始まる騒動
――マツリとピラファ火山麓で出会ってから数日後、俺たちはフィアードに帰りついていた。
「おおっ、素晴らしい町ですなぁ」
「……よ、ようやく戻って来れた」
「です…よ」
フィアードに着いて開口一番感嘆しているマツリとは正反対に俺とヤノンは目に見えてぐったりしていた。
というのも、マツリに食わせてしまったのでコゲコゲマトをもう一度集める羽目になりマツリも自分のせいなので手伝おうと手を貸してくれはした。くれはしたのだが……、動いた分食べる彼女の食欲に合わせて行動していたので結果的に予定以上時間がかかってしまったのだ。
しかもこいつ食うわ食うわ俺たち二人分の倍以上は軽く平らげる。
『旅の間は制限してた分ここで食い溜めしているのでござるよ』
こう語っていたが、そんなわけない。人間がそんなに食い溜めできてたまるか!
「……で、これからどうするんだ?」
「拙者でござるかっ!?」
なんで意外そうなんだよ。
「とりあえずこの町の代表に滞在許可をいただいてから宿を取るでござるよ」
「そっか。じゃあ、ひとまずここでお別れだな」
「何かあったら町外れにある家に来るといいのですよ」
「重ね重ね申し訳ない。滞在期間が決まれば挨拶に行かせていただきます」
「……さて、これからどうする?」
マツリと別れギルドに寄ったはいいがそこから予定がない。
「そうですねぇ……、とりあえず帰って休みますか?」
「シィドさん、ヤノンさん!」
……んっ?
返事をする前に呼びかけられる。
「おやっ、シェナさんじゃありませんか」
たしかにそこには可憐な少女、シェナさんがいた。
「えへへ、ヤノンさんもシィドさんもお帰りなさい。予定より遅いから心配してたんですよ」
はぁ~。シェナさん。なんていい人なんだぁ~。
「ちょっとしたトラブルで長引いてしまったのですよ」
「ええっ!大丈夫でしたか?」
ヤノンとシェナさんはあの依頼の後で和解して普通に会話するようになっていた。
そもそも彼女にはこの町で知り合いがほとんどいないので、今ではちょっとした時に一緒に出かける関係だ。
そういう時は女同士の付き合いとかで俺は置いていかれるのでちょっと悲しいが。
「……そうだ!私、フィアードを近々離れることになりそうなんです」
「えっ?ということは後任が決まったんですか?」
「まだ正式には決まってません。ですから一度アースナルドに戻って細かいところを決めていこうかと…」
「……それは、寂しくなるのですよ」
まったくだ。
「ですから、お二人が戻って来たら一緒に出掛けないか誘おうと思ってたんですよ」
シェナさんはそう言うと『お暇ですか?』と上目遣いで……その仕草は反則です!
「よろこんでっ――ごふぁ!」
ガッシリ手を握ってOKするとヤノンが鳩尾に裏拳を叩き込んでくる。
それでも手は離さない。
俺はこの手を離さんぞぉ。
このやり取りにシェナさんは若干引いており、試合に勝って勝負に負けた気分を味わうことになった。
「ふんふんふ~ん」
シェナさんが鼻歌を口ずさみながらスキップし、それにつられるようにヤノンもテンションが上がっていく。
そんな両手に花状態の俺はいわゆる勝ち組ってやつですか?
浮かれ気分の俺たちの前に突如男たちが立ち塞がる。
「……何だてめえら」
「シィドとヤノンだな。一緒に来てもらおう」
無視かよ。
「(シィドさん!)」
カバンに手を伸ばそうとしたが、ヤノンの言葉で思い止まる。
周りを見ればいつの間にか囲まれていた。
(チッ!一番雑魚を前方に置いて注意を引き付けて、他は退路を塞ぐ作戦だったのか)
内心で舌打ちしつつ、逃げれないのを悟る。
(せめてシェナさんだけでも……)
「わかった。ついて行こう」
「そうか。では――」
「ただ、一つ聞きたい。お前たちが用があるのは俺たち二人だけなんだな?」
「そうだ」
念を押すように睨みつけながら尋ねると端的な答えが返ってくる。
「…だったら、彼女は解放してくれ」
右斜め前にいるシェナさんを指差しながら告げる。
「……ッ!」
俺の言葉に反応するようにシェナさんが息をのみ、振り返る。
その表情は目に見えて青褪めていた。
「彼女はフィアードの住人でもない。だったら、巻き込む必要もないだろう?」
というか、巻き込んだら面倒なことになるんじゃないか?
そんな意味を含めて問いかける。
俺の言葉に困惑した表情を浮かべた男たちは目線を泳がす。
「……わかった。そいつは解放してやる」
しかし、すぐにシェナさんを解放する。
(……へぇ。そういうことか)
「(ヤノン、どうだ?)」
「(何がですか?もしかしてシィドさん自分を囮に私も解放してくださると…!)」
「(んなわけねえだろ。むしろ俺が解放されてえよ)」
まったくこんな時に冗談言ってる場合かよ。
「(やはは。冗談ですよ。…たぶんですけど、間違いないですね)」
どうやらヤノンも同じ考えみたいだな。じゃあ、しばらくは大人しくしていた方がいいか。
「シィドさん!ヤノンさん!」
シェナさんが心配する声がする。
「大丈夫ですよ。すぐに戻りますから」
安心させるように言ったけど届いたかな?
「へっへっへ、すぐに戻れるといいがな」
まったく鬱陶しいやつらだ。せめて口を開くな。臭いんだよ。
せっかくシェナさんが俺を心配する可憐な声を繰り返し再生してるのに台無しにする気か!
こうして俺たちはフィアードを取り巻く闇の部分に関わることになった。




