連行と対面
「…………」
なんでこうなったんだ?
俺は縛られた状態でそんなことを考えていた。
男たちは押し入ってくると同時に俺たちを全員拘束していった。宿に荷物を置きっぱなしにしていたこともあり、なす術もない状態でとりあえず捕まってはみたが…。
「おいおい、何だこりゃあ?」
男はカウンターに置きっぱなしだったカバンを開けると、呆れたような声を上げる。
「ほとんど紙じゃねえか!」
ドサドサと音を立てて紙の束が床に落ちる。
たしかにそこには一番上だけが本物の紙幣で後はすべて白紙だった。
どうなってんだ?
なんかきな臭い感じになって来たな。
そんなことよりも今は、ここからどうやって逃げ出すか、だ。
面倒だなぁ。しばらくは静観しておこうかな。
「おいこらっ!さっさと解放しろ!」
あちゃー。一人ジッとできない奴がいたか。
「……うるせえっ!このクソガキが!!」
「ガッ…!」
おいおい、いきなり殴りかかるとか短気な奴らだ。
「……へへっ」
「あん?何笑ってんだ?」
「殴られておかしくなったんじゃねえの?」
「気になるならもう一発お見舞いしてやれ!」
「…へーい。ったく、面倒くせえな」
「……やめっ!」
男が振りかぶった拳がミルルに振り下ろされる。
「……【トレード】」
拳が当たる直前、ミルルが何か呟いたかと思うとミルルが最初に殴った男と入れ替わった。
「グヘェッ!」
勢いを止めきれなかった拳はそのままもう一人の男の頬にめり込んでいく。
「「なにぃっ!!」」
さっきまで男がいた場所を一斉に見る男たち。
「ジャジャーン!」
そこには笑みを浮かべたミルルが立っていた。
「さあさあ、お集まりよ!ミルル様が華麗なマジックショーを披露してあげようじゃないの!」
「……まったく、ミルルったら調子に乗っちゃって。皆さん、大丈夫ですか?」
「…あれっ?ルルミちゃん、いつの間に…」
気が付いたら自由になっていたルルミちゃんが俺たちのロープを解いていく。
「まあ、ミルルがやらかすって教えてくれてたんで…」
「教えてた?いったいいつの間に」
「まあ、いいじゃないですか。自由になれたんですから」
「そうでござるよ」
「…と言っても、武器がない以上不利なのは変わらねえぞ」
「ですね~。何か武器があればいいんですけど……」
「武器なら、ボクがなんとかするよ!」
「…………?」
どうするつもりなんだ?
――ピューイ
モフモフ亭:厩舎。遠く離れた場所からたしかに届いたその音は、中で眠っていた獣を起こした。
「……グルゥ?」
起き上がった獣はゆっくりと動き出し、宿の中へと歩みを進めていく。
「はい!これで数分後には武器が届けられるはずですよ」
はいって。ただ指笛を吹いたようにしか見えないんだが…。
「……ここはルルミ殿を信じるしかないでござるな」
「そうなのですよ!シィドさん、信じましょう!」
「…お前ら」
「だが、問題は数分間どうするかでござるな」
たしかに、それが一番問題だ。武器が届けられる前に俺らがやられたら意味がない。
――こうして、短いようで長い数分間が始まった。
「キャアアアッ!」
街中を駆け抜けていく獣に悲鳴を上げて逃げ惑う人々。
それを意にも介さず、獣は咥えた荷物を落とさないように…それでいて全速力で進んでいく。時折、すんすんと鼻を動かし、進む方角を確かめながら。
「でやああっ!」
俺は3人を背中に庇いながら炎を纏った箒を振り回していた。
(…ふぅ、【炎刃】が使えて助かったな)
スキル【炎刃】、棒状の物があればそこに炎を纏わせることができるこのスキルのおかげで時間稼ぎ位はできるだろう。
ミルルの方も気になるが、雰囲気からは危険な感じは感じ取れない。
『グルウァッ!』
その時、唸り声を上げながら獣が店内に入ってきた。
「クレア!」
「ガウッ!」
ルルミちゃんの声に反応した獣はブンッと咥えていた荷物を放り投げる。
「……ほっ!」
放物線を描いて飛んできた荷物をマツリがキャッチすると、
「シィド殿、ヤノン殿!」
俺たちに渡してくる。
「よっしゃ!」
「いきますですよ!」
武器を手にしてからの展開は早かった。
元々、この押し入り強盗たちは計画性もない無法者だったらしく、そもそもミルル一人に翻弄されていた。そこに、ルルミちゃんの使役する魔物が現れたこと、俺たちに武器が渡り参戦したことで一気に形勢は逆転。
瞬く間にお縄に付く羽目になっていた。
「…まったく、面倒を掛けさせやがって」
ボコボコにされ、縛られて床に転がっている男たちを見ながら服に付いた埃を払う。
「暴れたりねー!!もっとやらせろっ!」
少し離れたところではミルルがまだ憤っているようで、ルルミちゃんに宥められている。
「……で?なんでこんなことをしたんだ」
「ケッ、誰がてめえらなんかに話すかよっ!」
まったく、まだ立場が理解できてないようだな。
「ヤノ――」
「――全員、動くなっ!」
ヤノンにカラシシの粉を出させようとしたが、ドタドタと衛兵が入ってきて槍先をこちらに向けてくる。
「……おいおい、俺たちは被害者だぞ?」
「――隊長!見てください」
無視かよ。
部下らしき人物に呼びかけられた男は陳列棚に近付いていく。そのまま商品を一通り眺め、ひそひそと話をしたかと思うと、
「……お前がここの店主だな?話を聞かせてもらおうか」
強盗ではなく、店主に刃を突きつけたのだった。
「おいっ!何をしてんだ」
「動くなと言っているだろうがっ!」
止めようと動き出した瞬間、衛兵によって槍で柄で腹を殴られる。
「シィド殿っ!」
「来るなっ!」
駆け寄ろうとする、マツリを手で制する。
問答無用で殴りかかってくるような奴らだ。何をされるかわかったものじゃない。
「……え、衛兵様!私は被害者ですぞっ!それなのに、このような不当な扱い……!」
「不当ではない。それはお前が一番わかっているのではないか?」
「……っ!」
不当じゃない?どういうことだ?
隊長と呼ばれた男は、陳列棚から大きめのマジックバックを手に取り中を広げて見せる。
「……お、おやめくださいっ!」
その行動により一層慌てた様子の店主がなんとか止めようとするが、押さえつけられていて身動きが取れない。
「…やはりか。見ろ!この縫い目なんだっ!」
広がったマジックバックには雑な縫合の跡が見て取れた。
「……このマジックバック、説明には100㎏までとあるが、こんな雑な縫合では入ったとしてもよくて半分の50㎏悪ければ三分の一ほどしか入らないだろう」
なんだって!?
「以前よりお前には粗悪品を扱っているという噂があった。協力者のことも調べはついている。観念しろ」
「…そ、そん、な」
がくっと崩れ落ちる店主。それを引き摺って連行していく衛兵たち。
後には俺たちと隊長を含んだ衛兵数人、それになぜか未だに床に転がされた強盗たち。
「……君たちにも一緒に来てもらうよ」
そして、なぜかそのまま俺たちも連行されていった。
「ギャハハハッ、おめえら結構威勢よかったぜっ!」
「…はぁ、どうも」
城に連行された俺たちはなぜか強盗と談笑していた。正確言えば、城に着いた途端解放された強盗たちに絡まれている。
(何がどうなってやがる?)
「てめえこらっ、ルルミを放せー!!」
解放された強盗たちと違って問題になったのがなぜかルルミちゃんだった。
彼女は、衛兵によって別室で調書を受けている。
なんでも街中で飼い主が傍にいない状態で魔獣を歩かせたのが拙かったようだ。
「…あの坊主はまだやってんのか?」
「どうせちょっと小言を貰ってお終いだっていうのにな」
やけに詳しいなこのおっさんたち。
「ただ、あのまま騒ぐと坊主の方も面倒なことになりそうだぜ?」
「だな。しゃあねえな」
「おいおい、おっさんたち何するつもりだよ?」
「ん~、一旦あの坊主を黙らせるのよ」
そんなことできるのか?
「おい、坊主!」
「あん?」
「ちょっと寝てろ」
――プシュー
「なっ、てめ…え」
何かを吹き付けられたミルルはふらっと気を失ってしまった。
「…大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫。ちょっとした鎮静剤みたいなもんだよ」
「……ほほう、この匂い。…ヤドク草でござるな」
「ヤドク草?」
「眠り薬の原料の一種でござる。匂いから察するにそこまで濃い成分ではないようでござるが」
「…ふ~ん」
そんな物を持ってるなんてこいつら本当に何者だ?
「…あれっ?もう終わったんですか?」
「おう!ちょっと黙らせておいてやったぞ。礼は今度酒でも奢れや!」
「……勘弁してくださいよ。酒豪のあなたに奢ったら破産しますって」
「……えっ!?二人は、知り合いなのかっ?」
親しげに会話をする隊長と強盗。関係性がわかりにくいが、昨日今日の知り合いではなさそうだ。
「君たちか。そうだな巻き込んでしまったのだし、話しておこう。彼らは強盗ではなく、特務師団の団員だよ」
…特務師団っ!?この、おっさんたちが?
「…おい、なんか疑われる気がするんだが?」
「見た目のせいじゃないか?そもそもそのヒゲ面はなんとかならないのか?まるで山賊だぞ」
「うるせえなっ!俺たちゃ潜入もするから人相が悪い方がいいんだよ」
隊長が言うには、元々怪しい噂の絶えなかった店であり、そこの調査をしていたそうだ。
実際、店で見せたような粗悪品を多く取り扱っていたり、法外な値段で売りさばいたりもしていたらしい。(思った通り、容量5㎏であの値段は高すぎるのだという。5㎏なら20万M辺りが相場らしい)
そして、今日。協力者と思われるリュード伯爵が店内に入ったのを見て、作戦を決行。
リュード伯爵をまず捕縛し、そのまま店に強盗として入り証拠を集める手筈だったようだ。
俺たちが出てからでもよかったんじゃないか?そう思ったが、その場合俺たちが払った金を返すのに時間がかかるそうだ。
それならそうとさっさと説明してくれりゃあいいのに。まどろっこしいな。
「あのぅ、それでミルルはいつ起きるんでしょうか?」
「おっ、ルルミちゃん!戻ってたんだ」
「ずっといましたよぅ」
あらら、ぷくっと膨らんじゃって。
「……まあ、そんなに長くは寝てないと思うぞ?」
その言葉通り、すぐにミルルは目を覚ました。
「…ううっ、ん」
「ミルル!気が付いたのね。よかった~」
「……ルルミ?」
「そうだよ。ボクだよ!」
「…オレは、何を?……って、てめえおっさんこらぁ!」
起きて早々騒がしい奴だな。
「…そう言えば、ルルミちゃんの方はもう大丈夫なの?」
「ええっと…どうなんでしょう?」
「どうなんですか?」
くるっと隊長に向き直ってみる。
「……まあ、そうだな。一応、禁止されている魔物から目を放していたわけだし、少し長くなるかもな」
「ええっ!?そんなぁ…」
「なんとかなんないんですか?」
「いや、こればっかりは規則だからな」
うう~む、面倒なことになったな。そもそも俺たちが武器を持ってなかったのが原因っぽいし、なんとかしてやりたいんだが…。
「シィドさん、シィドさん!」
「……んっ?」
ちょんちょんと袖を引っ張られる。
「どうした?」
「ここは、例のモノを使ってみてはいかがでしょう」
…例のモノ?なんだっけ?
「ほら、リリィさんから渡されたアレですよ!」
「…ああっ、アレか」
「すいません。この紹介状の送り主に会いたいですけど」
「……こ、これはっ!?」
あれっ?なんか想像よりも大事な予感が…。
「少々お待ちください!」
紹介状を預かった隊長は足早にどこかに去っていった。
「わ・た・しが、キターーッ!!」
異様にテンションの高い少女がやって来た。その後ろからは隊長が息を切らしながら走ってきている。
「チタニア様、お待ちくださいっ!」
「ええいっ、遅いぞ!早うせぬか!」
「……はあ、はぁ。お待たせいたしました。先ほどの紹介状にあった人物。チタニア様です。チタニア様、彼らがその紹介状を持っていた方々です」
「…ふむ。聞くところによるとフィアードから来たとか。つまりはリリィたちの知り合いということじゃな」
キメたつもりなのか、左右から垂れ下がったツインテールがピーンと逆立っていた。
「……あの、この子はいった…でぶふぁっ!!」
「誰が、子供じゃ?んん、もういっぺん言うてみい」
何をされたのかもわからないうちに倒され、そんな俺を凄味を利かせながら睨みつけてくる少女。
「…よいか?いくら若く見えようとも私はもう齢30を超える立派な淑女。決して、子供ではない。…わかったかの?」
あまりの迫力にブンブンと首がどうにかなるのではないかという速度で首を縦に振る。
というか、三十路過ぎっ!?ありえないだろっ!
外見年齢はどう見ても10代前半の少女。しかし、先ほどから漂う威圧感は只者ではないということを如実に物語っている。
「……して、何の用じゃ?」
「実は――」
俺はこれまでの経緯を含めて、ルルミちゃんの処分を何とかしてもらえないかと相談してみた。
「…なんじゃ、そんなことか。別によかろう」
そして、俺の要望はあっさりと通ることになる。
「ちょっ…チタニア様!?」
「別にいいではないか。緊急事態じゃったのであろう?今回はたまたま特務師団だったからよかったものの、本物の強盗であれば手段を選ぶべきではない。そうではないか?」
「…そ、それはそうですがっ!しかし――」
「くどいっ!私がいいと言えば、いいんじゃ!」
隊長を強引に黙らせると、すぐさまルルミちゃんは解放された。
「…さて、お前たちとはゆっくり話がしたい。そこでじゃ、私の家に来ないか?」
「……家に、ですか?」
「どうせ、魔物が厩舎から勝手に抜け出した手前、宿には戻り難かろう?それならば、王都に滞在中は私の家に滞在していればいい」
こうして俺たちはチアニアさんの家にお邪魔することになったのだった。
店側の手口としては
①見せに来た客を見極め、金を持っていそうかどうかで対応を変える。(金を持っている人間ならばこの時点で本物の良質な商品を紹介する)
②金を出し渋りそうな客の場合に、伯爵がやってきて金額に対する疑問をなくさせる。
あとは店が上手く客を言いくるめる。こんな手段でした。
ちなみに、マジックバックの素材についてはもうちょっと後で…。




