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新たな目的

 予告通り第一部完となります。呆気ないと思われるかもしれませんが、こんなもんです。

 次回から第二部【救済】が始まります。舞台はフィアードから国外へと続いていきますのでしばらくフィアードの面々とはお別れになりますが、ご了承ください。

 とりあえず設定集などの更新をしつつ、書き上げたいと思います。

「「はあ~」」 

 俺とヤノンのため息が重なる。

 憂鬱だ、面倒だ。そんな思いを抱きながら森をひた歩く。しかし、そんな俺たちの足取りは見るからに重い物だった。

「どうしたでござるか?もっと元気を出していくでござるよ!」

 唯一俺たちを先導するように前を行くマツリだけが元気一杯だった。いや、馬鹿元気とでもいうべきか…。

 そもそもマツリ。…お前、目的地知らないだろう。

 まっ、それは俺たちも同じだがな。


 俺たちはフィアードから少し南へ下った森へ向かっている。

 目的は前回助太刀してもらったマツリへの礼だ。

 マツリは、

『こちらは飯の礼で助太刀したにすぎぬ。礼など不要』

 そう言われたが、マツリが助太刀してくれなければやられていたのは間違いない。

 俺たちは何が何でもお礼をするというとようやく覚悟を決めたようだ。

『……では、拙者がこの地へ来た目的を手伝っていただくというのはどうでござろう?』

 

 そうして、マツリの目的のモノ。それを手にいれられる可能性があるという程度の場所へ向かっているのだが。

(…ただ、その目的のモノがなぁ~)

 俺たちが憂鬱なのは何も移動が面倒だからとではない。

 マツリの目的としているモノがとてつもなく嫌だからだ。

 

 マツリの目的。それはうんうんコアラという名前の魔物……の糞。

(なんでわざわざウンコなんて…)

 うんうんコアラというのはマツリのいたジルバニア公国には存在しない――もっと温かい場所に生息する――魔物らしく、それがマツリがわざわざやって来た理由の一つでもあったそうだ。

 あくまで目的の一つであり、真の目的は語らなかったが…。


「……ああ~、わざわざウンコを取りに行くってなんだろうな」

「シィドさん、もう少し言葉を選んでほしいのですよ」

 そうだよな~、声に出せば嫌でも思い出しちまうもんなぁ~。

 げんなりした気分でえっせらほいせらとマツリの後をついていき、ようやく森へと入っていった。


「…で~、そのコアラは一体どんな魔物なんだ?」

「……おっ?まだ説明してござらんかったかな」

 説明は聞いたよ。でも、納得できないんだよ。

「まあいいでござる。うんうんコアラというのはその糞が大変よく効く薬になるのでござる!」

「……でも、なんでわざわざそんなものを?」

 …ヤノン、お前どうあってもウンコと認めたくないだな。

 ヤノンの意外な女性らしさを発見した瞬間だった。ハッキリ言って興味はないけど。

「それは……」

 それまで快調に、言い換えれば能天気に答えていたマツリが初めて詰まったのでそれ以上深く追求はしなかったけど。何かわけありってのは確実かな。


「…そういえば、それって見分けが付くのか?」

 肝心な疑問が残っていた。

 魔物本体ではなく、その魔物の糞を探すってことは見分けが付かないと探しようがない。森には動物も他の魔物もいる。当然、そいつらの糞もそこら辺に落ちていることだってある。

「……さあ?」

「「『さあ?』!?」」

「いやぁ~拙者も風の噂で耳にした程度でござるからな~」

 おいおい…。そんなんでよく探そうなんて思ったな。

「…まあ、特徴はしっかり聞いているので大丈夫でござろう!」

 どこまでも楽観的な思考に俺とヤノンの足取りは先程よりも重くなったのは言うまでもない。


「では、頑張って探しましょうぞ!」

 森に辿り着きマツリから教えられた手がかりを元に探し始める。

 うんうんコアラの糞というよりは本体の特徴だが、それは排便中にしか鳴かないこと。そしてその鳴き声が特徴的なことだった。

「……しっかし、本当にそんな風に鳴くのかね?」

 どうしても信じられず独り言ちる。


 ――ゲリヒヒヒヒ


 半信半疑で探していた時、遠くの方から変な声が聞こえてきた。

(マジかよっ!?)

 教えられた通りの鳴き声に慌てて駆け寄っていく。

 

 うんうんコアラの注意点として排便中にしか鳴かないことの他に排便中に姿を見られると襲いかかって来るということが挙げられるのであくまで慎重に決して姿を見られないように…。


(……いたっ!?)

 地面に蹲って小刻みに震えている毛玉。。顔は見えないがあいつだろう。

(ハッキリと汚臭が漂ってきてるし)

 鼻につく嫌な臭いを堪えつつじっと息を潜める。

 

 どれぐらいの時間そうしていただろうか。ようやく排便を終えたのか辺りをキョロキョロし始めた。

(…もういいかな?)

 そう思って木陰から姿を現す。

 ――パキッ

「――!?」

 ヤベッ!

 小枝を踏んだ音でこちらに気付いたうんうんコアラと目が合う。

「~~~~」

 だが、うんうんコアラはそのまま身を翻し逃げ出していった。

 後には俺と臭いが残された。


「…おぉっ!これがそうなのでござるか!?」

 うんうんコアラが逃げ去った後、俺の上げた狼煙を見てやって来たマツリは興奮したように銀色に輝くそれに手を伸ばしていた。

「わー、わーっ!マツリさん落ち着くのですよ~」

 素手で触ろうとしているマツリを抑えているヤノンが必死だ。

 どうでもいいが、臭うからさっさと何とかしてくれよ。


「よし、これでいいだろう」

 俺はカバンから出した草で器を作ってその中に糞を入れ(触るのが嫌だったのでその役目はマツリにやらせたが)、再び同じ葉で蓋をして臭いが漏れないようにする。

 カバンから取り出したのはアツグという名の植物で、火で炙っても焦げ付きにくく水を入れても溢れにくい簡易的な鍋や保存容器の役目を果たす料理人にとっては便利なモノだった。

「じゃあ、帰るか」

 ギルドの依頼品でもないし、加工は俺の家でする予定だったのでそのまま森を後にした。


「…うわっ、やっぱり臭いな」

 早く代わりの口布探さねえとな。もう一回ピラファ火山に行かないと駄目かな?

「……さっさと進めてくれ。その後で部屋の消臭もしなきゃなんねえんだから」

「そうですね~。ここ(薫製室)から臭いが外に漏れることはありませんが、後で食材を扱うと考えるとなんとかしなきゃですよね」

 だよな~。最悪建て直しかな。またおやっさんにどやされそうだな。

 

 しかし、その考えはいい方向で裏切られることとなる。


「その心配は無用でござる。……【調合空間】発動でござる!」

 マツリがスキルを発動した瞬間、ぽわわぁ~とオーラが俺たち、続いて部屋全体を覆い尽くしていく。

 そして先程まで臭っていた汚臭はキレイさっぱり消えていた。

「どうでござるか?これなら問題ないでござろう?」

「……たしかに、問題ねえな」

 こいつこんなこともできたのか。


 それから作業は順調に進むかと思われたが、なかなか配合率などが難しいらしく思ったようなできにはならず難航していった。

「……なあ、今作っているものはそんなに重要なものなのか?」

 10度目の失敗で俺は尋ねてみた。

 まだそこまで知っているわけではないが、作業に入ってからのこいつの様子は明らかにおかしい。

 鬼気迫っているというか、追い詰められている。そう感じてしまう。

「……重要でござる。拙者の恩人を救うためにはどうしても…!!」

「……恩人?」


「……拙者、出身はラギリ村ではござらん。そこよりもさらに北へ行った地の出でござる」 

 ぽつぽつと過去を語り始めるマツリ。その話に耳を傾けていく。


「……幼い頃に両親と死別した拙者は当時旅の途中で立ち寄った子連れ冒険者と仲良くなり、旅に同行することとなり申した。

 その御仁は拙者を子供と同様に扱ってくださった。その御仁を助けるためにどうしてもこの薬が必要なのでござる!」

 マツリの必死な思いはたしかに伝わった。嘘だとも思えねえ。

 全部を話してもいないようだが、そんなの関係ねえ!


「……わかった。なら、絶対に成功させないとな!!」

「――ですよ!」


「か、感謝でござりゅ…!」

 涙ぐんだマツリがごしごしと目元を拭う。




――その後も休むことなく挑戦を続け、ようやく薬が完成した。

「「「できたーー!!」」」

 完成した喜びを3人で分かち合い、感極まって抱擁まで交わす。

「…これで、やっと…やっと救い出せる!」

 中でもマツリの喜び方は一際だった。

 この薬のために遠い地からやって来たんだ。当然か。


「……それにしても、お前の持っている武器といい、この薬といい…ここ以外にもいろいろなモノがあるんだな」

 俺の知っているのはその中のごく限られた一部ということか。

「そうでござるな。この世界にはまだまだ知らないことが多ござる。誰かが解き明かすか、それとも謎のままか…。それは後世の人間が決めることかもしれませぬな」

 だよな。


「よし!決めた」

「……な、なにを決めたんです?」

「マツリ、俺たちもお前の村まで一緒に行くぜ!」

「…やっぱり、そうなるのですか」

 隣でがっくりと肩を落としているがそんなの気にしない!面白いモノが俺を待っているんだ!!

「…いや、それは」

「遠慮すんなって。これはついでみたいなもんだ。もっと面白いモノがあればそっちに行くかもしれねえしな!道中お前一人だとまた食い倒れしちまうぞ?」

「しかし――」

「だぁー!!うるさい!俺が行くと決めたら行くんだよっ!」

 あぁ、新天地。ワクワクするな!!




 あぁ~、やっぱりこんなことになる予感はしていたのですよ。

 思えば、『青き虎』との戦闘中にマツリさんの武器を見てから目の色が変わっていたのです。それまでフィアード近郊しか知らなかったシィドさんが何かに興味を持つの何て予想できたのですが…。

 まさか、ここまで急に話を進めるとは…。その原因の一旦はマツリさんの身の上が絡んでいるのは明白ですし……。まったく、女の人と見ると見境がないのですから。

 まあ、それがシィドさんのいいところでもありますね。

 こうなったら、私もやってやるのですよ!




 うう~む、困ったことになったでござる。

 このお二人がいい御仁だというのはわかるでござるが、まさか一緒に来るとまで言い出すとは。

 これからどうするか。拙者の本来の目的を話しておらん以上、やんわりと断るべきなのでござろうが、何やら断り辛い。

 どうしてでござろうか?

 しかし、面白いモノを見つけたらそちらへ行くと言っているでござるし、元々同行はついで。ならば、しばらく共に旅をするのもいいかもしれぬ。

 いや、いいに決まっているでござる!

 それにしても、誰かと…しかも3人で旅をするなどほんに久しぶりのこと。

 ――懐かしいでござるなぁ。


 こうして三者三様の想いを抱きながら、行き倒れサムライ・マツリとフィアードで話題沸騰、新進気鋭の問題児パーティは東方の国『ジルバニア公国』へと旅立つことを決意した。



 これから先、どのような出会いと苦難が待ち受けているのか――彼らはまだ知らない。

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