マツリでござる
前回の話ですが、予約投稿にしたら日にちを間違えてました。
予告を見ていた方は申し訳ありません。3/1に一話投稿しています。
――ガツガツ、むしゃむしゃ……ズズ~ッ!
「ぷっはぁ~~!ごちそうさまでした。……いやぁ~生き返ったでござる!」
出してやった飯をあっという間に食い尽くしたサムライは腹をポンポンと叩いて満足げな表情を浮かべていた。
結構な量を作ったんだけどな。
――ぐぎゅるる~
「…………」
「…………」
「…………」
辺りに気まずい静寂が訪れる。
「腹減ったでござる」
そう言ったサムライは再びバタンと倒れてしまった。
「……マジかよ」
無意識のうちに考えていたことを声に出すほどに驚いていた。仰天していた。
「……どうします?」
どうしますって言われてもな。もう食材も……ないことはないか。
でもなあ、依頼品だしな。
食料をほぼ放出し、残っているのは依頼で集めていたコゲコゲマトだけだった。
選択肢としては依頼品のコゲコゲマトを使うか今から食材を集めるかしかない。
フィアードに戻るのにはどんなに急いでも2日はかかる。
「…………」
あぁ、視線を感じる。
「……じぃ~」
わざわざ口に出さなくていい。
ったく、しゃあねえなあ。
「…ヤノン、コゲコゲマトを調理する。薪を集めて来い」
「はいなのですよっ!」
あ~あ、嬉しそうにしちゃってまあ。まあ、俺だって見捨てるつもりもなかったからな。
「……さてっと、俺も準備するかね」
コゲコゲマトの調理方法は簡単。ただただ強火で焼く。たったそれだけだ。
といっても、そうすることでようやく食べられるようになるってだけなんだが。
…そっから先は腕の見せ所だな。
「何回見ても、炭にしか見えないな」
叩けばまるで石でもぶつけているような音がする。これが本当に野菜なのかね?
「薪集めてきましたですよ~」
おっ、戻って来たな。
「燃えろ、燃えろ、燃え盛れ~」
「ヤノン。その変な歌はやめろ。気が散る」
「えぇ~」
イライラするぜまったく。
燃え盛る炎の中にコゲコゲマトを放り込んで十数分。未だに変化が見られない。
「…ヤノン。このやり方で本当に合ってるのか?」
「そのはずですよ?というか、シィドさんがスキルで確認する方が速いのでは?」
「……確認はしてる。ただ、これで合ってるのかわからないだけだ」
「料理人であるシィドさんにわからないのなら私にもわからないのですよ」
まあ、そうだな。
――パチッ、パチチ、パァンッ!
見ていることさらに数十分。破裂音をさせてコゲコゲマトの皮が弾け飛び、ジューシーな果肉が溢れ出してきた。
「――うおっ!?」
漂ってきた芳醇な香りに体が反応する。
こんなにか…!?
たしかにこれならみんな食べたがるのもわかるな。
「おお~、お腹が空いてくる匂いですですね~」
「だけど面倒だよな。食べるのにこんなに時間がかかるなんて」
しかもこれからさらに手を加えていかないと料理としては成り立たない。割に合わない食材だな。
「こんだけ、美味そうならこのまま食べれるんじゃないか?」
「ですね~」
弾ける時に消えた火元からコゲコゲマトを拾い上げ、一口頬張る。
ガブシュッと汁が口一杯に広がる。
「うんまあぁぁぁーー!!」
口元を拭いながら歓喜の声を上げる。
「では、さっそくあの人にも食べさせてあげましょう!」
「おう!そうしてやれ。俺は残りを焼いていく。あの分じゃすぐになくなりそうだしな」
「…重ね重ね申し訳ござらん。本当に助かりました」
真っ赤に染めた口元を着物の袖で拭いながら深々と頭を下げる。
「まあ、気にするな。困った時はお互い様だろ?」
「そうなのですよ。それに、目の前で行き倒れている人を放置してたら後味悪いのです」
「はっはっは。たしかにそれはあるかもしれませぬなぁ!」
いいのかそれで?
「にしても、この世界にもサムライっているんだな。しかも、女流剣士とはカッコいい!」
「…おや、『この世界にも』ということはあなたは落ち人でござるか?」
「ああ。俺だけな」
「そうでござったか。あっ、拙者としたことが名乗りもせず申し訳ありません!
拙者、ここより東方に二国先のジバルニア公国に属するラギリ村からやって参ったサムライ。名をマツリと申します」
右腕をまるで桜吹雪で有名な人のように肌蹴させ、模様が見えるように手の甲を上にしてこちらに見せてくる。
どっかのチンピラの「お控えなすって」にも似てるし、格好といい時代劇みたいだな。
ム〇☓!? 拠点:ラギリ村
ジョブ:???
……あれっ?おかしいな。
マツリと名乗った彼女の模様を見るとまるでノイズが走ったかのように上手く確認できない。
ククリユ・マツリ:女 拠点:ラギリ村
ジョブ:調合師
(……んっ?今度はちゃんと見える)
瞬きをして、もう一度見ると確認できた。
疲れてんのかな?まあ、気のせいだよな。
あまり気にしてもしょうがない。ちゃんと見えるんだから別に問題ないしな。
「(ヤノン、ジルバニア公国って知ってるか?)」
「(…名前ぐらいなら。大陸東部に広がり、着物などの文化が盛んな比較的温暖な気候の土地だとか。……ただ、ラギリ村というのは聞いたことがないですね)」
ふぅ~ん。そんなに田舎なのかな?
まあ、村が有名っていうのはあまりないか。
「俺はシィドだ。で、こっちのが…」
「ヤヤ・ヤノンといいますですよ。よろしくなのです」
「シィド殿にヤノン殿ですな。こちらこそよろしくお願い致します。
拙者に何か手伝えることがあれば遠慮なくお申し付けてくだされ。一宿一飯ならぬ二飯の礼に尽力致しますゆえ」
「……で、わざわざそんな遠い所から何をしに来たんだ?」
「拙者、実はある目的のために旅をしておるのでござる。それでたまたまここへ寄ったのだが、いやぁ~食料もなくなっており途方に暮れていたのでござるよ」
「(途方に暮れていたというか、行き倒れてたと思うのですが…)」
「(コラッ、ヤノン!聞こえたらどうする?)」
正論を呟いたヤノンの脇腹を小突いて黙らせる。
「……?」
幸いにも聞こえていなかったようで首を傾げているが、聞こえてて面倒なことになるのはごめんだ。
「そ、そういえばその刀って何のために持ってんだ?」
話題を逸らすように刀について触れてみる。
「……あぁ、やはり気になるのでござるか?」
「そりゃあ気になるって。俺のいたところで有名な武器だし。それに、この世界では刀なんて意味がないだろう?」
本格的な武器は基本儀礼用のはずだ。
「ふっふっふ、よかろう。ではお見せしてしんぜよう」
「…なっ、こ、これは!?」
キンッと抜き放った刀。しかし、その刀身にあったのは刃ではなく……、
「ね、ネギなのですよっ!?」
そう、ネギだった。
……ってなんでだよ!?
「いやいやいや、おかしいだろ!なんでネギが!?」
鍔部分までは完璧に刀なのにそこから先はネギって!
「ふははは、驚いたであろう。大抵の人間は刀身がネギと知った時にはそんな顔をしているのでござるよ」
うんうんと頷きながら俺たちの反応に満足しているようだ。
「…えっ?じゃあ、ギャグのためにこんなことをしてるのか?」
そんなバカな。
「いやいや、これはこれで完成形でござるよ?」
「で、でもそれはどう見てもネギなのですよ?」
「うむ。否定はしない!」
「「じゃあ、やっぱりギャグだろ(でしょ)!?」」
あまりにも堂々と返すので二人して盛大にツッコんでいた。




