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語れない歴史

 本当はこの話で三幹部との戦闘を終わらせたかったのですが、長くなりそうなのでわけることにしました。

 ジョブがわかったのはいいのですが…、忍者という聞いたことも見たこともない新ジョブ。そんなのがわかったところで対策なんて打てるはずがないのです。

 だったら、正々堂々戦うしかないのですよ…!


(好機があるとすれば、シィドさんのさっきの攻撃!)

 こちらに集中していたからか、それとも死角から放たれた攻撃だからかそれはわかりませんが、碌に動けないシィドさんの攻撃が当たったのならやりようはあるはずなのです!

 


(……くそ、やっぱりまだ無理か)

 ヤノンが忍者と戦う。それなのに俺は助けることが出来ない。

(せめて、せめて声が出せれば…!)

 そうすれば、さっきの攻撃で気付いたヒントを伝えることができるってのに…!

 そんなもどかしさを感じながらも何もできず、ただ見ているしかなかった。

 

(かあ~、ワクワクするな)

 一方、デヴィオは二人とはまったく逆でただただ勝負を楽しもうとしていた。

(…新ジョブ忍者。これが出た時は驚いたが、それからは頭の使い走りばかり。退屈でしょうがなかったぜ)

 実はこのデヴィオ。クラン『青き虎』のサブマスターとはいうが、ここ数年はほとんど無駄飯喰らいならぬ、無駄酒飲みを養うのために仕事をする日々が続いていた。

 それまでは代表クランとして問題があれば出向いていた分平穏な生活に嫌気がしていたのである。そういうことを考えれば、ババビディが立場などの欲に塗れているのに対し彼はまさしく血に飢えた虎であった。




(とりあえずの第一手…!)

 ダンッと力強く一歩踏み込み、

「逃げるが勝ち!なのですよ~」

 その勢いのまま反転し、逃げていった。


「な……」

(なっ、……)


「なんだとーー!?」

(なにぃーー!?)


 図らずも敵同士であるシィドとデヴィオの心情が一致した瞬間だった。

 だが、これは決しておかしいことではない。

 むしろ罠師ギミッカーであるヤノンが正々堂々正面から戦いを挑むと考える方がおかしい。


 逃げて罠を仕掛け、それに誘い込む。それこそが罠師としてヤノンが取る正々堂々ということだ。

 ……とはいえ、仕掛けられた方からしてみれば卑怯千万という他ないのも事実ではあるが。


「……クソッ!」

 慌てて後を追いかけるデヴィオ。

 屋上には毒で動けないシィドだけが取り残される形となった。


(………扱い悪すぎねえか?)

 残されたシィドは一人そのように考え、哀愁に暮れていた。



 出し抜いてやったのですよ~!

 笑い出しそうになるのを堪えながら裏話を再び縫うように走る。

(今のところ気配は感じないですが、油断はできないです…!)

 なぜなら相手は得たいの知れない忍者。

 そんな奴から逃げ切れるなどと思ってはいけない。

(ですが、時間配は稼げるのです)

 時間を稼げば助けが来る可能性も何よりシィドさんが動けるようになる可能性も出てくるはずなのです…!


(………あれっ?)

 走りながら違和感を覚え、足を止める。


「……ここ、さっきも通りませんでした?」

 裏町に詳しくないですし、似たような建物が多いですけど…。

 こんなに広かったでしたっけ?

 いえ、今はそんなこと考えてる場合ではないのです!

 迷うんだったら目印を付けておけばいいのですよ!


「…………そんな」

 あれからさらに走ったのに、さっき目印代わりに壁に投げつけておいたカラシシの粉末がなんで目の前に…!


「………ようやく、気付いたか」

「……ッ!」

 いきなり聞こえてきた声に身構える。

 どこです?

「――ここだ」

「ム、ムグゥッ!!」

 背後から回された手により口を押えられる。

(……そ、そんな!?)

 しかし、背後から回されるなんてありうるはずがない。

 なぜなら――

(後ろは壁だったのですよ!?)

 常に背後から現れるので警戒はしていた。だからこそ、壁を背にしていたのに…!


「……お前も、結局俺のスキルを見誤ったのさ」

 なんなのですか?こいつのスキルは一体!?





「…………捕縛」

「なんのっ!」

 マツリを捕まえようと伸びた蔦は彼女に触れる前にバラバラに切り刻まれ、地面に落ちていく。

「…どうでござるか!?」

「…………再生」

 しかし、切り落とされた蔦もまた成長し、襲いかかってくる。

「ぬおおおっ!なんのこれしきぃー!」

「…………滑稽」

「……!!それは聞き捨てならんでござる!」

 剣閃を確認できないほどの速度で振るい、今度はまるで粒のように細切れにすると一気に距離を詰める。

「…………脅威!」

 その速度を見てピリノンが行動を起こそうとするが、それをマツリの移動速度が上回る。

「…………ッ」

 ピタッと首筋に添えられたネギ。絵面としてはシュールだが、そのネギが先ほどから自慢の植物たちを細切れにしているのを目の当たりにしてきたピリノンにとっては笑い事ではなかった。

 つぅーと冷や汗が流れるのを感じる。

 いくら死ぬことはないといっても、死なないギリギリの攻撃を与えることはできる。

 ゴクリと緊張で唾を呑み込む。ここで勝負を決めるつもりなのか?だが、自分にもまだ奥の手はある。とはいえ、先ほどの速度を見ると当てられるかは微妙であるが…。

 必死で対策を練っていたピリノンではあったが、マツリが発した言葉は彼女の予想を斜め下に裏切るものだった。


「…人の様を見て滑稽と言うが、貴殿の方が滑稽であろうこのタコ女がぁ!!」

「…………」

 ……タコ、女?


 言われて自分の姿をよく確認する。いつの間にか首に添えられていたネギはなくなっており、彼女も距離を取っていた。

 たしかに、言われてみればタコのように服の下から蔦が出ている。それにしてもタコ女って。

「…ふふ、ふふふ、ふふっふふふうふっふふうふふ」

 ダメ。我慢できない。

 この時、ピリノンは彼女の生涯初となる感情を爆発させていた。


 …………愉快?そんな陳腐な感情はとうに超えている。これは、いうなれば…そう。

「…………快、感」

 アハッと笑みを見せた彼女はもうクールビューティなどではなかった。

 恍惚の表情を浮かべ、紅潮した頬。その瞳は欲情しきっており、目の前の獲物以外は見ていなかった。


 言いたいことも言えたし、仕切り直しでござる。

 そう構えていたマツリは敵の様子を訝しんでいた。

(…うう~む。先ほどに比べて明らかに隙が多いでござるが…)

 たしかに今の彼女は隙だらけ。だが、こちらを真っ直ぐに見つめているし…。

(何よりも彼女の眼が何やら危のうござる)

 あの瞳で見つめられていると何やら背筋がぞわぞわっとしてくる。まるで虫が背中を這いずり回っているような…そんな感覚。

(もしや……!)


「……ハァ、ハァ。…………?」

 興奮のし過ぎで呼吸が上気していたが、何やらもぞもぞし始めたマツリの様子に疑問を抱く。

「…………不可解」


 そんな感想を抱かれているとは知らず、マツリは真剣に着物の中に鞘を突っ込んでごそごそしていた。

(……くぅ、駄目でござるか!?だったら…)

「……これで、どうだぁ!!」

 何を思ったのか、着物に手をかけ、一気に剥ぎ取るように脱ぎ棄てた。


「…………興…奮、ブハッ!」


(うむ。上手くいったようでござる!)

 ダメージを与えたと勘違いし満足気に頷くサラシとふんどしを巻いただけのマツリ、その姿に興奮し鼻血が噴き出た鼻を押さえて悶えるピリノン。

 状況を知らない人が見れば……いや、誰がどう見ても変態二人にしか見えない。言い訳のしようのない光景が裏町の路地で繰り広げられていた。

 

 ――なぜ、マツリがいきなり着物を脱ぎ棄てたのか?

(……それにしても、植物使いがまさか虫まで使ってくるとは思わなんだ)

 彼女はぞわぞわしているのが接近した時に虫を仕掛けられたからだと思っていた。だからこそ、鞘で追い出そうとしたが、追い出せなかった。

 ならば着物を脱げば関係ない。そう考えたのだった。

 バカと変態が絡んだことで起きた悲劇。


 ――ただ、この状況はシィドたちにとっては追い風となった。


「(………おい、なんなんだあの変態女たちは)」

「(知らねえよ。裏町で何かしてるってんで表の奴らを抑えてたらいきなり戻って来いって言われてこんなの見せられてもわけがわからん)」

 元々の裏町の住人達は二人の変態に戦慄を覚えていた。それこそ、表からの侵入者を防いでいた人員を呼び戻すほどに。

(((…なんかよくわかんねえけど、関わらない方がよさそうだ)))

 こうして裏町の住人達は身の安全の確保のためにこの一件から手を引いた。

 以後、彼らは変態の巣窟と呼ばれるのを恐れて真面目に働くようになるのだが、フィアードでは歴史に乗せられない黒歴史として裏町や町長たちの間でこの「変態事変」が語り継がれることとなった。


 ――何はともかく、これでシィドたちへ助けが差し伸べられることとなる。




 ――そして、とうとうあの男が戦場と化した裏町へやって来た。

「………裏町が騒がしいな、あのバカガキどもが!」

 裏町の入り口。

 先ほどまで住人達が侵入を防いでいた場所には大柄で長髪の男性が忌々しげに裏町を睨みつけていた。

 彼の傍には発せられる怒気に縮こまりながらも心配そうな表情を浮かべる一人の少女が控えていた。

 なぜかピリノンが予想外に変態方向に向かっています。

 あえて言います。私は悪くありません!

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