えっ?ここって異世界だよね?
「……出ろ」
ピリノンに協力を取り付けしばらくすると、衛兵が現れ俺たちを移動させる。
(やはりおかしいな…)
移送中、たしかな違和感を覚えていた。
手枷こそされているものの特に警戒した様子はない。
それに、俺たち7人と1頭を同時に移動させているのに移送のための人員が5人。しかもうち二人がクレアの檻を動かしているだけ。
テロリストなどと警戒するのならもう少し何かあってもいいんじゃないか?
「……んなぁ!」
連れてこられた先。そこにあったものに思わず驚愕の声を上げてしまう。
あったのは全部金属でできた、車輪の付いた大きな箱状の物体。どう見ても、俺のよく知るアレ。そう、そこにあったのは汽車だった。
「で、電車っ!カッケエエエェ!!」
こら、興奮するな。
やはりこういうところはまだ子供なミルル。目をキラキラさせながら汽車に魅入られている。
「…………」
ルルミちゃんは驚いているだけなのか、ノーリアクション。
そういえば、ここに入ってから気にはなっていたが、やけに道路なども整備されていたんだよな。まさか、ペンタ連合国は技術が進んでいる国なのか?
ガタンゴトンと揺れる車内から見える景色、そこには多くの住宅地が広がっていた。
まさかこの世界で陸橋の上からこんな風に建物を眺めることがあるなんて予想もしなかったな。
揺られること約5分。あっという間に着き、再び歩き出す。
(…ここは、なんなんだ?)
パッと見駅のターミナルみたいだが、線路は奥へと続いているからまだ広そうだがとりあえず上へ上へと階段を上っていく。
階段を上りきった先には町が広がっていたが、人っ子一人見当たらない。
というより、人の気配を感じない。
まあ、手枷を付けている状態で誰かに見られたくはないし、ありがたいかな。
「「「…うっわぁ」」」
歩き着いたのは白い宮殿。中には巨大なシャンデリアやステンドグラス。まるで教会がそのまま城になったかのようなスケール感。
何よりも目を引くのが煌煌と眩しいほどに光輝く床や壁。まるで人工的な照明が付けられているような、そんな明るさがあった。
つか眩しいなっ!
「……その者たちが、例の異国人だな」
凛とした声…そこにいたのはこの内装とは正反対に真っ黒で妖艶な鎧――俗にいうビキニアーマー――を身に付けたいかにも気の強そうな女性だった。
「将軍に敬礼!!」
衛兵たちが一斉に敬礼をし、女性もそれに応えるように敬礼を返してくる。
「…うむ。お前たちはもう下がってよいぞ。後は私が引き受けよう」
「「「はっ!失礼いたします」」」
「……ついてこい」
乱れぬ動きでその場を去っていく衛兵を見送った彼女は、それだけ言うとさっさと先へ行ってしまった。
取り残される形となった俺たちはぽかんと顔を見合わせる。
「……どうする?」
「どうすると言われても…」
「…………行動」
そんな中、ピリノンが真っ先に彼女へついていく。
「あぅ、おい!」
ったく。しょうがねえな…!
「こうなったら行くぞ!」
「ここでしばらく待っていろ。いいか、決して余計な真似はするんじゃないぞ」
一際大きな扉の中に入ってしばらく待っていると奥からその人が姿を現した。
車いすに乗って現れたその女性はまるでスカートの裾を持って優雅にお辞儀をするような美しい動作でこちらに挨拶してくる。
「……皆様、ようこそおいで下さいました。私はサウスト代表アスティア・ジュリアンと申します。こちらは――」
「イリス・アネスト。覚える必要はない」
「すいませんね彼女は少し人見知りなところがあって…」
ふふっと笑みを零す彼女の表情は…儚げでありながらまるで彫刻のような美しさがあった。
それは彼女が持っている雰囲気のせいか、それとも見た目のせいか…。
「……まずはこのような形であなた方を強引にお連れしたことをお詫びいたします。本当にすいませんでした」
「あっ、いえ…」
彼女に頭を下げられるとどうしてか申し訳ないというか、下げさせてはいけない。そんな気持ちにさせられる。
「……どうでもいいけど、なんでこんな真似をしたのか教えてもらえるかしら?」
(キャロルーーー!!)
お前はこんな時でも我を貫き通すのかっ!?
見ろ!お前の発言で女将軍様を怒らせてるぞ!
彼女はこめかみと口元をヒクヒクさせていた。そんな状態でも動かないのはやはりその前にいる人物のためだろう。
見た目通り気が強く、それでいて仕事に誇りを持っている人のようだ。
「…キャロ――」
さすがに注意しようと声をかけようとした時、彼女の異変に気付き愕然とした。
(……こいつ)
よく見るとぷるぷると小刻みに震え、顔色も若干青褪めて見える。
怖いならわざわざあんな言い方しなくても…。
――キャロルがあんな真似をしたのにはもちろん明確な理由がある。
一応、彼女はチタニアにって創られた存在。彼女はキャロルにシィドたちを手助けすることを優先度の高い命令として刷り込んでいた。
普段からのキツい口調も堅苦しさを与えないようにというずれた配慮から来たものでもある。
だから、この場面どこか委縮しているシィドたちに変わって自分が問い質すのがべきと彼女は考えたのだった。
「抑えなさいアネスト。…わかりました。質問にはお答えしましょう。元々、そのつもりでしたので…。ですが、とても信じていただけないかもしれません」
「代表が嘘を吐かないことは私が保証する!だから、信じて欲しい…」
アネストさんはすぐさま頭を下げて切実に訴えかける。これがキャロルの発言に目くじらを立てていた人と同一人物とは思えない。彼女にとってジュリアンさんはそれほどまでに大切な人なのだろう。
「わかりました。信じましょう」
この人の誠意に応えないと…そう感じた俺は自然に返事をしていた。
「ありがとうございます」
「ありが…本当にありがとう!」
目に涙を浮かべて謝辞を述べるジュリアンさん、そして感情を隠すことなく号泣するアネストさん。この二人の姿を見て、信じたことは間違っていなかったと確信した。
「……では、お話しします。私があなた達をこちらへ呼んだ理由。それは――」
――ごくり
「あなた達が、この国…ペンタ連合国の崩壊に関わる人物だからです」
「「「…………へっ?」」」
真剣な表情で告げられた言葉。その雰囲気から嘘ではないと感じたのに、その言葉を理解するのには相応の時間を要した。
「…ど、どういうことです?私たちがこの国の崩壊に関わる…?意味が分からないのですよっ!!」
興奮して喚き散らすヤノン。それを誰も止めることが出来なかった。
いや、俺自身も彼女と同じように喚き散らしたい気持ちを抑えるのに精一杯だった。
「それを説明するためにもこちらへお越しください」
言われるがまま案内された場所には巨大な鏡が鎮座していた。
「…これは、私が予知能力を使う時に用いる鏡です」
「予知能力っ!?」
マツリが驚いた声を上げる。気のせいか顔色が変わったような…。
「予知能力については知っている者もいるかもしれんが…、これは教会側が秘匿している場合も多い。私が説明しよう」
教会の人間のほぼ全員が就いていると言っても過言じゃないジョブそれが神職系列のジョブ。
神職には主に2つの特徴がある。
それは、治癒能力と土地持ちほどではないが結界を張ることが出来ることが挙げられる。しかし、教会側が利権を手にするために秘匿することもあるもう一つの能力がある。それが予知能力。
予知能力は特殊スキル。現れるかどうかは運とその人の持つ資質次第。だからこそ教会側はこの世界で生まれた者に一度は神職に付くことを勧める。
それは、自分たちの勢力を拡大するのと同時に希少な能力を確保するため。未来の情報を知っていることはどんな世界でも大きなアドバンテージになる。
「私はかつて神官として教会にいました。彼女、アネストはその頃から私に付き添ってくれている友人です」
「そんなっ恐れ多いです!私はあなたを守れなかった…!護衛失格の私なんかに友人などとっ」
「…怪我のことは関係ないわ。あなたが私にとって大切な友人であるということは事実。そんなに謙遜しないで」
ただの主従関係じゃないと思っていたが、そんな因縁があったのか。
「だってあなたははこんな風になった私について来てくれじゃない」
自分の脚を撫でながら優しく微笑みかけていた。
「怪我のことは後悔していません。……教会を怪我で辞めた私は生まれ故郷であるここに帰ってきて多くの人々の支えで今では代表として皆様のお役に立てているのですから」
そこで表情を一転、先程よりもさらに真剣な面持ちを見せる。
「――そして、いつものように予知能力でサウストの平和な日々を眺めていた時…ソレは起こりました」
「まもなく、ペンタ連合国の国王が崩御します。それによって引き起こされるのは都市同士の継承権争い、それにより人々が傷つく姿」
ペンタ連合国は主要都市の代表が全員キング。そして、王が死ぬと別の都市が連合の代表として玉座を狙い始める。
「あなた方を呼んだのは国王が崩御する時、あなた方と各都市の代表が王の傍にいた事。そして、王が血溜まりに沈む姿を見たからです」
血溜まり?つまりは誰かに傷を負わされたってことか?
だが、この世界では人間同士の殺しはできないはずじゃ…?
「お願いしますっ!最悪の未来を回避するために力を貸してください!」
――こうして俺たちは大きなうねりに飲み込まれるように騒動に巻き込まれていく。




