変わった。多少の犠牲を払ってでも仕留める。そう彼女は考え、俺の考えを先読みした。

 つまり、彼女は俺に武器が潰されることを読んでいた。

 武器を潰された彼女だったが、まだ目は死んでいない。

 むしろ、そこに確たる決意を宿らせ油断している俺の首に残された刃を振りぬく。


 ――ヤバ、死んだかも

 一気に懐に入られ、振りかぶられる刃がスローモーションに見える中、俺はそんなことを考えていた。


「「……ッ!?」」

 振りぬいたアネストと振りぬかれたシィド。二人は固まっていた。

 シィドの首にはたしかに刃が添えられているが、切り落とされてはいない。アネストは完璧に振りぬいたが、切り落とせてはいない。


「……ふぅ、上手くいってよかった」

 そんな二人の間に進み出るルルミ。額を拭い、安堵の息を漏らす彼女の腕にはつい先日【テイム】したばかりの小さな鶏がいた。

 

(……ポッコのブレス)

 それを見て、シィドは何が起きたのかを理解した。

 アネストの刃が当たる瞬間、ポッコのブレス――魔力無効化によって彼女のスキルが効果を失った。

 だが、そんなことを知るはずもないアネストには何が起こっているのかわからなかった。自分の必殺の一撃はたしかに当たったはず。

 なのに、現実はそうならなかった。

 ――混乱する彼女の背後に回り込む人影。


「つぅ~かま~えた」

 羽交い絞めにした人影――キャロルはその人間離れたした腕力でしっかりと彼女をホールドする。

 その足元にはピリノンが操った植物が二人の脚をガッシリと地面に固定していた。

「今よ!やりなさいっ!」

 キャロルに言われ、ハッとなった俺は灼月を放し、握り緊めた拳をアネストさんの鳩尾に叩き込んだ。


「――ガッ!」


 支えられているアネストさんはキャロルにすべてを預けるように意識を手放したのだった。

 



 ――シィドたちには俯いて見えなかったが、敗けたアネストの表情はどこか安らかで満足気に微笑んでいた。

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