アースナルド⑨ヒーロー現る
ちょっと作者の都合的に更新が難しそうなので今日明日予約投稿にしてます。
(…な、なんなんですかっ!?)
突如として現れた異形の化け物。明らかに普通の魔物とは別の存在だと無意識に理解させられる。
その身体は皮と骨しかないような身体つきなのに、強靭な力を感じる。それに、あの舌。最初はイヴィリードの触手だと思った私の背中に針を刺した舌は軽く10メートルはありそうだった。そんなものをあの細い体にしまえるなんておかしいのですっ!
(に、逃げないと……!)
逃げようと頭は動くのに、体に全くと言っていいほど力が入らない。プチュという音と共に背中に刺さっていた針が抜き放たれる。肉を抉るように刺さっていたはずなのに痛みを感じない。
つまり、あの針からなにかしらの毒を流し込まれたのですか!?
だとしたら、マズいのです。
「ジュゾゾゾ…ゲジョッ!」
――ブチ、ブチチッ
完全に姿を現した化け物はイヴィリードと繋がっていた3本の管のような尾を引き抜いた。
その様子を見て、この生物が異様な存在であると確信する。
やはり、おかしいのです。
普通、魔物は倒されれば光を発しながら悪意を放出する。しかし、明らかに息絶えたはずのイヴィリードの体はいまだに燃え続けている。
こいつの仕業…?
でも、そんなことができる魔物なんて聞いたことないのですよっ!
魔物は今現在も全種類確認されているわけではない。そもそも、地域によって生態が変わってくるのだから全部把握することなんてできない。
かと言って、こんな異様な存在がいることがわかっていればもっと情報が飛び交っているはず…。だとすれば、考えられる可能性は2つ。
1つは、全くの新種であること。もう1つは突然変異であること。
一体全体何が起こっているのですか!?
『うぎゃああ!』
山賊のアジトの奥から悲鳴が聞こえてくる。
今、私たちは倉庫のような場所に押し込められている。私以外は猿轡も外されている。まあ、私が外されたのは目隠しだけだったが…。
これは男女差別と考えてもいいのかしら?
「…な、なにがあったんでしょうか?」
顔に青あざをつけた男性――おそらく料理人――がビクビクしながら倉庫の入り口を見つめている。
「まーいもうぐ、べふほ(だーいじょうぶ、ですよ)」
励まそうと声を出したが、猿轡のせいで上手く言葉にならない。まったく、捕まえたらあいつらの口を縫い付けてやろうかしら。
そんなことを考えているとドタバタと足音が近づいてくる。
『――おい、中の様子はどうなってやがるっ!?』
『……へっ!?い、異状ありやせんが…?』
『大人しいもんですよ。見てみますか?』
聞こえてきた声から察するとやって来たのは頭ではなさそうね。それでも見張りよりは遥かに上の存在であることもたしかね。
「……チッ!いいか、絶対にここを離れるんじゃねえぞ!……ったく、お頭もなんでこんな面倒な真似を」
覗き穴から中の様子を確認し、私たちが大人しく捕まっているのを見るとブツブツと不満を漏らしながらも立ち去っていったようだ。
(うんうん。上手くいってるわね)
工作が上手くいっているみたいで安心したわ。
本当ならこの人たちにも教えてあげたいけど、もしも中にスパイがいたらすべて無駄になっちゃうしなぁ…。
今、アジトで起こっているのは無差別な襲撃だろう。正確に言えば、山賊に対してのみ行われる攻撃だけど。
私は『貴婦人の話題』では最古参の一人。
リリィが皆を引っ張り、ペルニカが付いてこれない子たちを掬い上げる。
そして、私はそんな子たちの相談に乗ってあげる。何が悔しいのか、どうしたいのかを聞いて一緒に悩んで、怒って、笑うのが私の仕事。
そんな私の仕事で最も大事なのは油断しないこと。
私にはリリィのような大胆不敵さはないし、ペルニカのような臨機応変な対応もできない。だから、常に最悪の状況を考慮に入れて行動する。
そんな私は、油断しない女。いくつもの牙を仕込む獣。私が牙を剥いてから反応したってもう遅い。
私は常に武器を使えない状況に陥った時のことを考えている。
楽師系列のジョブは音を出せないと戦えない。だから楽器を使う。別に声でもいいのだけど、声だと使い手によって大きくバラつきが出てしまう。皆は魔物を使役できるなんて便利な能力だと言うけれど、裏返せば一人では戦えないのと同じ。
そんな私だからこそ声も武器も使えない状況は常に想定しておく必要がある。
私が最もよく使うスキル【召喚】は便利だけど、呼び出せない状況もある。
そこで、私が考えたのは呼び出さなければいいというもの。実はこの方法は他の魔物使いだと当たり前の方法。魔物使いは基本的に魔物を普段から連れて行動している。
だけど、魔物使いの数はそれほどまで多くないから私しか知らないっていう人がいてもおかしくはない。
今、アジトで暴れているのは私の使役する魔物の1つ。
この子はウルフちゃんたちと違って普段から力を注いでいるので、有事にすぐに動くことが出来る。
このまま交渉の時までにどれぐらい数を減らせるかで私の戦い方も変わって来るわね…。
「…ひぃっ!こ、来ないで下さい!」
なんとか声を振り絞るがそれで離れてくれるわけがない。じりじりと近づいてくる化け物。
その顔が私の顔に被さるような位置に…。
ポタポタと口の端から涎が滴り落ちてくる。
「……あ、あぁ、あああぁぁ」
これから起こることへの恐怖で失禁し、下半身が生温かい液体で濡れていく。
(たす、助けてください…!お父さん、お母さん………)
両親の最期の姿が頭に思い浮かんでくる。
そして、大切な仲間の姿も…。
『大丈夫だ!お前は死なせない!』
そう言ってくれた少年の姿が思い浮かび、思いっきり叫んでいた。
「―――シィドさん助けてぇーー!!」
「――任せろっ!!」
……へっ?
化け物の横っ面を赤い刃が薙ぎ払う。
そして、私を庇うように……シィドさんの姿があった。
「よう、大丈夫か?」
「……へっ、え、し、シィドさん…?」
「そうだよ。お前は寝てないんだから寝ぼけてんじゃねえよ」
へへへっと笑う横顔。
やっぱりそうだ。シィドさんだ。これは本物のシィドさんだ。
夢じゃないんですね…。
「さっきは助かったよ。ありがとうな」
そう言うと、シィドさんたちに掛けておいたマントを私に掛けてくれる。
「言っただろ?お前を死なせたりなんかしねえよ。……だから、あと少しだけ待っててくれ。すぐにあの化け物を片付けてやる!」
――そうして燃え盛る刃を敵に翳したあなたの背中は私の眼には本当のヒーローのように映っていたのですよ。
はい、ようやく主人公らしいところを見せましたね。タイトルを「新たな脅威」か「ヒーロー現る」にするかで迷いました。
ちなみにこの化け物はキーマンではありませんがある意味重要な役柄です。見た目的には映画のエイリアンが犬のように四つん這いになっている姿が作者のイメージです。大きさは大型犬ぐらいしかありません。




