心の証明法
ストックがなくなりました。ちょっと次話には時間がかかるかもしれません。遅くとも月曜には投稿します。
「はははっ、いやぁ客人とは知らずに恥ずかしいところを見せてしまったね~」
愉快そうに笑う男を疑いの目で見ながら俺たちはジュリアンさんからの紹介状を見せていた。
(……こいつが本当にここの代表なのか?)
あの後、吹き飛ばした方の男は冗談だろうと笑い飛ばそうとした。
『…どうかな?』
しかし、この男がそう告げると何かに脅えるように青褪めていき、その直後仕えると宣言していた。
男の表情はまるで得体のしれないナニカを見たかのようだった…。
「改めまして。僕がブゲキの代表を務めているアウグスト・バトムスだよ」
差し出された手は柔らかく、とても戦いをするような手ではなかった。
(この人が本当に決闘好きなのかな?)
事前に伝えられていた情報とのあまりの違いに首を傾げる。
「さて、ジュリちゃんからの手紙を見てもいまいち要領を得ないわけだが…。君たちは一体ここに何をしに来たのかな?」
ジュリちゃん…ジュリアンさんの手紙を読み終えたバトムスさんはそう尋ねてくる。
(ここは、相手の出方を窺っておくか)
「……ちなみに、ジュリ…サウスト代表の手紙にはどのように書かれているんでしょうか?」
「あれっ?君たちについて書いてあるから読んでると思ったんだけど?」
「さすがに、代表に届けるように言われた手紙を先に読むような真似はしませんよ」
「そう?別にかまわないのに…。じゃあ、はい」
苦笑いを浮かべつつ告げるとバトムスさんはあっさりと手紙を見せてくれた。
「ど、どうも…」
これには拍子抜けしてしまった。
(……手紙を見せるってことは、大したことは書いてないってことかな?)
ジュリアンさんが先に何らかの手を打ってくれていると思ったが、当てが外れてしまったようだ。
「……これは、たしかに要領を得ませんね」
渡された手紙を読んで、思わずそう漏らしてしまう。それほどまでに手紙には内容らしい内容が書いていなかった。
「うわぁ~、これは駄目なのですよ」
「何よっ!これじゃあ、私の良さがぜんっぜん伝わってないじゃない!」
俺が読むのを横から覗き込んでいたみんなも同じように呆れてしまっていた。
結局のところ手紙の内容を要約すると『あなた好みの面白い人材と出会ったので紹介します』。そんな感じの内容だったのだからしょうがないっちゃあしょうがないんだが…。
(ジュリアンさん~、もう少しなんとかならなかったんですか??)
これは嘆かずにはいられない。
あの人、常識的な人だと思ったんだが…。やはり、代表にまで上り詰めた人は常人とは感性が違うらしい。
こうなったら、こっちが腹を括るしかない!
「バトムスさん!俺たちは、とある依頼を受けてあなたに会いに来ました」
決意を胸にそう切り出したのだった。
「…依頼ってジュリちゃんからかい?」
急な話にバトムスさんは意味が分からないといった表情を浮かべる。
「はい、そうです。騙すような真似をして申し訳ありませんが、その手紙は言ってしまえば俺たちが会うための方便のようなものです」
(さて、ここからどうやって話を持って行くか…)
頭を下げながら今後の展開の模索するべく脳みそをフル回転させていく。
「……で、その依頼の内容は何なんだい?」
(やっぱりそうなるよな…)
当然と言えば当然のことだが、予想通りの質問に言葉が詰まる。
(まさか、近いうちに国王が死に内乱が起こります…なんて正直に言えるわけないしな)
何と言うべきか考え、頭を捻る。
(そもそも俺はこういう知能系の役割は向いてないんだよ)
――自分自身、直感で動く本能タイプであると自覚しているシィドはどうすればいいのか真剣に頭を悩ませていた。
しかし、そんな空気を読まない存在がいるのを忘れていた。
「……未来、国王、死亡。…犯人、あなた?」
単語を区切り、要点だけをハッキリと伝えたピリノン。彼女の指先は堂々とバトムスさんへと向けられていた。
「ちょと待てちょと待て!!」
おいおいおい!いきなり何を言ってんだよ!?
慌てて止めるが後の祭りだ。
「…わかり難いようだからハッキリ言ってあげるわ。近々国王が殺されるという予言があったのだけれど、その犯人はあなた?あなた王に恨みがあったりするんじゃないの?」
ピリノンを止める一方で、キャロルがさらに言葉を重ねた。
「おい!キャロル…」
「(こういうのは変に言い繕うよりもハッキリと言った方がいいのよ)」
訂正させようとした俺にキャロルはそう囁く。
「(それに、もしこいつが犯人だったら知られている犯行を行うのは得策ではない。…そう考えるんじゃない?)」
「……!!」
言われてみればそうだ。
自分が犯行を行うのを事前に知られていれば今進めている計画通りにことを行うような真似はしないだろう。するにしても警戒して行うはずだ。そして、警戒するってことは周囲に違和感を与えることにもなりかねない。
だとすれば、対策は取りやすいモノになる!
(…こいつ意外と考えてるんだな)
肝心のバトムスさんだが、ピリノンとキャロルの問いかけに対し考えるような素振りを見せている。というか、言われてから黙りこくっている。
そして、ようやく重々しく閉ざされた口を開いた。
「……『予知』ってことはこの情報はジュリちゃんが齎したってことだよな?」
「誰かは言えません。しかし、俺たちはサウスト代表から託りました」
例え、バトムスさんがほぼ確信していてもここで明らかにするわけにはいかない。
もしかしたら俺たちのせいで都市間の問題に発展する可能性だってある。それは避けないと…。
「………ふむ、そうなると話は変わる。こんな国家的大事件をなぜ君たちのような旅人に任せたのか。それをジュリちゃんに問い質さないといけない」
「それをしている時間があるんですか?もしかしたらその予知は明日にも起こるかもしれないんですよ?」
ジュリアンさんの見た風景が本当ならば、俺たちは少なくとも主要都市代表全員と一緒にいたらしいからその可能性は限りなく低いが…。それでもこのまま連行されてジュリアンさんへの問題追及の材料となって…そんな可能性もある。
「だが、僕は今のまま君たちを信用するわけにはいかない。それは僕の職務だし、この都市を預かる者として小さな可能性でも捨てるわけにはいかないからだ」
「……小さな可能性?」
引っかかる言い方だな。
「――ジュリちゃん…いや、サウスト代表が君たちを嵌めたあるいは彼女こそが国王を殺害する犯人である可能性だよ」
「…なっ!?」
バ、バカバカしい…!
「そんなことあるわけないんじゃないですか!」
「どうして君がそんなことを言えるんだい?」
「……そ、それは」
そう言われると何も言い返せない。
そんな俺の心情を見透かしたように言葉は重ねられていく。
「…ほらね。君は言われるがままにここへ…僕の下へとやって来た。それが彼女の言うところの予知による結果だとは考えなかったのかい?」
「…………」
もう、俺には言い返す言葉がない。
言われてみればおかしいのだ。いくら国の存亡に関わると、しかもそこに俺たちがいたと言われたからと言って何故俺はそれを信じたのか?
まるであらかじめ定められていた運命による強制力に翻弄されただけなのではないか?そんな考えが頭を過り、思考を停止させる。
「――予知とは、信じたい者を導く道標でござる」
思考の牢獄に囚われた俺に彼女――マツリの言葉が届いてくる。
「代表殿、差し出がましいことかもしれませぬが、予知とはそういうモノでござる。信じたい者だけを導き、それ以外には抗う力を授ける。それこそが予知ではありませぬか?」
それまで口を閉ざしていた彼女の言葉には不思議な説得力があった。
「……君は予知について詳しいのかな?」
探るようなバトムスさんの言葉にマツリは微笑むことで返した。
その微笑みから何かを感じ取ったバトムスさんから俺たちはチャンスを貰えることになった。
「…ふむ。わかった。じゃあ、君たちを見てから彼女を信じるかを決めよう」
「……で、なんでこんなことになってんだろうな?」
俺とマツリは大観衆が見守る中、コロシアムに立っていた。
「…シ、シィド殿~」
そんな情けない声を出しながらもじもじとしているマツリ。彼女の格好は普段の着物ではなかった。
「こ、こんな恰好…恥ずかしいでござる」
本当に恥ずかしいのかもごもごと尻すぼみなマツリ。
「うるさい!俺だって恥ずかしいんだぞ!」
そう、実は俺もマツリ同様に普段通りの格好ではない。
というか俺に至っては服を着ている感覚すらないのだが…。
「大体、お前はまだいい体してんだからいいが、俺は…」
俺はチラリとマツリの格好を見る。
マツリが今着ているのは、アネストさんが身に付けていたビキニアーマー。それも真っ赤で派手なやつだった。
太陽に照らされたその肢体は鍛え上げられた肉体の美しさがあり、実に映えている。
ハッキリ言ってこんな状況でなければまじまじと舐め回すように見つめたい…そう思ったことだろう。
「――なんで、俺がこんなセクスィーなパンツ一丁なんだよ!」
そう、パンツ一丁でさえなければ。
俺は今、防具を除けば元の世界で競泳用あるいはボディービルダーが履くようなぴちっとした際どい系のパンツだけだった。
「い、いいいい、体な、なんんて…そんにゃこちょはごじゃらんよ!!」
顔を真っ赤にして否定するマツリ。
(……はあ、本当に。俺がこんな姿じゃなければ…)
そう思わずにいられない。
そもそもどうしてこうなったかというと――
『『『はぁっ!?決闘をしろ~??』』』
バトムスさんから突如として告げられた大決闘大会への出場。それに俺たちは意味が分からず大声で異議を唱える。
――大決闘大会。それは、ここブゲキでは頻繁に行われている武道大会。スキルも魔法も一切の使用を禁止された体技でのみ戦う決闘。
『僕はね、決闘を見ればその人がどのような人物か何を考えているのかが大体わかるんだよ』
戦いを見ればその人の為人がわかる。それは、よく聞く話でもある。
『――しかも、僕の場合はその人が今やろうとしていることに携わる人の感情までわかる。つまり、君たちが決闘に参加することでジュリちゃんの真意を見極める。そういうことさ』
とてもじゃないが、信じられない。
かと言って…、
「……シィドさん、ここは受けるしか」
そうだ。ここは受けないといけない。足止めをされている間に取り返しのつかないことになるわけにはいかない。
それに…、
「つまりはあなたの納得する決闘を見せれば納得していただける。そう解釈してもいいですか?」
「もちろんだよ」
そうして俺たちは大決闘大会への出場を決めた。
出場を決めたはいいが、誰が出るのか。それが問題になった。
まずヤノンと双子は論外だ。非戦闘系のヤノンと子供を戦わせるわけにはいかない。
残るは俺、マツリ、キャロル、ピリノンなわけだが…。ここで当然キャロルは外される。そもそも人間でない以上参加資格を持っていないのだからしょうがない。
残ったのは3人だったが、どう見てもこの3人だったら俺とマツリが出る方がいいだろう。
そもそもバトムスさんに決心させたのはマツリの言葉だし、俺は唯一戦えそうな男だ。ここで引くわけにはいかない。
「――マツリ、恥ずかしがっててもしょうがねえ!やるぞ!」
「…うぅ~、わかりましたでござる」
恥ずかしがって腕で体を隠そうとするマツリを引き摺り、俺は決闘の舞台へと昇る。




