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動き出すモノたち

 サブタイトル的に「者」よりも「モノ」の方がいろいろ今後の展開的にも含みをもたせるかなぁ~と思いまして「モノ」にしています。

 ――コンコンッ

「どうぞ~」

「失礼します。町長」

「やぁ、君か。シスタートリミア」

 扉を開けた先に姿を現したのはこの町に常駐している教会のシスターであるトリミア。

 たしか、司教だったかな。

 こんな朝早くから誰かと思ったら……。彼女が来たということは、あまりよくないことが起きてるってことなんだよな。

「……で、どうかした?まぁ、あまり聞きたい内容だとは思えないけどね」

「ご推察の通り、あまりよくない内容です。ですが、神からの啓示をお知らせするのが私の役目。これは諦めていただくしかありません」

 大変だなぁ霊術師も。


 ――霊術師。神職系統の変異ジョブの一つ。適性のない者として扱われがちだが、能力は低くても敬虔な信者が多いことから教会では重宝されることも多い。

 神職系統の特徴にボクたちのような結界スキルと治癒スキルがある。特に治癒スキルは神職系統にしか現れないことから教会が羽振りを利かせられる理由として挙げられる。

 ……そして、最大の特徴は『神との対話』。

 神職系統ではこの世界の神と対話することできる。

 そうして、神から授かった言葉を啓示として人々に知らせる。大体が、凶報なので教会を好ましく思わない者たちからは不吉の担い手と呼ばれる。


 そんな彼女がもたらす啓示、か。

 近年ではそこまで酷い内容ではなかった。だけど、大人しかった分一気に爆発するなんていうのは人間ボクたちの世界でもよくあること。ましてや世界を治める神の考え……。

 これは、腹を括った方がいいかもしれないな。

 こう見えて、ボクは結構勘が当たる方だしね。

「神はなんと?」

「その前に教会全体としての報告を行わさせていただきます」

 世界情勢の共有も教会の仕事の一つ。

 当然そこにはどこそこで飢餓が起きたなど、立場的に知っておかなければならない内容も含まれる。

 ま、この報告に至っては普段からたいした内容じゃないんだけど。


「――では、本題に入りたいと思います」

 さて、どんな情報が飛び出すか。教会とギルド間の諍いが起きた程度の内容だと嬉しいのだけど……。


「実は、最近になってから『金雲』の目撃情報が多発していたのをご存知ですか?」

 『金雲』。この世界(コメディカルティア)でも未だに謎の多い現象。

「町長もご存じの通り数ヵ月前にはここ、フィアードでも目撃され、それからあまり時間が経っていないにも関わらず国境付近でも目撃されました」

「……たしかに異常だね。今までは同じ地域で見られたのは最短で……」

「最短で2年です」

「そうだね」

 つまり、一気に短縮されたことになる。

 改めて期間を考えると何か異変が起きているとしか思えない。

「それで、神は何とおっしゃているのかな」

「……それが今回は明言を避けられているような曖昧な言葉でして」

 珍しいな。今までは具体的な対処法を教えるか自分たちで考えろと丸投げしていたのに。

 ……これは何かあるな。

 きっとシスターも同様に考えているのだろう。いや、その心中はボク以上に困惑しているに違いない。

 彼女……、いや、彼女に留まらず神職に就いている人間は神へ依存していると言い換えてもいいほどに傾倒している。

 だからこそ、彼女たちは神の言葉には絶対に従う。それなのに、今回の一件に関してのみ神は明確な回答を避けた。

「わかった。報告ありがとう。こちらも調査を続けておこう」

「よろしくお願いしますね。あなたが神によって授けられた子であらんことを」

「神の授けた子に祝福あらんことを」


「……ふぅ。しんど~」

 シスターが出て行ったのを確認し、積み上げられた書類の山を崩しながら体を伸ばす。

 どうも教会を相手にすると肩が凝っていけない。

 後で、秘書に怒られるだろうけど…、それはそれでいいや。

「さ・て・と、町でも面白い動きがあるのにそれに参加しない手はないよねぇ~」

 ふふふふ…。

 悪戯心を忍ばさせながらこっそりと執務室を抜け出し、町へ繰り出していった。








 ――フィアードではシィドとヤノンがパーティを組んだという噂が飛び交っていた。


「おい、聞いたか!?あの問題児たちがとうとう本物のパーティになったらしいぜ!」

「…あぁ、気を付けねえとな。いつ、巻き込まれてもいいように貴重品は別々に保管しておいた方がいいんじゃねえか?」

 商売人たちは店の安全の確保を。


「こわいわねぇ~、あの二人が組んで大丈夫かしら?」

「子供たちに悪い影響がないといいけど…」

「学校の周りに護衛を配置してもらえるように町長フィルちゃんに掛け合いましょう!」

 奥様方は子供の安全の確保を。


「さあさあ、賭け金を払ってみないかい!?」

「よーし、俺はひと月以内に問題を起こすに1万Mだ!」

「甘いわね!あたしは一週間以内に3万Mよ!」

 下世話な大人たちは賭けをしていた。





 そして、裏町では――

「頭、いよいよ動き出しましたね」

「おうともよ!」

 男は獰猛な笑みを浮かべて部下の持ってきた報せを嬉しそうに聞いていた。

「――ヤノン。あいつは元々この町の商人の娘だったな。両親の死後、冒険者になり流れで『貴婦人の話題』へと加入したはずだ。そいつが世話になっていた場所を離れるということはそれなりの事情があったということか、それとも」

「ケッ、あのクソアマ共だって俺たちと同じように弱者から毟り取ってたに違えねぇ!それが嫌気がさしたんだろうよ!」

 頭の声に手下たちがそうだそうだと囃し立てる。

 以前男に情報を探るように言われていたフードの男は紙の束を取り出し、テーブルに投げ出す。

「……頭、これが奴らの情報だ。集められるだけの情報を集めておいた」

「ガハハハッ、さすがだぜ!これだけ、集まってりゃあ動きやすい」

 ガタッと勢いよく立ち上がると、集まっていた仲間たちに向かって金をばら撒いていく。

「「「うおおおおおっ!」」」

「野郎ども、前祝いだっ!今日は好きなだけ飲んで騒げ!!こいつらを足掛かりにお高く止まったクソアマ共に戦争を仕掛けるぞぉ!」

「「「おおおおおっ!!」」」


「…………では、俺は今しばらく情報を集めてこよう」

「任せたぜ」

 酒場が賑わう中、長身のフードを被った男だけは混ざることなく闇へと消えていった。

「…見ていろよ、必ずその場所を取り戻してやるからなぁ」

 頭は背中で消えゆく気配を感じながら誰に言うでもなく野心を呟いた。

 その体からは不気味なほどに邪悪な気配を漂わせていた。 






「ふむふむ、問題児二人組がコンビを結成か。それで町がこんなに騒がしいんだね」

 それにしても、人目を避けるように行動する町長ボクってかっこよくない?

「……んっ?」

 そんなことを考えていたら、ボクみたいにフードを被ってる人がいたよ。世の中狭いなぁ……。

「……だけど、君たちはもっと慎重にことを進めるべきだったよ。少なくとも今はまだ行動を起こすべきじゃあなかった」

 なぁ~んて、ボクが手を出すわけじゃないけどね。

 まあ、彼女たちも身内には甘いけどそれ以外には厳しいからどっちみち遅かれ早かれ潰されていただろうけどね。

「この町でボクを欺いて行動できるなんて思わないことだね」


「それは、あなたもですよ町長!」

「へっ、うわぁっ!?」

 せ、せっかく格好つけたのに…!

「や、やぁ。秘書君。なんで君が?」

 首根っこを掴まれ宙ぶらりんの状態で相手である秘書ちゃんに声をかける。すると、メガネの奥からギロリと鋭い視線が…。

 止めて!その眼は止めて!痛い、本当に痛いからっ!

「町長が執務室にいるかどうかなんて勘でわかります!」

 勘でって化け物かよ。

「いやぁ~、町が騒がしかったから何事かなぁって思ってさ。ほら、視察ってやつだよ!」

「そういうのは私がやります!最近なんだかんだで書類が溜まってるんですからしっかり仕事をこなしていただかないと困ります」

「はは、は」

「笑って誤魔化してないでさっさと戻りますよ!」

「あぁ~、やだぁ~~~~!助けてぇ~~」

 抵抗虚しく、ずるずると引き摺られたよ。


 それから一週間、寝る間も惜しんで(与えてもらえず)働き詰めました。

 もう逃げださないから、助けてください。






 きょうのアルタフィル君かつどうにっし。

 おでかけしたけど、つかまりました(泣)


 →訂正

 町長の活動日誌(by秘書セルハ・ポニカ)

 町長が敵前逃亡(仕事放棄)をなさったので、強制回収させていただいただけです。これからは余計な手間をかけさせないでいただきたい。

 あと、そんな余裕があるのならこれからは仕事量を倍に増やさせていただきます。ただでさえ今は私が代行している仕事も多いのですから。

 ついでに遊びに使いそうなので町長の給金は減俸させていただきました。


 この後、フィアードには町長の泣き声が響き渡り彼は缶詰め状態から解放されてもさらに一週間執務室に閉じこもっていた。

 アフィの秘書初登場です。いたんですね~驚きました。

 ちなみに、設定集をご覧の方はお気づきかもしれませんがどこかで出た名前となっております。詳しくは設定集の方で!

 

 一応ここで問題児編の前半終了となり、番外編や設定集の更新を挟んでから後半に入りますのでそれまでお待ちください。番外編は本編とは直接関係のない人たちをメインとしています。

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