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閑話:彼女の日記『小さな妹』

 予告通り閑話です。ちょっと殺伐としていたのでほのぼの回にしてみました。

 ――それは、まだ私がママと一緒に各地を転々としていた時代。

 そして、私がまだ彼女と出会っていなくて…彼女と出会うまでの話。


「ねぇ~、まだぁ?」

 私ことククリユ・マツリはママであるククリユ・エニシと共に旅を続けていた。

 私はこの世界コメディカルティアで生まれたけど、ママはこの世界の人間ではない。世間一般で言うところの落ち人さんである。

 そんなママはかつて冒険者をしていた時代、パパと出会いお互いに惹かれあって結婚し私が生まれた。

 パパは私が小さい頃に病気で死んじゃったからあまり覚えてない。だけど、とても優しくママと私を愛してくれていたのは覚えてる。

「はいはい、今行くわよ」

 ママはちょっとがさつというか大雑把だ。

 パパが死んでから悲しんでたのはその日だけ。まあ、私が一緒にいたから悲しむ余裕がなかったのかもしれないけど…。

 でも、パパが死んですぐに私を鍛え始めた。

 

『パパと約束してたんだ。マツリが大きくなったら、私たちが見た世界の素晴らしさをマツリにも見せてあげようって。だから、マツリ強くなろう。二人でも生きていけるように…!それからパパの想いの分まで世界を見て回れるように!』

 

 そう言っていたママの顔は笑っていた。パパが死んだ悲しみを乗り越えるのではなく、一緒にいると伝えて満面の笑みで。

 だから私は頑張れた。

 

 ママとの修業は大変だったけど、おかげで私も大体のことは一人で出来るようになった。料理の腕はママを超えてるかもね♪

 

 そんな厳しくも優しく、それでいて強いママが私は大好きです。

 ……だけど、一つだけ不満があります。

 ママはまだ私がジョブに就くことを許してくれません。この世界では早い子では私の半分ぐらいの歳でジョブに就く子だっているのに。

 変なところで過保護なんだから!


 一度そのことでママに文句を言ったら、

『う~ん、ジョブはただ就けばいいってもんじゃないの。何をしたいか、どうなりたいかをきちんと考えないと後悔することになっちゃう。だから、周りの人とかじゃなくてマツリがどうなりたいかが決まってから就いてほしいんだ』

 そう言ってはぐらかされた。


 私がどうなりたいかってどういう意味だろう?

 私はママと一緒にいられるならそれだけでいいのに。


 それからも私たち親子は二人でいろいろな土地を巡った。

 そこで面白いモノを見たり、綺麗な景色を見たり、海を渡って別の大陸に行ったりもした。

 たまに魔物に襲われたりして怖かったこともあったけど、それ以上に楽しい毎日を送ってた。


 ――あの子に出会ったのはそんな時だったなぁ。


「ママ?その子、だぁれ??」

 ある村に寄った時、村長さんと話していたママは知らない子供を連れて来た。

 その子供は他の村の人たちみたいに腰のあたりを太い紐でぐるぐる巻きにした見たことのない服を着ていた。

「この子を村に滞在している間だけ、預かることにしたの」

「ええっ!?」

 ママから告げられた衝撃発言に私は思わず大声を上げてしまった。

「――ッ!?」

 その大声に反応してその子供はママの服を掴んで隠れてしまった。

 …むぅう!私のママなのにっ!

「こらこら、怖がらせないの。マツリ、この子はあなたよりも2つ年下なの。つまりはあなたはこの子のお姉ちゃんなんだからね?」

「……はぁ~い」


 それからしばらくはその村に滞在した。

 私たち親子の間には常にその子が一緒にいた。

 一言でいうと、その子は変な子だった。

 私が村の子供たちと遊んでる時は遠くから見てるだけで混ざろうとはしてこない。なのに、村の子供たちが離れた途端、私の傍にやって来て服を掴んで離さない。

 常に私からママの傍にいるそんな子だった。


「……変な子」

 私の印象はそれだけだった。


 ある日、その子が高熱を出して倒れてしまった。

「ママ、やめてっ!無茶だよ!今から探しに行くなんてっ!」

 ママは外が大嵐なのに、その子のために薬草を探しに行くと言い出した。

「…マツリ、この子の様子だと危ないの。一刻も早く薬草が必要なのよ」

「それは…わかるけど」

 この村では薬草は春先に採取した分を次の春まで使う。だけど、今は冬の近付いてきた季節。村の薬草の在庫はほとんどなかった。

「だけど、なんでママが行くのっ!?この子のパパやママはどうしたのよ!?」

 この時、私はパパが死んだ時のことを思い出していた。

 顔色が悪くて、そのまま起きなかったパパ。

 ママはその体に縋りついて泣いていたけど、私は怖くて触れなかった。

 触って死んでいるのを実感するのが怖かった。


 わかってる。この子には頼れるのは私たちしかいないんだってことぐらい。

 この子を預かってからもう2か月は経っている。その間、この子が私たち以外と一緒にいたのを見たことがない。

 おそらくパパとママはもういないんだということもわかってる。

 それでも私のママを奪わないで!その思いがあった。


 ママは私が叫ぶのを見て、決心したように教えてくれた。

「――マツリ、この子はね…ママと同じなの」

「……ママと?」

 どういう意味だろう?

「この子は、落ち人なのよ」

 

「村に来た時、村長さんに紹介されたわ。私も冒険者時代から名は売れていたから私が落ち人だということを知ってたみたいでね。

 数日前にやって来た落ち人の子供だが、幼すぎてまだ現実を受け止めきれていない…そう言われたわ。そこで同じ落ち人である私ならなんとかできるんじゃないかってね」

 そういえば、この村って落ち人さんがほとんどいなかった。

「言っちゃ悪いけど、辺鄙な村だからね。たしかに物が溢れている世界から来たら物足りなくなっちゃうのかな。

 だからって、私に丸投げするなって話だけど…。それでも私はこの子を預かろうと思ったわ。なかなか、心を開いてはくれないけど…、私もこの世界に来たばかりの頃は不安だったから。この子も私と同じなんだって思ったらほっとけなくってさ」


「――マツリには悪いと思ってるけど、この子を放っては置けない。この子にマツリを授けてくれた世界を嫌いになってほしくないの。だから、私は行くわ」

 そう言って出て行くママを私は止められなかった。


 ママがいなくなって、私は一人その子の看病を続けた。

 何をしたらいいのかわからないから濡れ布巾を変えただけだけど。

 何度目かの交換をしようとした時、その子が急に私の手を掴んできた。

 いつも服を掴まれることはあっても、触られたことはなかったのでビクッとしたけど。その子の弱々しくて燃えてるんじゃないかってぐらい熱い手を握り返した。


「……おかあ、さん」


 そしたら、その子そんな風に呟いたの。 

 魘されて、昔の想い出を見ている彼女を見た瞬間。私は叫んでた。

「――大丈夫!ママは…私たちのママがすぐに助けてくれるからっ!それまで、私が、お姉ちゃんが傍にいるから頑張って!」

 そしたら、その子ニコッて笑ったの。

 可愛かった。

 それに、嬉しかった。

 ママがこの子を引き取ろうって決めたのがなんとなくわかった。

 

 嵐が収まった頃、ママが全身ボロボロにして薬草を持って帰ってきた。

「――ママっ!」

 駆け寄って抱き着く。あの子には大丈夫って言ったけど、やっぱりどこか不安だった。

 

 薬草で落ち着いてきたころに私はママに、

「あの子は私の妹にしよう!家族になろう!」

「――うん、そうしよう」

 そう言ったママは嬉しそうだった。

 そのまま私とあの子を一緒に抱きしめて小さな声で「ありがとう」と呟いた。

 私も「ありがとう」と返して――その日、私に妹が出来た。

 次回から都市間騒動編の終わりまではまた殺伐とした話に戻ります。

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