相対する者たち
調子がよければもう一話投稿します。
声にハッとなって目線を上げると、柄に手をかけたマツリが立っていた。
「……何やら、町が騒がしいので来てみれば、まさかシィド殿に出くわすとは思わなんだ。だが、こうなった以上、理由は知らぬが馳走になった飯の恩義を返すため、不肖このマツリめが助太刀いたそう!」
(やめろ、逃げろ!これ以上巻き込まれる必要はないんだ)
「…お前、バカだろ?」
「よく言われる!!」
……こいつなら別にいいか。
「……おい、ニケルあの男を取っちまった分お前に譲ってやるよ」
「…………面倒」
「…ピリノンさん、本音は控えていただけるとありがたいのですが」
ニケルと呼ばれた眼鏡の男がマツリに近づいていく。
「…なんだ、貴殿が拙者の相手か!?」
「……ええ、面倒なことですが」
そう語るニケルは心底嫌そうだ。瞬時にマツリの面倒臭さを見抜く辺りは経験から来るものだろうか。
「……よし、わかった。貴殿では拙者の相手にはならん!引っ込んでおれ!」
「…………」
(…………)
「何がお前の自信をそこまで増大させるんだ?」そう全員の胸中が一致した瞬間だった。
「…どうやら、相当な自惚れ者のようですね」
「……ぬっ!?」
何を心外そうにしている。お前はまず心外という言葉に謝れ。
味方であるはずの俺でさえそう感じてしまう。
相手が杖を構えるのに対し、マツリも刀を抜く。
……そう、あのネギを。
「……ってなんですかそれは。ふざけてるんですか?」
「何を言うか!?拙者は一度もふざけたことはない!」
そうか。だが、存在がふざけていると思うぞ。
「…まあ、いいでしょう。早々に倒して差し上げます」
「来いっ!」
マツリとニケルの戦いが始まる。
二人の戦いが始まっている一方、俺の状況にも変化が訪れていた。
「(…シィドさん。聞こえますか?)」
……ヤノンか。
「(返事が出来ないようでしたら、瞬きで応えてください。YESなら1回、NOなら2回で)」
――パチ
「(よかったです。なんだか変な状況になっているようですが…)」
それは、たしかにそう思うな。
「(シィドさんが盛られた毒の種類がわからない以上、解毒はできないと思われます。しかし、この世界のルールを考えてもそんなに強力な毒は盛られていないと思います)」
まあ、強力な毒だとしても同族殺しができないということは死なない程度に自然に変換されるだろう。
「(…ということは、しばらくすれば動ける可能性は高いです。しかし、それまで彼らが高見の見物をしているとは思えません)」
だろうなぁ。
「(思えませんので、とりあえずシィドさんだけでも強引に引っ張っていきます)」
……んっ?
この時、俺は声が出せない状態でなくてよかったと思わざるを得なかった。
でなければ盛大に悲鳴を上げていたことだろう。
「……んっ?ゲッ、おいピリノン後ろだ!!」
「…………?」
ローブの男の声で後ろを見たピリノンが見たのは空中へ勢いよく引っ張り上げられていくシィドの姿だった。
「~~~~!」
この時、シィドは声にならない悲鳴を上げていてそれどころではなかったが、もしもこの時彼が声を出せたのならば恥も外聞も――今現在置かれている状況さえも無視して彼らに助けを求めた事だろう。
「オーライ、オーライ!っとと!」
建物の上でシィドを引っ張り上げていたヤノンが両手を広げて受け止めるもシィドは毒とは関係なく泡を吹いていた。
「ふい~、なんとか回収できましたね」
この時、シィドさんを無事に(怪我をしているので正確には無事ではありませんが)回収できたことに安堵して気が緩んではいた。
しかし、油断はしていないつもりでした。
「奇想天外なことやってくれんじゃねえの?」
それなのにその男に触れられるまで気付けなかった。
「……調子に乗ってると叩き潰すぞ」
肩に手を置いた状態で告げられ、逃げる前に殴り飛ばされる。
ズザザァーと地面を擦られ、屋上の縁にぶつかってようやく止まる。
「……う、うぐう」
「…ハンッ!調子に乗ってるからそういう目に遭うんだよ。……っといけねえ。こいつはニルケに譲ったんだった」
いや~うっかりだと言って頭をボリボリと掻く。
そんな男を見て私が感じたのは……確信でした。
(この男の身のこなし、こいつが連れていかれる時に背後にいた奴で間違いないのです)
「……おおっ!」
男はまるで名案を思い付いたかのようにポンと手を叩くと今更とツッコミたくなるような宣言をした。
「…俺の名はグリオラ・デヴィオ。クラン『青き虎』のサブマスターだ!観念しろや!」
(………とんだおバカさんなのです)
「…………」
そんなやり取りが行われていることなどは知らない『青き虎』のメンバー、ピリノンはどうするべきか思案に耽っていた。
端的に言うと屋上へ向かったデヴィオを追うか地上でニルケから獲物を奪うかということをじーっと考えていた。
元々口数が少ないので傍目には屋上を見上げているようにしか見えなかったが。
「…………不動」
結果、彼女が選んだのは静観だった。
クラン『青き虎』所属、ピリノン。
口数が少ないことからクールでミステリアス。その様から「青い妖精」と称されている彼女であったが、実際は極度に面倒臭がりなだけであった。
設定集にジョブについてあげていますのでよろしければご覧ください。




