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アースナルド⑩予期せぬ行動と予想通りの彼女

 ……さぁて、カッコつけて出てきたはいいが…どうしよう。

 思いっ切りぶん殴ってやったけど、こいつ硬すぎ。手が痺れちまってるよ。

「(……ヤノンさん、大丈夫ですかっ?)」

「(いえ、ちょっと動けそうにないのですよ)」

 チラッと横目で確認するとシェナさんがヤノンをウェルに乗っけて移動させようとしている。

 ちなみに、ウェルはベッドバイソンたちのところに居たみたいだが危険を察知したのか退屈になったのかわからないが俺たちが避難させられていたところに来ていた。

 その際、顔を舐めまくって起こされたから涎でベトベトだ。

 

 ……ていうか、これってどういう状況?

 ぶっちゃけ起きたら目の前にシェナさんがいてラッキーと思ったわけだが……。

 ヤノンのマントが掛けられているのにヤノンはいないし、慌ててシェナさんを起こしてウェルに案内されるままにここに来たんだよな。

 まあ、こいつが魔物だっていうのはわかるけど、……あの燃えてるモノは一体なんだ?

 ああっ、くそ!訳がわからん!


「ゴチャゴチャ考えても仕方ねえ…、ようはこいつを倒せばいいんだろ!」

 【炎刃】を発動させ、突っ込んでいく。

「うおおりゃああー!」

 ブンッと振るった刃が空を切る。

 なっ…!どこに行きやがった!

 キョロキョロと辺りを見渡すが、姿が見えない。

「……っ!シィドさん、上です!!」


「ぬおおおっ…!」

 シェナさんが声でその場を飛びのいたのだが…。

(……こいつ、空中で軌道を変えやがった!)

 どうやってかはわからないが、跳びかかる直前がまるで壁を蹴るように軌道を変えて襲って来た。そんなことができるとは思わず、戦慄してしまう。

 こいつは今まで戦ってきたどの魔物とも違う。

 

 本当に魔物なのか…!?

 

 感じる気配だけで言えばピラファ火山で遭遇した『獄炎鬼』が一番近い。

 ……無理かもな。

 なんかそう考えると明らかに勝てる要素がなくなったわ。

 

 ……だけど、そうは言ってもあいつらが逃げ切るぐらいの時間は稼がねえとな!なんたって、男の子ですからっ!

「かぁ~、男の意地を張るのも大変だぜ。…とりあえず、俺の上から退きやがれっ!」

 【フレア】を複数同時発動し、それを()向ける。

 倒れた瞬間にいくつか転がり出ていたヘベレケ玉に火の玉が引火し、俺と化け物を炎で包む。

(ぐあああっ、こん、じょうっ!!)

 怯んだところに腹を下から蹴り上げる。

 蹴り上げられた化け物は「…グゥッ!」と声を上げ僅かに上体を浮かす。

 

 いっつぅー!なんって硬さだよ…!

 生物を蹴ったはずなのにまるで鉄板みたいだ。

「…しかも、全然堪えてないとか。勘弁してくれよ~」

 ああ、もうイヤだな。

 しかし…なんで動かないんだ?

 手応えはなかった。なのに一切動こうとしない。こちらを見ているのに意識は別方向に向いている。

 そう感じてしまう。


 俺の直感はあながちまと間違いではなかったようだ。

 奴はプイッと視線を逸らすと大きく跳躍して俺たちの前から完全に姿を消したのだった。


「なんなんだよ……」

 あまりに呆気ない幕切れに呆然と消え去った方角を見つめることしかできなかった。





「えっ!?あいつ逃げちゃったんですか」

 隠れ家の洞窟に戻った俺の姿を見て驚いた二人に事の顛末を説明すると、ヤノンが信じられないといった表情を浮かべた。

 まあ、俺もまさか無事に帰って来れるなんて思いもしなかったしな。


「ほほう、話だけ聞くとこちらの敵意のなさを見抜いたようにも感じますね。まっ、魔物にそんな知性と理性があるわけないですけどね」

 そう言うとやははと笑い飛ばす。

 俺も確証なんてないし、妥当な結論かな。

 でも、今回はあいつが引いてくれたから助かったが次回はそうはいかねえだろうな。

 あいつとは再び見える。そんな確信をしてるんだよな。


「…お二人ともよろしいですか?」

 さっきまでのお茶らけた雰囲気から一変。神妙な雰囲気で語りかけてきた。

「なんだよ改まって」

「………?」

「実は話しておかなければならないことがあります」


「はぁっ!?あいつらがお前を馬車から放り出しただって!!」

 ヤノンから聞かされた真実は驚愕の内容だった。

「……はいなのです。すいません、言わなきゃとは思ってたんですが……」

 そうか。だからこいつやけにシェナさんを気にしてたのか!

 俺が疑わないことも承知で俺に危険が及ばないように……!

 水臭いにもほどがあんだろうがっ!そう叫びだしたいのをなんとか抑え込む。

「そ、そんな……」

 シェナさんも信じられない内容に愕然としているようだ。


 ってことは、マリアージュさんが危ない!


「…あっ、それは大丈夫だと思います。むしろ早く行きすぎると彼女の楽しみを奪うことになりかねませんから」

 ヤノンに告げられた言葉で脱力してしまった。

 なんじゃそりゃ。

 あの人、どんだけ戦闘狂なんだよ。だが、なんとなくマリアージュさんが楽しげに追い詰めている光景がありありと浮かんで納得してしまった。


「へくしっ!」

 あれ?風邪かしら?

 ホコリっぽいですものね。

「さてと、それじゃあそろそろ行動開始しましょう!」

  

 彼女を縛るモノはもはや存在しない。山賊たちもそれどころではないほどに混乱状態に陥っていた。

 その証拠に常に二人以上張り付いていた見張りすらいなくなっているのだから。


 ―――こうして『貴婦人の話題』で最も凶悪な人物が解き放たれた。

 ヤノンが魔物には知性と理性がないと言っていますが、正確には頭が良いのもいます。ただし、元々が悪意の塊、本能の集合体ですのでそれを押さえ付けるだけの理性が働かないだけです。

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