壊れる世界
都市間騒動編はクライマックスが近づいてきましたが、これからしばらくは衝撃的な展開が続くので御覚悟ください。
あ~あ、結局何の解決策もなく王城に着いちまったよ。
疑心暗鬼野郎こと、ギッシー・アンキ率いる北部主要都市の兵士たちに連行され、俺たちは中央主要都市…現王都セントルへとやって来ていた。
…そういえば、初めに来た時は素通りだったんだよな。
できれば、こんな形じゃなく観光で来たかったな。
「ノスマン代表ギッシー・アンキ様、ご入室~!」
兵士の呼び声を聞きながら、俺たちは中へ入っていく。
そこには、見知った顔が数人いた。
「……陛下、怪しい連中を捕らえましたので連行してまいりました」
いけしゃあしゃあとまあ…。俺らよりもお前の方が遥かに怪しいっつーの!
「…ご苦労」
王様は…こりゃまた随分な年寄りだな。
レキシントリアのチャオ爺といい勝負、いやチャオ爺よりも痩せてる分老けて見えるな。
あの人はあれで職人だからかしっかりとした感じだったしな~。
「……して、此度はどのような罪状で捕らえたのじゃ?」
頬杖を付き、疲れてますとでも言いそうな雰囲気。見るからにげんなりしている様子から疑心暗鬼野郎がこういう風に罪人を連れてくるのはよくあることらしいな。
…………
………
……って誰が罪人だ!!
(よっし。落ち着いた)
さすがにずっと罪人扱いでは肩が凝ってたところだ。
「はっ、この者たちは陛下が暗殺されるなどという世迷言を申しておりました。よりにもよってこの世界で、です。どのような野蛮なところから来たかは知りませぬが、冒険者…しかも落ち人となると神を恐れぬ輩ばかりで困ります」
……なっ!?
あまりの言葉に頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
この国が排他的だということは知っている。しかし、落ち人をここまで差別的に見るとは思っていなかった。
「「「…………」」」
みんなも絶句して言葉が出てこないみたいだ。いや、下手に逆らえば状況が悪くなるだけ。ここはぐっと堪えなければ…。
「……やはりそうか。余も先程似たような話を聞かされたところだ」
王は俺たちを一瞬見て、それから視線を代表たちにへと移した。
その視線で察したのか、疑心暗鬼野郎は大仰にため息をついた。
「……なるほど、お前たちの入れ知恵か」
「入れ知恵とは酷い言いがかりだな。国の危機に立ち上がるのは我々代表の務めではないか?」
「…バトムスよ。言っても無駄じゃよ。こやつはどうせ最初の話を聞くよりも前にシィドたちを疑っておったんじゃからな。まったく、その疑り癖はそろそろ直した方が良いのではないか?」
「…………」
バトムスさん、クノン代表がそれぞれ疑心暗鬼野郎の態度を諌めていく。
しかし、なぜジュリアンさんは一言も発しないんだ?元々の情報を持ってきたのは彼女だ。だったら、彼女が発言するのが一番いいのでは…?
「…クッ、おいサウストの小娘!貴様も何か言ったらどうだ?」
貫禄負けしている自覚があるのか、言い返すこともせずジュリアンさんに突っかかる。
ただ、若いから強気に出ているというよりも彼女のことが気に食わない。そんな雰囲気を感じるのは気のせいだろうか?
「……何か、と言われてましても私は何も意見はありませんわ」
……意見がない?彼女の予知から始まった話のはず。だったら彼女の意見は重要になって来るんじゃないのか?
「…待て、ジュリアン。それはどういう意味じゃ?私たちはシィドたちからお前の予知によって伝言を伝えに来たと聞かされておる」
クノン代表の質問に対し、ジュリアンさんは信じられない答えを返した。
「……先程から気にはなっていたのですが、そういうことでしたか」
納得したという表情を浮かべ、
「残念ですが、私はそのような方々は知りませんわ」
「「「!?」」」
「な、何をバカなことを…!お主から送られた書状もあるっ。それで赤の他人だなどとよく言えたものじゃ!」
「……ジュリアン。君は、いや君たちは一体何を考えているだ?」
「そうですよ!俺たちはあなたたちに頼まれて代表たちに書状を届けたんですよ!」
「……ですから、私はあなた方を知りません。書状?勝手に私の名前を書いて出しただけではありませんか?」
知らぬという彼女の眼、それは本当に知らないのでは…。そう感じさせるほどに俺たちを認識していないようだった。
この数日の間に何が起きたんだ。
「……代表同士で争っても仕方が無かろう。ひとまず、そやつらのことは後回しにせよ。……アンキよ、このような場だが、お主にも聞いてもらわねばならんことがある」
「……わかりました」
王に対しても渋々という態度を崩すことなく不承不承に頷く。
「…では、クノン。報告を」
疑心暗鬼野郎が頷くのを見て、王はクノン代表に話を振る。
クノン代表はキッとジュリアンさんを睨みつけ、それでも何も言わずに前に進みでた。
彼女が話す内容はこの前の魔物のことだろう。
「――先日、私たちが遭遇した魔物についての報告をさせていただく」
「――そ、そんなバカなことがあるわけかろう!」
クノン代表の話を聞いて真っ先に反応したのが、疑心暗鬼野郎だった。
彼は信じられないとばかりに頭を抱え込み、もう何も聞かないと耳を塞いでしまう。
「……まったく、これだから」
その取り乱しように呆れ果てるクノン代表。
「……うちの秘書から聞いてはいたが、本当にそんなことが起きていたなんて」
何度聞いても信じられないと漏らすバトムスさん。
「…バトムスの言う通りじゃ。俄かには信じられん話じゃな」
「っ!そうですっ!陛下、おそらくはこやつら全員がぐるになって私たちを嵌めようとしているに違いありません!」
王の言葉から自分の味方だと判断したのか、疑心暗鬼野郎は王に縋るように捲し立てる。
「――じゃが、代表であるクノンの言葉を無碍にするわけにもいかん」
「…そ、そん…な」
王の口から告げられた言葉に愕然となり、よろよろと後退する。
そして、同じように驚いているがどこか落ち着いた態度を崩さない女性に襲いかかった。
「何をなされるっ!」
その女性――ジュリアンさんに襲いかかろうとした疑心暗鬼野郎は女騎士アネストさんに阻まれる。しかし、その状態ではなんとかしようと必死で手を伸ばしている。
「き、貴様が――」
「私が、何ですか?」
まるで道化のような疑心暗鬼野郎にあくまでも毅然とした態度で返すジュリアンさん。その姿は、やはり以前会った時とは何かが違っているように思えた。
「貴様が、すべての元凶だろう!すべて貴様が仕組んだことなのだろう!」
脅迫概念に追われているかのように喚くが、彼女は態度を変えない。それに反応するのはアネストさんだけだ。
彼女は自らの主に危害が及ばないように疑心暗鬼野郎を阻む手に自然と力が入っていくのを感じていた。
「ありえないのだ!神が創ったこの世界に我々以外が存在する余地があってはならん!我々こそがこの世界の正式な住人で、神に選ばれし存在でなければならんのだっ!!」
ギッシー・アンキ。彼は神職についておらず、教会に所属しているというわけではないが、神を信じ依存する狂信的な信者という一面も持っていた。
だが、彼が信じているのは神ではない。彼はただ皆が信じる神を信じないことが怖いだけだ。神を蔑ろにすることで災いが降りかかるのではと常に恐れている。
当然、そんな彼の発言は今も昔も敬虔な信者である彼女たちの琴線に触れることとなる。
「――神に選ばれし存在?貴殿がか?冗談もここまでくると笑えないな」
最初に切れたのは、アネストさんだった。
彼女はまるで埃でも払うようにギッシー・アンキを払い除け、腰に差してあった剣を抜き放った。
「ヒィィイイッ!!」
向けられた刃に悲鳴を上げて後ずさるギッシー・アンキ。
彼をゴミのように見下しながら、言い放つ。
「それが選ばれた者の態度か?選ばれているというのならば信徒である私の刃など恐れる必要はなかろう」
今にも斬りかかりそうなアネストさんだったが、それをジュリアンさんが止める。
「アネスト。それぐらいにしておきなさい。そのような汚らわしい存在、あなたが相手をするまでもないわ」
ジュリアンさんから告げられた言葉。それは、疑心暗鬼野郎にとって最も我慢できない言葉だった。
「――け、汚らわしい?こ、っこの私がかっ!」
先程まで恐怖で震えていたのと同一人物とは思えないほどに彼は大声で怒鳴りつけた。
「当たり前じゃない。あなた以上に誰がいるというの?」
その怒りさえも何でもないように受け流し、侮蔑の視線を向ける。
だが、今度ばかりは彼もやられっ放しではいられなかった。
「汚らわしいのは貴様の方であろうがっ!!」
「……私が、汚らわしい?」
彼女は怒りのままに自分よりも低い位置にある男を睨みつける。
「そうだっ!国を捨てて飛び出し、その先で救えるはずの者たちを多く屠ってきた貴様だ!貴様こそが汚らわしい!」
(……何を言っているんだ?)
「私が知らないとでも思ったか!?私は知っているぞ!貴様は【予知】という力を持ちながら、数千という命を見捨てたっ!そんな人間が汚らわしくないとでもいうつもりかっ!貴様の手は殺した人間の血で赤く染まっておるわ!」
「貴様…!それ以上言えば――」
「それ以上言ったからとどうするつもりだ?貴様もこいつ同様、いやそれ以上に穢れているくせに」
「ッ!?」
「言ったはずだぞ?私は知っている。あの女が見殺しにした街へ乗り込んだことも。そこで生き残りに襲われ、足の自由を失ったこともっ!」
「――そして、貴様が怒りのままにそいつらを再起不能にしたこともすべてをな!その所業で教会を追われたお前たちが互いに助け合っているつもりか?違うな。お前たちは自分の傷を舐め合っているにすぎん! お前のような役立たずを護衛として使ってやっているのだって、お前の負い目が利用価値ありと考えられているからにすぎんだろうが!」
――バリィン
その時、何かが割れるような音がした。しかし、それが起きるまでは何の音だったのかわからなかった。
「――言いたいことはそれだけか」
アネストさんの体から黒いオーラが溢れだした。まるで魔物が放つオーラのようにドス黒い気配だった。
「では、死ね」
そして彼女の放った剣戟はギッシー・アンキの首と銅を断ち切った。
それを見て、ようやく俺は気付いた。さっきの何かが割れるような音。あれは、世界のルールが割れる音だったのだと。




