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アースナルド⑦甘い魅惑の罠

本日2話目です。

「――はぁっ、はぁっ」

 煙ヘビが映した光景の中に以前見たモノを発見し、全力でシィドさんたちのもとへと疾走していた。まだ治りきっていないこともあり全身に酷い痛みが走り、地面がぬかるんでいるために転びそうになっていたが、そんなことを気にしている場合ではないのです。

「シィドさん、早まっちゃ駄目なのです!それに触れてはダメなのですよ!」

 シィドさんたちが向かっている場所。そこにあるモノ。それは罠なのです!

(こんなことなら……!)

 シェナさんを信じられなかったばかりに彼女に情報を与えることを拒んでしまった。それが原因となってようやく信じられるかもしれない仲間を喪おうとしていた。

 後悔と自責の念が押し寄せて、足を止めそうになってしまう。

 しかし、私にそんな資格は……公開している場合ではないのです。まだ無事ならば私が助けないといけないのですから!

「仲間を見捨てるようなら、仲間だと思う資格すらないのですよ!」

 そうですよ。本当に仲間だと思えるのなら、最期まで仲間のために動かなければならないのです!

 


 ヤノンが必死に向かって来ていることなど知らない俺たちは先ほど煙ヘビを通して発見した木の実まで辿り着いたところだった。

「……これだこれ。それにしても見たことない変わった果物だな」

 発見したのは薄桃色で卵大の実がひと房に4つほどなっていた。結構大量にあるし、水分も結構含んでそうだからこれならしばらくは持ちそうだな。

 【目利き】を発動させ、食べられるかどうかを確認しておく。

「シェナさん、これなんて名前かわかります?……シェナさん?」

 声をかけても反応がないので振り返って確認すると、シェナさんはボーっと木の実を凝視していた。その瞳はどこか虚ろで心ここに非ずといった雰囲気だった。

「シェナさん?シェナさんってば!」

「…あ、えっ、何?どうかしましたか?」

 おかしいと思い何度も声をかけるとようやく反応する。

「どうかしたじゃありませんよ。どうしたんです?急にボーっとして…」

「……すいません。疲れが出たのかもしれません」

 そうなのか?

 たしかに歩きにくい場所ではあるが、それほど疲れを見せてはいなかったんだけど…。

 疑問に思いながらもそんなもんだと思い、木の実をひと房千切ってシェナさんに渡す。

「だったら、お先にどうぞ。ただし、種は出してくださいね。どうも種に何かしらの毒素が含まれているようなので」

 差し出した木の実を奪うように取ったシェナさんはそのまま口に運んでいく。

「……?」

 やはりどこかおかしいと思い気がする。

 まぁ、食ってから考えればいいか。

 そう結論付け、念のためにしておいた口布を外す。

 すると、強烈な匂いが鼻を刺激する。それと同時にぐぎゅるる~と腹がなり、我慢が出来なくなってくる。

(何かおかしい…!?)

「……シィド、さん」

「……ッ!?」

 振り返ると、頬を紅潮させ呼吸を乱したシェナさんがしだれかかってきた。

「えっ、ちょっ、しぇ、シェナしゃん??」

 あ、あざーす!!……ってそんな場合じゃねえ!!

 なんなんだこれは、スキルでは食べれるとなっていたのにまさかスキルを狂わせる効果でもあったのか?

「………ぐむっ!」

 シェナさんを押し返そうとしたが、俺が動くよりも早くシェナさんが動く。先ほどの木の実を口に含み、強引に俺の口の中に押し込んできた。

 彼女の舌が強引に口内蹂躙していく。辺りには舌の絡み合うくちゅくちゅという艶めかしい音が響く。

 キスをしているせいなのかその場の雰囲気のせいかはわからないが、頭が朦朧としてくる。そして、とうとう押し込まれた果実がゴクッと喉を通っていく。

 

 ――ドクンッ!


 呑み込んだ途端、心臓の鼓動が跳ね上がり動悸が激しくなる。

 体温も上昇し、頭がさらにクラクラしてくる。

 そして、何より――。

 

「しぇ、シェナさん」

 先ほどまでなんともなかったシェナさんとの距離。触れているのにもどかしいほど遠く感じる。彼女を見ると愛おしくて堪らなくなる…!

 シェナさんも同様のようで俺たちはゆっくりと距離を縮めていく。

 それにより元々近かった位置はまるで重なり合うようになる。

 頭の中では先ほどよりも大きな警鐘が鳴り響いているが、体を止められない。今すぐにシェナさんが欲しい!

 欲求に耐え切れず、彼女を押し倒す。

 二人の体が重なると体と心が快楽を伴い沼の中へと沈んでいく。

 

 ――その時、手首に何かが巻き付いた。




「間に合ったのですっ!」

 到着した時には二人はすでに体の半分以上が沼に沈み込んでいました。

 慌ててロープを手首に巻きつけると、【軽々】を発動させて強引に引き寄せる。

 二人の体が宙を舞い、こちらに来る。しかし、途中でピタリと止まってしまう。

 見ると体に蔦のようなモノが絡み付いて引っ張っている。私も奪われまいと力を込めるが、それよりも強い力で徐々に二人の体が元の位置へと戻っていく。


(とうとう姿を現しやがったのです!)


 現れたのは植物系の魔物イヴィリード。

 多くの触手を持つこの魔物は湿った場所を好むこの沼地の主…!

 両親が死に、この地を訪れた際にあいつのことは聞かされてたのですよ。

 

 イヴィリード(あいつ)が使う手段は単純明快。

 私は仇を睨むように木の実を見る。

 『アムアム』それがあの果実の名前。アムアムには一種の媚薬効果がある。食べてから少しの間、体が興奮状態になってしまう。しかも、強烈な匂いで食べずにはいられないほどの誘惑を放つ。

 だからこそ、イヴィリードはアムアムの周りに生息する。

 アムアムの匂いに誘き寄せられた獲物が興奮状態にある間に、幻覚作用のある香りを放ちあらかじめ掘っておいた沼に落とす。落ちても興奮と幻覚によって意識がはっきりしない獲物はそのまま沼で死に徐々に溶けて養分を出す。それを吸い取って生きている。

 しかも、普段はアムアムの木の近くの地面に擬態しているのでめったに姿を現さない。

 アムアムの実さえその場で食べなければあまり襲われることはないですが…、それもアムアムの魅力に抗えないと意味がないのです。

 

 私が駆け付けた時にまだ完全に埋まってなかったということはどちらかがまだ口にしてそんなに時間が経ってなかったということです。

 おそらくシィドさんがしていた口布によって匂いが遮断されていたのでしょう。だからこそ無事だった。

 それでもあと一歩遅かったら…。そう思うとやり切れないのです。

「さっさとシィドさんたちを放しなさいです!」

 ヘベレケ玉をシィドさんたちを掴んでいる触手へと投げつける。こいつ本体は鼻がないので効きませんが、それはかなりのアルコール分を含んでいるのですよ。

「頼むですよ。今回はお遊びしている場合ではないのですから…!」

 想いに応えるようにクラッカーの先端から爆炎が放たれる。


「グギョオオオオーーー!!!」


「やったのです!」

 触手に燃え移った炎に呻き声を上げ、のた打ち回ると二人を掴んでいた触手を切り落とした。それを見計らい、別の触手が伸びてくる前に思いっきり二人を引き寄せる。

「うおりゃああーー!!」

 落下しかけていた二人の体が再び放物線を描いて私の下へ飛び込んでくる。

 ガシッと受け止めるとすぐさま踵を返して逃げの一手を取るのですよ!二人を肩に担いだ私はすたこらさっさと駆け出しました。

 

 イヴィリードは普段は罠にかかった獲物しか捕まえようとしない。しかし、一度手を付けた獲物に対しては捕まえるまで執拗に追いかけてくる性質を持っている。

 

「二人は絶対に渡しません!私の仲間を…大切な人をこれ以上ここでは奪わせないのです!」

 この時、私は決心したのです。

 この忌々しい土地に立ち向かうその決意を…! 

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