真昼の太陽
なんとか書き溜めていた分を修正しつつ書き上げることが出来ました。皆さまも体調にはお気をつけて。
この話で長いようで短かった『青き虎』との抗争は終了となります。
後書きでお知らせがありますのでお見逃しなく。
「……さて、雑談も終わりだ。そろそろ茶番劇を終わらせようぜ」
迫りくる虎。
逃げきれぬ運命。
覚悟を決める時が――、
「――お前が終わらせろ、小僧」
「……ぐっ、がっ…がはっ!」
聞いたことのない声がして、ババビディの首にかかる手。鋼鉄の強度に高められた奴の首をスチール缶のようにミシミシと握り絞めていく。
180㎝近い巨体が地面から離れ、ババビディはもがきながらその手を外そうと躍起になる。
呼吸が苦しくなってきたのか赤から紫へと徐々に変色していく顔色。
それまで首にかかった手を外そうともがいていた手がぶらりと力なく垂れ下がったところで、ようやく解放される。
「――ハーッ、ハー」
空っぽになった肺に必死で空気を送り込むババビディ。そして、ようやくその後ろにいた人物の全体像が明らかになった。
肩まで伸びた赤毛がかかった長髪にババビディよりもさらにデカい図体。鋭い目つき。
例えるなら百獣の王……ライオン。
「――シィドさん!!」
そして、その陰から姿を現したのは……。
「……シェナさん」
「大丈夫ですかっ!?」
駆け寄って来た彼女は俺以上に顔色が悪い。…よほど心配をかけてしまったようだ。
「――!?しぇ、シェナさん!ヤノン…ヤノンを!」
安心したところでヤノンのことを思い出し、シェナさんにヤノンのいる方向を指差す。情けないことに精神的疲労のせいで体に力が入らない。
それを見てこくりと頷いた彼女がヤノンに駆け寄っていく。
「ヤノンさん大丈夫ですか!?しっかりしてください!」
「……うっ、あぃ」
シェナさんに抱えられ、意識を取り戻したヤノンのか細い声が聞こえる。
よかった。無事だったか。
「………シェナさん。あの人は…一体?」
ヤノンを俺の傍に連れてきて手当をしてくれているシェナさんにあの男について尋ねる。
……ちなみにマツリは大したことなく、脅威が去ったと判断したのかシェナさんを手伝っている。
「…あの人は、今私がお世話になっている家の人です。名前は――」
「名前はレオン・ガルロンなのです」
シェナさんの言葉を先取りしてヤノンが答えを告げる。
「ヤノン!?無事かっ!?大丈夫なのか?」
「…やは、は。そんなに矢継ぎ早に聞かないでください」
いつもよりも力ない笑みだが、とりあえずは大丈夫そうだ。
「…ヤノンさん、ガルロンさんとはお知り合いですか?」
「……この町の出身であの人を知らない人の方が、少ないのです」
「あの人は、先々代の町長です」
「……ほう、どうりでできる御仁だと思ったでござる」
ヤノンの説明に納得の様子を見せるマツリだったが、先ほどまでの気の緩みを整え、いつでも動けるように体勢を整えている。
彼女の戦闘本能が脅威を感じ取ったということか。
「…あれが、先々代町長」
先代町長ともアフィとも異なる雰囲気を放っている。言い換えれば、圧倒的なカリスマ性を感じさせる。あの人の前では俺なんて矮小な存在にしかならない。そんな感想を抱かせる。
「……そんな大物がなんでここに?」
「私、解放されてからすぐに助けを呼びに行ったんです。だけど、誰に頼ればいいかわからなくて……」
なるほど、そんな時にあの人に会って助太刀を頼んだのか。
だが、俺の予想とは違ったようだ。
「――そんな時、ガルロンさんに会ったのですが…。事情を説明したら凄い形相になって」
助太刀ではなく、自分から突っ込んできたか。
それにしてもいくら先々代の町長とはいえ、なんでわざわざ。
「……先々代は正義感に溢れている人ですから」
そういうことか。
ヤノンの話では先々代はその実力だけで町をまとめていた大物。王都からも覚えがよく、文句のつけようがないほどの人物らしい。
――先々代町長レオン・ガルロン。圧倒的なカリスマ性と実力を慕ってやって来た者たちをまとめあげ、フィアードを発展させてきた彼は例えるならば真昼の太陽のように全体を照らしていた。
「……ババビディ、貴様何をしたのかわかっているのか?」
「…ガハッ!クソッこのロートルが…!」
「……わかっておらんようだな」
ババビディの態度に反省の色なしと判断したガルロンさんは再びガルロンの首根っこを掴み上げる。
まるで親ライオンが子ライオンの首根っこを噛んで強引に押さえ付けてるようにも見えるな。
――それから行われたのはただのリンチだった。
無言で殴りつけ、口を開けばさらに殴る。無言になれば反省の有無を確認し、態度を見て再び殴る。それをひたすら繰り返す。
それは、アフィがリリィさんたち『貴婦人の話題』のメンバーを伴って事態の終結にやって来るまで続けられた。
「……おやおや、こりゃ酷い」
原形が分からなくなるほどにボコボコに殴られ、腫れ上がった顔を見ながらそう呟くアフィ。
リリィさんたちに至っては思うところがあるのか、その情けない姿に笑いを堪えている。まあ、因縁を吹っ掛けられていた相手だしな…。
「アルタフィル!遅いぞ、今まで何をしていた!?」
「いやぁ~、すいません師匠。これでもできるだけ急いできたんですけどね…」
ガルロンさんに怒鳴りつけられても委縮することな飄々と答える姿には感服するぜ。
「……あの二人ってそういう関係なんですか?」
「そうだよ。町長、先代に勝つためにガルロンさんに弟子入りして土地持ちとしてのいろはを叩き込まれたんだって。まあ、ガルロンさんよりも上になるのはまだまだ先だろうけどね…」
へぇ~、あのアフィがねえ…。
まあ、上手いことやるタイプってことかな。
「ただ、そのせいで未だにガルロンさんには頭が上がらないらしいですわよ?」
「それはしょうがないんじゃない?ガルロンさんの影響力はまだまだこの町に根付いてるからね」
リリィさんはどこか呆れたような雰囲気だが、いつものことなのかペルニカさんは簡単に流している。
好きな相手の情けない姿は見たくないってことですか。そうですか。
どことなくやさぐれた気分になりつつ、アフィに呪詛の念を送るぐらいは許されるだろう。
「ではな、アルタフィルさっさとこの輩の始末をつけておけよ」
「…言われるまでもなく。師匠はもう引退してるんですから家に引きこもって大人しくしていてくださいね?」
「カッカッカ!その隠居爺を引っ張り出して教えを乞うたガキがよく言うわ!それに、町長こそ引退したが、儂はまだまだ現役だ」
「それは……わかってますけど」
皮肉をものともしない返しに言い淀むしかないアフィだった。
さて、この騒動だが結末は実に呆気ないものだった。(先々代町長の登場も含め)
まあ、迷惑をかけられたのも被害も俺たちと『青き虎』の面々だけだから当然といえば当然の帰結だが…、何か釈然としない。
せっかくの解決ムードに水を指したくないから言わないけどな。
まずはクラン『青き虎』は解散。メンバー全員に罰金が課された。
そして、盟主のババビディはフィアードから永久追放処分となった。
次にサブマスターのデヴィオは新ジョブという重要性からフィアードからの外出を制限されることとなった。
残りの二人――ニケルとピリノンだが…、ニケルは罰金として200万Mを課せられ、強制労働半月。ピリノンは罰金300万Mと強制労働3か月が課せられることとなった。
二人の起こした影響の大きさについて考慮した結果である。
しかし、二人を捕縛に行ったところ処分通達の前に逃げ去っており、行方を掴むことができなかった。
いまいち締まらない結末だが、これでかつての代表クラン『青き虎』の反乱は解決というのが住民たちの見解である。
活動報告にも掲載しましたが、仕事のスケジュールの関係でしばらく更新が遅れるかもしれません。ご了承ください。はじめの方にも書いた通り大まかなストーリーはある状態でスタートしてますので意地でも完結はさせます。それは保証します。
さて話は変わりますが、次話で問題児編(後)並びに第一部は完結となります。完結後は設定集を更新しつつ第二部に取りかかっていきたいと思います。
さらに、第二部開始あたりでもしかしたらタイトルを変更するかもしれません。
作者の中では腹ペコ放浪記というタイトルはイマイチ納得のいっていないところがありますので…。(本当にいい加減ですみません)
腹ペコ放浪記というタイトルは旧題という形で残していくつもりですので、タイトルが変わっていても読んでいただけると幸いです。
それでは次回、第一部(完)でお会いしましょう~。




