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アースナルド⑫これまでとは違う日々

思っていたよりも早く書けたので、一日早いですが投稿しておきます。

明日も投稿できたらしますので、お待ちください。

「やっと帰ってきたわね!」

「…ええ、そうですね」

 曖昧な返事になったが、俺も彼女同様に感慨に耽っていた。

 期間にして約ひと月。言葉にすれば簡単だが、こちらに来て初めてできた居場所を離れた期間と考えると胸に込み上げてくるものがあるのも事実。


 マリアージュさんがリリィさんの淹れた紅茶が飲みたいと早々に別れ、俺、ヤノンそしてシェナさんの3人は今後について話していた。

「シェナさんはこれからどうされるんですか?」

「私、ですか?」

 シェナさんは一緒に雇われていた男たちが捕まっている。アガサ商会の人たちも無関係とわかっているだろうが複雑だろう。

「私は…しばらくはこちらに残ります」

 やはり気まずいのか。

「あっ、といっても気まずいからとかじゃないですよ!?」

 暗い顔をしていたのか、両手をたてて否定される。ゴホンと咳払いをして更に続ける。

「実はベッドバイソンの親離れ、子離れを促すためと育て方の教授のためにしばらくこちらに滞在する予定になっていたんです」

 元々、ベッドバイソンの飼育法を教える人数も込みで雇われていたが彼女の組合は策略のせいで彼女しか送り出せなかった。

 さらに二人が捕まったので離れるわけにはいかないということらしい。

「なので、組合かアガサ商会から親を引き取りに来る人員が派遣されるまでは少なくともこの町に滞在します」

 よかったと思い、ホッと安堵する。

 滞在先も決まっているらしく、商会の人たちが宿を取ったらそこで合流する予定なのだそうだ。

 先ほどから一言も発しないヤノンは俺の背中でぐーすか暢気に寝息をたてている。

 マリアージュさん曰く、久しぶりに帰ってきて安心しただけだろうから寝かせておけということだったが……。


 マリアージュさんに代わってもらおうとするとニヤニヤしながら

『いやぁ~それは悪いわよ。それにやっと安心できる居場所が見つかったみたいだしね。……大事にするのよ』

 などと訳のわからないことを言っていたんだけど。


 結局シェナさんを待ち合わせ場所付近まで送り届ける間もヤノンが起きることはなかった。


「……んっ、ここ、は?」


 いつまで経っても起きないので、一旦家に連れ帰り、旅の間に使った分の消耗品の補充をしていると彼女の寝ぼけた声が聞こえてきた。

「よう寝坊助。ようやく起きたのか」

 作業を中断し、呆れながらも彼女に声をかける。

「おやおやシィドさん。おふぁよ~なのです」

 まったく何がおはようだか…。

「ったく、寝過ぎなんだよ」

 心配かけさせやがって。

 起きてくれてよかった。このまま起きないんじゃないかと本気で思ったぞ。

「ところで皆さんは?」

「とっくに解散したよ。お前が起きないと依頼の報告にもいけないから明日ギルドで落ち合うってことにしといたぞ」

「うっ……!ごめんなさいなのです」

 キツく言い過ぎたか?

 思いの外しょんぼりとした姿に罪悪感が…。


「ま、まあ気にするなよ」

 若干狼狽えているシィドさんから見えない位置でニヤッと口角がつり上がっていく。

 ふふん。女の弱った姿は効果覿面なのですよ。昔はこの手にお父さんがよく引っ掛かってお母さんに怒られてましたね~。

 ただ、この方法同姓には逆効果なので実質初成功です!

 一応、最終兵器として目薬を用意してたんですが、無駄になっちゃいましたか。

「だ、大丈夫です」

 ここは大人しく従うが吉です。

「そ、そうか?無理はするなよ?」


 ヤベえ、緊張してきた。

 これから話す内容は決めてたことだが、いざ言うとなるとな。


 おやおや?どうしたのでしょう。シィドさんの様子がおかしいのですよ?

「ううう~んん」

 悶えてる?

 苦渋の表情を浮かべてはいやいやと首を捻ってるです。

 いつも変ですけど、今日は特におかしいのですよぉ。


 よし!やっぱり言おう!

「ほわっ!?なんですか急に…?!さっきから気色悪いですよ?」

 失礼だなっ!?

「じ、実は……」

「実は…?」

「お前に言いたいことがあるんだ」


 ハッ!

 このあと起こること察知し、すぐさま

「娘はやらないのですよ!」

 キッパリと宣言する。

 ふぅ~、危なかったのです。

「…………へっ?む、娘?お前、子供がいたのか!?」

「いませんよ」

「はああああぁっ!?」

 おおっ!ナイスリアクションなのです。

「意味わかんない返ししてくんなよ~」

「いやぁすいません。なんかそんな空気かなって」

 マジかよ~と言いながらテーブルにぐだぁ~と上体を投げ出す。

 結構ダメージが大きかったようですね。


「これからも一緒にパーティ組まねえ?」


 …………はい?

 告げられた言葉に今度は私が固まってしまった。


「あ、あの今、何て?」

「だから、俺とパーティ組もうぜ」

 さらっと言うことじゃないですよーーー!

「……いや、真面目に言おうとしたら邪魔するし」

 普段の行いのせいですよ!?

「というかぶっちゃけ面倒くさくなった」

 オブラーーート!!オブラートはどこに行きやがりましたです!?

 本音にしても酷すぎでしょ!


 あれ?間違えた?

 目の前で百面相しつつ憤慨するヤノンを見て自らの失敗を悟ったが、……もう言っちまったしなぁというのが強い。

 しょうがない少し真面目路線に戻すか。


「冗談はさておき。真面目な話、これからもパーティを組んでほしい」

「なっ、なんで、なんで私なんかと…」

「私なんかって言うなよ。お前がいなけりゃ、俺はあの沼地で死んでたかもしれないんだ」

 本当に感謝してる。

「でもっ!私が初めから教えていれば…」

「たしかに、その場合、避けれたかもしれない」

 ――だけど

「だけど、もしもシェナさんが敵だったら大変なことになってたおそれもある」

 そう、今回は偶々上手くいっただけだ。

「俺は、人を疑えないお人好しだ。だから、そんな俺を支えてほしい」

「…本当にお人好しですね。だからってこんな問題だらけの私を誘いますか?」

「問題児はお互い様だろ?」

「……そこは否定するところですよ」

「そうかもな」

 やっと、いつもの明るい雰囲気に戻って来たか。

「シィドさんはお人好しなうえに失礼です。…けど、誘ってくれたのは素直に嬉しいのです」


 本当なら、すぐにでもこの話に飛びつきたい。だって、ずっと憧れていた本当の仲間なのだから…。

 ――でも、怖い。

 大切なモノを作れば、それがまた失われていくのではないか…。そんな考えが頭をよぎり、涙があふれてくる。

 私は溢れそうになる涙が溢れないように上を見上げ、信じられないモノが視界に飛び込んできた。

「――――!!」



 そこに見えたのは笑顔で見つめる両親の姿だった。瞬きの間にその姿は掻き消えて見えなくなったので、私の心が見せた幻だったのかもしれない。

 けど、『大丈夫だよ』そう背中をと押してくれている気がしたのです。


 両親に背中を押され、私はあの時から止まっていた時間をようやく動かし始める。

「シィドさん、これからもよろしくなのですよ!」

(私はこれから彼と歩いていきます!)

 天へと向かって報告すると、空が祝福してくれているように晴れ渡っている。


 ――満面の笑みでそう告げる彼女の目元には光るモノが見えていた。


 こうしてこの日、俺たちは正式にパーティを結成した。


 その日は遅くまで結成の祝いをし、翌日依頼達成報告とパーティ結成を『貴婦人の話題』と冒険者ギルドに報告に行った。

 クランの人たちはヤノンとの別れを惜しみながらも祝福を。

 特にリリィさん、ペルニカさん、マリアージュさん、ジュリさんの対応が凄まじかった。マリアージュさんに至ってはなかなか放してくれなかったので結構疲れちゃったぜ。

 ギルドではモニカさんをはじめとした人たちが祝福してくれた。

 ただ、皆から一様に憐閔を含んだ視線を向けられたのがとても印象に残る報告会になってしまった。






 ヤノン、かなり問題起こしてたな!?

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