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命名式。今日から俺は

ようやく、主人公の名前が出てきます。

「おつかれ」

 扉から出るとアフィがそう言って俺を出迎えてくれた。このイラッとするほどの気安さが今はだいぶ心地いい。俺は、生きているんだ。そう心から実感する。

「……やっぱ、疲れてるね」

「ですわね。仕方ありませんわ。この世界に来て混乱している中で担当が彼女では…」

「だよねー。もし、私だったら発狂してたかもしれないもん」

 感動に震えている俺の耳にそんな言葉が飛び込んでくる。

(なん、だとっ……!)

 つまり、俺はあれが普通の対応だと思っていたが実際は彼女が異様なだけだというのか!?そんなことがあるか!

 キッとアフィの睨むと気まずそうに顔を背けていた。

「…知ってたのか?」

「な、なんのことかなー?そうだ!そんなことよりも先にやっておかなきゃいけないことがあるんだよ!!」

 ドスの利いた低い声で問い詰めたが、アフィはすっとぼけて話を変えてくる。俺が忘れると思うなよ?さらに睨むと何か感じたようで冷や汗をかきながら笑ってごまかしている。

「……で、やらなきゃいけないことってなんだよ?」

 アフィはもったいぶったようにニヤニヤとしながら、懐から無駄に高そうな巻物を取り出し広げた。まぁ、高そうな割に何も書いてなかったんだけど。

「……それで?」

「冷静っ!?このスットコドッコイ!何、興味ないような振りしてんだよ!お前が興味津々なのは手に取るように丸わかりダゼッ!」

 うっわぁ~、イラッとするわ。あまりにもドヤ顔で言い切るのでとりあえず殴っておいた。

「い、痛い!やめて、冗談です。いや、マジで!」

 しばらく殴り続けてた満足したのでようやっと本題に入る。本題とはつまり命名式らしい。そういえば、記憶を思い出しても名前は結局思い出せないままだったな。

「名前を付けることによって正式にこの世界の住人として認められるんだ。名無しのままだとこの世界では存在しない扱いになる。簡単に言えば、実体のある幽霊ってところだね」

 実態があるなら幽霊とは違う気がするが…。そんなことより、名前か。

「どうする?自分で付ける?それともボクらが付けてあげようか?名前は本当に重要だから慎重になった方がいいよ」

 自分で名前を付けるっていうのも何か違和感を感じるな。かといってこいつらに任せてだいじょうなのかと言う疑問もある。

「本当はあまり急かしたくはないんだけど、早めに決めてくれ。じゃないと、これからの予定が決まらないからね」

 名前、名前ねぇ。そういや、記憶の中で結局名前がわからないものがあったな。

「……決めたよ」

「そうかい。本当にその名前で後悔しないね?」

「ああ、この名前が俺の新しい名前で、この名前で俺はこの世界を生きていく!」

「君がそう決めたのならボクは何も言わないし、言えない。じゃあ、その名前をここに書いてくれ」

 差し出された巻物に先ほど思い浮かべた名前を書く。

 それを確認したアフィがふむと頷き、巻物を上に放り投げ高々と宣言する。

「では、改めて君の名前は今日から『シィド』だ!ようこそ、シィド。我々は君を歓迎する」

 巻物は俺を囲むように輪を描き、書いた名前を中心に金色の文字が現れる。

「おめでとう。シィド!」

「おめでとうございます。シィドさん」

 傍で聞いていた二人も祝福を送ってくれる。巻物の文字も輝きを増していき、右手の模様に吸い込まれていく。光が止み右手を見てみるとアフィが描いた模様が変化し新たに名前が刻まれていた。

 そうか、俺はこの世界に認められたんだ。それがまた嬉しくて心が満たされるような感じがした。


 余談だが、アフィが命名に関しては真剣だったのは名前のせいで前任の町長と諍いを起こしたことがあるからだと聞かされた。

 なんでも彼の名前アルタフィルだが、当時町長が飼っていたペットの名前が『アルタ』だということを後から知ったアフィは激怒し、意地でも町長を見返してやろうと奮闘し今の地位を築いたらしい。

 無駄に執念深い奴だと思ったが、俺が同じ立場でも似たようなことをしたと思う。

 そんなことがあったからアフィはアルタと呼ばれるのが最も嫌いなので一種の禁句として扱われている。

 その前任の町長はというとアフィが町長に就任した今でも普通に町に住んでおり、町長時代の心労が祟って薄くなった頭部をさすりながら時折アフィにアドバイスと言う名のちょっかいをかけている。

 ちなみに、彼の飼っていたペットのアルタはアフィがこの世界に来てからすぐに寿命で亡くなったようでそれがまた自分が早死にするみたいだとアフィの怒りを買ったらしい。

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