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騒動の予感

 一気に王都へ。ラギリ村辺りまでテンポ早目でお送りします。

「……案外、早く着いたな」

 フィアードを発って約半月後。俺たちはとうとう王都レキシントリアまで辿り着いた。

「………それにしても、でっけえな」

 王都へ入るための行列に並びながら見上げた門のデカさと壁の高さに思わず圧倒されてしまった。


 中に入ってからも驚きの連続だった。通りを歩く人はフィアードよりもアースナルドよりも多く、人で溢れかえっていた。

「………ほぅ、ここが王都でござるか」

「王都ですね~」

「王都、だな」

 ……んっ?今一人、変なこと言わなかったか?


「……おい、お前来る時に通ったんじゃなかったのか?」

 俺は変なことを言った張本人――マツリに聞いてみた。

「…いや、拙者は王都は通っていないでござる。そのまま森を通って南下していったゆえに…」

 本当に、こいつは無駄なところでアグレッシブだな。

 普通、王都を通らずに行くか?


「…ですけど、王都を通ってないって大丈夫なんですか?密入国なんかにならないといいのですが」

「……ッ!?」

(密入国!?たしかに、ある意味そう取れないこともない!)

「……お、おいマツリ?本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫でござろう?通る時に注意はしておりましたが、特に関所らしい場所は見えませなんだゆえ」

 おそるおそる尋ねてみるときょとんと返してくる。本当に大丈夫なんだろうか?

「(おい、ヤノン!大丈夫なんだろうな?)」

 こそこそとヤノンに話しかけてみる。

 ちなみにこそこそしているのはマツリを気遣っているわけではなく、万が一の時はこいつを置いて逃げるためだ。

「(大丈夫だと思いますよ?そもそも別に王都による必要はありませんし…)」

 ヤノンが言うには、元々多くの土地を集めて国としているこの世界では国境が曖昧な部分もあるそうで国を滞在しなければ別にそこまで問題はないそうだ。(一応、滞在するときにはある程度の許可は必要になってくるそうだが)

 というか、知ってたんならわざわざ不安を煽るようなことを言うなよ。


「……さて、まずはここの代表に滞在許可を取りに行くか」

 さすがにここから直に国境越えをするわけにはいかない。いろいろ食料とか装備とかを集めておかないと。

「ところで、ここの代表って……もしかしなくても王様?」

「ですよ。当り前じゃないですか」

 だよな~。やっぱりそうなるよなぁ。

「……マジか」

 王様と会うとか面倒臭そうだな。

「…と言っても、王様には会えないと思いますよ?」

「……えっ!?」

 どういうことだ?

「王都みたいな大都市というか、『キング』がいるような場所では基本的に範囲が広いので普通は小分けにした土地持ち(オーナー)スキルを持っている人か代理人がいるはずなのでそういう人たちに許可を貰えば十分です」

「……へぇ~、そうなんだ」

「はっはっは。シィド殿それぐらい常識でござるよ?」

 お前が言うとなんか腹立つな。

 でもま、王様に会わなくてもいいんなら気楽でいいな。


「……だったら、とりあえずその代理って人の所にでも行くか」

 とはいえ、王都はアースナルドとは違う意味で分かりにくいな。

 アースナルドは交易ということもあって様々な文化が入り混じっている感じがあった。代表の性格もあったんだろうけど。

 王都は賑やかさはあるが、その中にも落ち着いた雰囲気が漂っているので目立つ建物はあまり見当たらない。歩いていけばそのうちわかるだろうけど、こう広いと探すのが面倒だな。

(かと言って目立つからってあそこに行くのは違うしなぁ)

 入ってすぐに目に入った一際巨大な建物というか城。あそこに行けばすぐにわかる気もするがあまり近付きたくもない。


 …しょうがない。誰かに聞くかな。

「ちょっといいかな?」

「…はい?」

 とりあえず近くにいた女の子に声をかけてみた。

「ややっ!シィドさん王都に入ったからっていきなりナンパですかっ!?」

「なんとっ!シィド殿、いくら性的興奮を覚えたからといえ、そんな年端もいかぬ童に声をかけるのはどうかと思うでござるよ!」

 うるさい。お前らは黙ってろ。

「…………」

 見ろ!お前らのせいで距離を開けられたじゃねえか!!


「……ごほん、気にしないでくれ。あいつらが言っているのは妄想だ。いや、幻聴だと思ってくれてもいい」

「………はぁ」

 うっわー、傷つくぅ!!

 子供に距離を開けられるのってこんなに傷つくものなのか。

「まったく。何をしているのですか?」

「……お前のせいだよ」

「失礼な。…では、お嬢さんお聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」

「……大丈夫、ですけど」

「王都の滞在許可はどこでもらえばいいのでしょうか?都の人ですよね?」

「…あぁ~、ボク都生まれじゃありませんよ?こう見えても冒険者ですから!」

 えっ!?

「そうでしたか。それは失礼」

 スルーするのか!?

「あっ、でもここにはもう一週間ほど前から滞在してるし場所はわかりますよ」

「おおっ!それは何よりなのですよ。できれば案内居てもらえますです?」

「はい。いいですよ~。ついて来てください」


「(いやぁ~、あんな小さな子が冒険者とは驚いたな)」

「(…そうですか?別にこの世界の場合は親が冒険者ということもざらにあるので普通ですよ)」

 そんなもんかね。

「着きましたよ~」

 そんな話をしている間に目的地に到着したようだ。

「ありがとうございました」

「いえいえ、お気になさらず。それじゃあ、ボクはこれで!」

 そう言うと彼女はそのまま走り去って行ってしまった。

「……あっ!名前…聞き忘れたな」

「ですね~」

「…あの様子。もしや!」

「「どうした(です)?」」


「厠を我慢していたのではっ!!」

 でっかい声で何言ってんだこいつ?

 注目が集まる前に口を塞いで中へと入っていった。




「では、よい滞在を」

(アースナルドと違って、あっさりと済んだ許可申請には毎度のことながら拍子抜けさせられるな)

 そんなことを思いながら役所を後にし、ひとまず今日からしばらくの間厄介になる宿を取りに行く。

 

 宿はもう決まっている。フィアードを出立する前にリリィさんから王都でおすすめの宿屋を教えてもらっていたのだ。

「…ここだな」

 教えられた宿屋『モフモフ亭』にやって来ていた。

 ここは魔物使い(テイマー)であるマリアージュさんも滞在できるように動物や魔物を止める厩舎が備え付けられている。

 その上、値段もリーズナブル。ここに留まらない手はないだろう。


「いらっしゃいませ~。宿泊ですかそれともお食事、お手入れにしますか?」

「……お手入れ?」

 宿屋ではあまり聞かない言葉だな。

「はい!当モフモフ亭では動物や魔物に合わせて人間の髪の毛もお手入れさせていただいております」

 ああ、そういうこと。

「…いえ、宿泊でお願いします」

「宿泊ですね。何日滞在する予定でしょうか?」

「ええっと、大体一週間…かな?」

「かしこまりました。何部屋お取りしましょうか?」

「3人一部屋でお願いします!」

「おまっ、そんな勝手に…!」

「別にいいじゃないですか」

 ヤノンは節約節約と呟きながらご機嫌で話を進めてしまった。

「……まったく、マツリもいるってことを考えろよ」

「……んっ?拙者がどうかしたでござるか?」

 お前は少しは羞恥心を持て。

「…はぁ、まあいいや。3人一部屋でお願いします」

「はい!かしこまりました!」

 受付のお姉さんの笑顔がなんだかなぁ。




「はふぅ~、フカフカですね!」

 ボフッとベッドにダイブしたヤノンが気の抜けた声を上げる。

「シィド殿!ここは大浴場も付いているそうでござるよ!」

「…お前ら、少しは落ち着けよ」

「そうは申すが、長旅でござるゆえあまり気を張り詰めていても疲れるだけでござるよ?」

「……それもそうか。じゃあ、早速風呂に浸かって疲れを取るかな?」

「それがようござる。どれ、拙者が背中を流してしんぜよう」

「ハァッ!?バ、バカ!何を言ってんだっ!」

 ガッと道具を持ってそのまま部屋を飛び出していった。


「……はて?シィド殿は一体何をあんなに慌てているのでござろうか?」

「やはは…」

 シィドさんも大変なのですよ。


 ……おっ?あれは…。

 大浴場に向かっていた俺は見覚えのある背中を見つけた。

「…ありゃあ、さっきの女の子だな。あの子もこの宿に泊まっていたのか」

(あの子も風呂に行くのか。……って、おいおい!そっちは違うだろう)

 男湯と書かれた方へ向かっていったので慌てて追いかける。


「ちょっと!そっちじゃないだろ!」

 追いついた俺はガシッと腕を掴んでそこから引き摺って行こうとする。

「…はぁ?あんた誰だよ!意味わかんねえこと言ってんじゃねえぞ!!」

 ……あれっ?この子、こんなに気ぃ短かったかな?

「いやいや、俺だよ!ほらっ、ついさっき役所まで案内してくれただろう?」

「知らねえつってんだろ!役所だぁ?このまま衛兵に突き出してやらあっ!」

「うおっ、ちょっ、落ち着けって!」

 暴れだしたので首根っこを掴んで持ち上げる。


「てめえ!離せ、離せよ!」

「……まったく、一体全体どうしたってんだ?」


 じたばたと暴れる彼女をそのまま女湯の方へと連れて行ってあげる。

「はい、こっちが正真正銘の入り口。もう間違えるんじゃないよ」

 世の中はみんな俺みたいな紳士じゃないんだから。


 ――ガラッ!


「……あれっ、ミルル?何してんの?それに、あなたは…」

 降ろそうとしたその時、女湯の扉が音を立てて開き、中から捕まえている子とまったく同じ顔の少女が姿を現した。


「……あれっ?」

 俺、ミスった?


 ちょっとした騒動の予感を感じながら、俺は掴み上げていた子供をそっと床に降ろしていた。

 飛ばした辺りは気が向いたら番外編や閑話として差し挟んでいきます。

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