災難は忘れた頃ではなく続けざまにやってくる
本日二話目。
「すまなかった!!」
場所を移動して俺は先程の少年に(女の子だと勘違いしたことも含めて)土下座で謝罪していた。
「うるせー!謝ったぐらいで許すと思うなよっ!!」
「まあまあ、落ち着いてミルル。ねっ?」
「ルルミ、お前は黙ってろ!これはオレのプレートの問題なんだよ!!」
「……プライドだと思うよ?」
「…ぐっ!!」
どうやら、町で会った方はルルミっていうらしいな。
それにしても、そっくりだ。この世界にも双子は存在したか。まあ、向こうでも数は多くないといえ、いたわけだし当たり前か。
「シィドさ~ん、何騒いでるんですか?」
そんなことをしている間にヤノンとマツリまで駆けつけて来やがった。
「…おやっ?先ほどの童ではござらんか」
「ややっ!増えてるのです!まさか、あなたたちもにん――もがっ!?」
「(バカッ!何を口走ろうとしてやがる!!)」
危うく秘密を口走りそうになったヤノンの口を強引に塞いで黙らせる。
出発前、アフィたちにフィアードで初めて見つかった新ジョブのことだから詳しい情報を流すなと口を酸っぱくして言われていたんだよな。
だから、新ジョブ忍者については迂闊に口を滑らせるわけにはいかないってのに…!
「ムー、ムムー!!」
酸欠顔色が悪くなってきた辺りでパッと放してやる。
「もー!何をするんですかっ!」
「そ・れ・は、こっちのセリフだろうが!!」
全く反省していないようなので、ポコッと殴っておく。
「……まあまあ、シィド殿もヤノン殿も戯れはその辺で」
「…はぁ、マツリにまで窘められるなんて」
軽くショックだ。
「それよりも、お二人について説明していただけますかな?」
「って言われても、俺も詳しく知ってるわけじゃないしなあ」
「自己紹介くらい、自分でできるっつーの!」
ガキ扱いすんなと怒られてしまった。
だが、知ってるか?そういう態度がガキ臭いんだぞ?
「オレの名前はミルル!こっちは妹のルルミだっ!これでも冒険者として活動してんだ覚えとけっ!」
「…ルルミです。先ほどは自己紹介も出来ずにすみませんでした」
兄と違って、こちらは礼儀正しいな。
「ルルミ!こんな奴らに頭を下げる必要なんてねえんだよ!」
「……頭を下げると言えば、シィド殿はなぜ土下座をしているのでござるか?」
「そういえば、そうなのですよ。お金でも落としましたか?それとも、まさかルルミちゃんのパンツを覗き込もうと…!?」
それに引き替え、兄貴は失礼だな。
というか、ヤノン!お前はどうあっても俺を変態扱いしたいのか!?
「あ、あのぅ~」
若干ギスギスした雰囲気になりかけた時、ルルミちゃんがおずおずと割り込んできた。
「……とりあえず、移動しません?人集まってきましたし…」
たしかに言われてみれば、宿泊客を中心に集まってきているみたいだ。
(ちょっと、騒動を大きくしすぎたかな?)
俺が原因といえば原因だし、二人を巻き込むわけにもいかない。従業員の姿が見えたあたりで、俺たちは宿から飛び出していった。
(…怒られるなら後からの方がいいな)
「「「えええっ!?」」」
騒動から逃げ出した俺たちだったが、街中で大声を上げて結局注目を集めることになってしまった。
その理由は――
「…ふ、二人は落ち人なのか!!」
そう。目の前の双子ミルルとルルミは落ち人だったのだ。
「(おいおい、双子同士の落ち人ってあるのか?)」
「(あまり、いえ初めて聞いたのです!)」
「(……このような偶然もあるのでござるな~)」
いやいや、偶然で済ませれるレベルか?
いや、待てよ!もしかしたら別々の時期にここに来たという可能性も…!
「……ふ、二人、はいつ頃この世界に来たんだ?」
「ええっと、たしか……」
「大体、一年ちょっと前ぐらいだよ。交通事故ってわかるか?それに巻き込まれて一緒に来たんだ」
はい、違ったーー!
「…いやぁ~、こっちに来て初めて会った人もビックリしてたぜ」
「そうだったね。しかも、ボクたち別々に記録士さんに記憶を見してもらったのに名前は二人して『ミル』って決めちゃった時のあの表情ったらなかったよね」
当たり前のことだが、この世界でも名前が被ることぐらいは当然ある。元々の世界の住人はこの世界についての名前を付ける場合もあるし、落ち人がなんとなくで付けた名前が一緒ということもある。
だからこそアフィのような問題が起きるわけだが…。
だが、同じ土地で同時に名前が被ると話はややこしくなる。そもそも同じ顔というだけでもわかりにくいのに。というわけで、二人は名前を変更して今の名前になったようだ。
「……それにしても、お二人ともまだお若いみたいなのになぜ旅なんかを?」
「「面白そうだから!」」
さすがは双子。ピッタリと息の合った返しだ。
「元々の世界でも旅行が好きだったし」
「楽しいことは大好きだったし」
「「それなら、こっちの世界でも楽しんだ方がいいかなって」」
「…ほほう。して、今の目的は何なのでござるか?」
「せっかく初めて大都市に寄ったので、噂に聞いた収納袋を買いに来たんです!」
「俺たちのいた世界だったら、マジックバックっていう方がわかりやすいかもな」
マジックバック。あのゲームとか小説とかでよく出てくるいろいろなモノが入るっていうアレか。この世界にも存在するとは…!
さすがはちょっとしたファンタジー世界。
「「えぇ~~~!?マジックバックってこんなに高いのっ!?」」
せっかくだから今から見に行こうという話になって店までついていったのだが、双子はマジックバックのあまりの高さに驚愕の声を上げていた。
というか、俺も二人が叫ばなければ声を上げていただろう。それほどまでにマジックバックの値段は高かった。
「…うわぁ~、本当に高いですね」
「……ううむ」
話にしか聞いたことがなかったらしい二人も同様に唸り声をあげていた。
マジックバックは性能によって値段が大きく変わってくる。
基本的にはマジックバック自体の大きさと中に収納できる物の量で決定される。マジックバックの大きさが大きい方がモノが居れやすいということで同じ量を入れれるのならば高くなる。
しかし、いくらなんでもこれは…。
俺は双子たちも見ている一番安いという商品の値札を改めて確認する。
そこには――マジックバック(耐重量5㎏):137万M――とはっきり書かれていた。
「(おい、ヤノン。ここの店ぼったくってんじゃねえか?)」
肥え太った店主からちょっと距離を開いてヤノンを呼びつける。
「(…いえ、一概にそうとは言えません。私も現物を見るのは初めてですが、元々マジックバックはかなり高価な代物なのですよ)」
「(……それでも、あの値段はおかしいだろう?いったい誰が買うんだよ)」
「フォフォッフォ、邪魔するよ」
「これはこれは、リュード伯爵様!いらっしゃいませ」
「いやぁ~、また制限まで入れてしまったのでね新しいのを買いに来たよ」
店の前に豪華な馬車が止まったかと思うと中から現れた白いヒゲの貴族はそのまま流れるように商品を手に取ると、会計を済ませて店を後にした。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております!」
……マジか。
何に驚いたって、あの爺さんが買ったのは1億近くもするマジックバックだったということだ。
あれをすんなり文句も言わずに買うとは…、貴族おそるべしっ!
「……ええっと、お客様?そちらの商品を購入なさいますか?」
唖然と貴族の去っていった方向を見ていた俺たちに店主が話しかけてきた。
「…えぇ~、どう、しようかな~」
思わず目を逸らしてしまう。
というか、俺が買うわけでもないのに…何をこんなに焦ってんだ?
「「「「………」」」」
気が付けば、店主以外の視線も俺に集中していた。
(おい、何だその眼はっ!買えってのか、俺に、これを!?)
表情から考えを読み取った奴らはこくんと一斉に、しかしハッキリと頷き返してきた。
(こいつら…!?)
よぉし、俺も男だここは男らしく……!
「じゃ、じゃあ、貰うとする、か?」
「毎度ありがとうございます!それでは、早速――」
――バアン!
「てめら動くなぁっ!!」
金を払おうとしたまさにその時、扉を破っていかにも人相の悪い数人の男たちが店に押し入ってきた。