楽園はここにあった
「…さあっ!着いたぞ。ここが私の家だ!」
「「「デ、デッカー!?」」」
案内された先、城からそう離れていない場所にチタニアさんの家があった。
「…いや、これ家っていうか豪邸?」
「……いえいえ!むしろ宮殿では!?」
「何をしている?さっさと入らんか~」
先にずんずんと進んでいたチタニアさんに声をかけられ、混乱していたがついていく。
「「「おかえりなさいませ、我が主」」」
中に入るとズラッと並んだメイドさんたちが一斉に頭を下げ、出迎える。
それだけでもギョッとするのに、彼女たちの頭で存在を主張している耳――猫耳――に目を奪われた。
(……猫耳メイド!?)
この世界にこんな素敵要素がまだ眠っていたとは…!
……あれっ?でもおかしくないか。
そりゃあここは魔法もある異世界だが、別の種族がいるなんて誰も言ってなかったぞ。
それは単純にこの辺りにいないからかもしれないけど…。
かといってあの耳の感じは作り物には見えない。
(どうなってんだ?)
(一体全体何がどうなっているのですか!?)
シィドたちの中でも最も目の前の事態に困惑していたのは他でもないヤノンだった。
あれは落ち人の人がたまに話している猫耳ですかっ!
ですけど、獣耳が生えている人間なんて聞いたこともないのですよ!?
スキル、それとも…新ジョブですか。
新ジョブだとしたら、この短い間に二つも遭遇するなんて…。
――この世界の元からの住人である彼女にとって、無視できない状況だった。
「お主ら何を呆けて……ああ、コレか。言っておくがコレらは期待しとるようなモノではないぞ?」
そう言うとチタニアさんは猫耳メイドに近付いていき背後に回り込む。
「ほぉ~れ!」
そんな掛け声と共に思いっきりメイド服を捲り上げた。
な、なにぃぃーー!!
「「ふんっ!」」
「ぐわああああぁぁっ!目が、目があああっ!」
その恥部…じゃない秘部でもなくてっ!そう!女体の神秘を目に焼き付けようと動いた俺の両目が左右からの攻撃によって猛烈な痛みに襲われ、某有名長編アニメ映画のキャラクターのように目を押さえてのたうち回る。
「……まったく!シィドさん、いい加減にした方がいいのでは?」
「拙者もヤノン殿に同感でござる。貴殿は少々、女癖が悪うござるよ」
「……て、てめえらっ」
何を好き勝手言いやがってっ!
女癖が悪いだあ?そんなもん、男はみんな女体に興味津々、元気溌剌だぁーー!
「……俺は、見る。例えどんな犠牲を払おうとも目の前の楽園を目に焼き付けてみせっ――」
「……あれっ?」
騒いでいると、何かを不思議がる幼い声が聞こえてきた。
「えっ?なんだ、どうしたっ!?なあおい、いい加減この手を……はっ、なせっつの!」
視線を向けると両手で後ろから隠すようにして視界を塞いでいるルルミちゃんとその手を強引に引き剥がそうともがくミルルの姿が。
(わかるっ!お前の気持ちはよぉ~く、わかるぞミルル!お前も男だ。そりゃ見たいよな!)
こういうのが父親の心境とでもいうのだろうか。
俺は出会ったばかりの少年の成長に感動を禁じ得ないっ!!
「…たぶん、シィドさんが考えているような展開ではないと思いますよ」
心無い人間の言うことなんか聞かずに健やかに育てよ!
「……へっ?ひゃああうっ!!」
このやり取りで俺たちが見ているのに気付いたルルミちゃん(より正確に言うと、俺たちが女性の裸体を凝視しているように見える彼女を見つめているのを…だが)は、恥ずかしそうに顔を真っ赤に染め、顔を覆い隠そうとするも途中でミルルの視界を塞いでいることに気付き――その手を外せないと思ったのか顔を逸らし目を瞑った。
ただ、ぷるぷると震えていて羞恥心は隠しきれていないようだが…。というか、それじゃあ問題発覚を遅らせることしかできないよ。
しかも、慌てて顔を隠そうとしたから手がずれて指の隙間からがっつり見えてるし。
そんな状態だからミルルはがっつり見えており、ルルミちゃんが気付いた異変にあいつも気付いたようだ。
「……あの人、気味が悪い」
ミルルはそう言って顔を歪めていた。
気味が悪いだって?
まったく。ミルルはまだまだガキだな。
「はっはっは!子供は正直だなっ!」
しかし、チタニアさんの反応は違っていた。
「……ふむ。次はもう少し見えないところまで工夫しないとな。やはり、細部までこだわるべきか。…そのためには一流のモデルが必要だな」
後半はぶつぶつ言っていてよく聞き取れないが、工夫って何のことだろう?
「……まさか」
「何だヤノン?思い当たることでもあるのか?」
ポツリと呟いたヤノンは信じられない物を見たようにまじまじとメイドさんたちを四方八方から観察していく。
先程は俺を強行手段で止めたくせに今度は見ているのもお構いなしで服も捲っていく。
その様子には同じく強行手段を決行したマツリもわけがわからず困惑している様子だ。
(それにしてもあのメイドさんたちチタニアさんはまだわかるが、ヤノンにも抵抗しねえな。……俺も捲っていいかな?)
ヤノンの様子を見ながらそんなことを考えていた俺だったが、邪な気配を察知したマツリに押さえ付けられ阻止された。
……がっくり。
「…チタニアさん、あなたのジョブは機巧師なのですか?」
数分後、ようやく口を開いたと思ったらヤノンはそう尋ねる。
「そうじゃよ」
チタニアさんの返事は拍子抜けするほどにあっさりとしたものだった。
「ヤノ――」
「――機巧師は錬成師にも似たジョブです。うえ、さらに鍛冶師も合わせた上位職業というべきですか。
彼らは機械に命を吹き込むことができます」
「なっ…!?」
『そんなバカなっ!?』その言葉をなんとか飲み込んだ。
(命を吹き込む!?そんなの神の領域じゃないか!)
どんな時代の人間でも一度は夢想するモノ。それこそが――不老不死、そして生命創造だ。
その内の一つをっ…!いくら異世界とはいえ、いやっ、異世界だからこそあり得ない!あってはならないことじゃないのか!!
「……物騒なことを言うな。命を吹き込むなんて出来やしないさ」
やれやれと自ら捲り上げたメイド服を整えながら、
「機巧師は自分で作ったモノに魔力を授け、ソレを糧とする精霊を使役しているに過ぎんよ」
淡々と間違いを正す。
その眼に嘘はなく、興味すらもないようだ。
「……こやつらは私が作り出した作品の第4期。人間らしさを追い求めてみた。
初めはただ単に長年のツレ達と別れるのに気を紛らわせようとしただけだったが、それではつまらんと女王に言われてな。せっかくだからこの世界には存在しない獣人型にしてみた」
ただの子供の遊びだよと自嘲気味に語っていく。
その横顔を見て、「本当は仲間と別れたくなんてなかったんだな」と確信に近い思いを抱いた。
でなければそれだけの数を――しかも一体一体細部まで工夫して作る必要などないはずだ。
おそらく、初めは別れた仲間に似せて作っていたんだろう。だが、それを悟られたくなかった(あるいは悟らせたくなかった)から猫耳を付けて誤魔化したに違いない。
俺がそう感じたのはメイドの中に3人――チタニアさんはあくまでも人形だから体と呼べと言ったが――見覚えのある顔が混じっていたからだった。
3人共、俺が知っている姿よりほんの少し若いようだがな。
それにしても、彼女に作らせつつ仕様を変えさせた女王ってのはよっぽど彼女を理解している人なんだろうな。
……もしかしたら彼女自身よりも。
………………んっ??んんんっ?!
「……あの~、つかぬ事をお聞きしますがさっき『女王』っていいませんでした?」
まさかそんな。
「言ったぞ」
しかし、俺の思いはあっさりと打ち砕かれる。
「女王ってあの?鞭を持ってたりする人じゃなくて、クイーンって呼ばれる方の?」
「…いや、鞭も持ってるな。基本的にドSだし。だけど、クイーン…つまりはこの国の女性国王という意味の方の女王だ」
「えええええええっ!?」




