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アースナルド①新たな冒険

「こんにちはー」

「ちはーなのですよ」

 パーティ結成の翌日。俺たちは臨時パーティ申請と簡単な依頼を受けるため冒険者ギルドを訪れていた。

「…いらっしゃいませ。珍しい組み合わせですね」

「いやぁ~、なんか急にこいつとパーティ組むことになりましてね。その申請に来ました」

「――ついでに簡単な依頼ありませんか?連携を確認したいので魔物討伐系がいいのですけど」

 ぐいっと俺を押しのけてヤノンが依頼項目を漁っていく。少しは大人しくしろよ。俺とモニカさんの癒しの時間を奪うんじゃない!

 俺たちが無言で攻防を繰り広げる傍ら、ギルド内部ではひそひそと話し合う集団がちらほらいた。


「おいおい、聞いたか今の。新入りとヤノンがコンビを組むってよ」

「面倒なことにならなきゃいいがな~。問題児が揃って行動するなんて嫌な予感しかしねえよ」

「…まっ、実害がなきゃいいんじゃね?」

「それもそうか!よっし厄払いで今日は飲むか!」

「おうともよ!」


「……くっそ~。あのガキ、またかわい子ちゃんと一緒に居やがる!」

「モニカちゃ~ん、そんなガキより俺たちの相手をしておくれよ~」

「いやいや、ヤノンのあの未成熟な体もたまらんなぁ」


 大半は、俺たちを口実に酒を飲む冒険者、モニカさんに好意を寄せる獣どもの嫉妬、あとは問題を起こさないかと心配する視線だった。

 しかし、一組だけ別の視線を向けている者たちがいた。


 それは以前裏町の酒場にいた連中だった。

「……ほう、たしかあの小娘はクソアマ共の新入りだったよな?」

「へい、そのはずで。しかし、聞いた話ではあいつは他の奴らから煙たがられているとか」

「……それは、使えるかもな」

 中心に座っていた一際大柄な男はニヤッとあくどい笑みを浮かべ一緒にいた男の一人に何やら囁いた。

 囁かれた男はこそこそと誰の眼にも留まらないように注意してギルドを後にした。

「さて、これでオレ様の計画もさらに進むはずだ」

 

「……あっ、これなんてどうです?」

 どれどれ。

 ヤノンが見せてきたのは隣町からベッドバイソンを5頭運搬してくるという内容だった。

「……ベッドバイソンって何だ?」

「あれっ?知りません?」

「ヤノンちゃん、シィドさんはまだフィアードから外に出たことはないから…」

 モニカさんに言われて納得のしたのかヤノンはポンと手を打っていた。

 まあ、俺はそんなことよりもこいつがヤノンちゃんと呼ばれていることの方が気になっていたわけだが。

 べ、別に羨ましいわけじゃないんだからなっ!勘違いするなよ。

「…シィドさん、なんか気持ち悪いですよ?」

「は、はあっ!意味わかんねえしっ、いいからさっさと説明しろっ!」

(…こいつ妙に勘が鋭いところあるな)


「ではでは、ヤノンちゃんの簡単解説講座なのですよ!」

 どこからか取り出したボードに地図のようなものを描いていく。

「いいですか?ここが私たちのいるフィアードですよ」

 ヤノンが指したのは、地図の左寄りの山や森のある地点。

 なるほど、そこがフィアードなわけか。

 よくよく考えればここに来てから地図を見た事ってなかったな。大体が目で見える範囲にしか行かないしな。

「当然、フィアードは町なのでどこかしこの国に所属しているわけです。まあ、今回は関係ないのでさらっと流します」

 そう言うとフィアードを指していたのを右斜め上に移動させ、そこをトントンと叩いて見せる。

 位置的にはピラファ火山を通り過ぎたあたりか。

「で、今回行くのはここアースナルドです。特徴としてはフィアードよりも王都に近い分温暖な気候ですね。薄着で行けるので荷物が少なくて済みます」

「……ヤノンちゃん。その情報は今はいいんじゃない?」

「おっと、そうですか?初めての場所なので事前情報は多くてもいいと思ったのですが」

「やーい、怒られてやんの!」

「シィドさんは黙っててください。まったく初めての外出のために私が苦心してあげてるんですから労うべきところですよ?」

「そうですよ。ヤノンちゃんはこれでも真剣なんですから」

「…うっ、すいません」

 くっそ!モニカさんに叱られた。後で覚えてろよ!

「さて、話が横道に逸れましたが続けますね」

 初めに脱線しかかった奴がよく言うぜ。

「先ほども言ったようにアースナルドは温暖な気候なので農業が盛んなんです。とくに家畜を育てることに関してはこの辺りでは一番盛んと言っても過言ではありません。

 また、ここよりも西側だとほとんどが王都に向かう際にこちらを通るので交易の拠点としても賑わっています」

「いや、待ってくれおかしくないか?」

 説明に疑問を抱き、待ったを掛ける。

「おやっ?どうかしましたか?」

「ああ。別にそこを通らなくてもそっち側に行くことはできるだろう?」

 俺はヤノンが示したルートとは反対側を通ってピラファ火山を迂回するルートをなぞっていく。

「ほらな?このルートじゃだめなのか?」

「そのルートは駄目なのですよ」

「はっ?なんでだよ?別にいけるだろ?」

「それはですね――」

「――ヤノンちゃんそこは私が説明するわ」

 説明しようとしたヤノンを遮りモニカさんが俺の示したルートに何やら描き加えていく。

「………これは、池ですか?それとも、沼?」

 描き加えられたのは青い円だった。

「はい。沼になります」

 地図では1つの円だったが、実際には沼地が点々としており徒歩では進みにくく、馬車は車輪を取られるということで移動が困難なのだという。

 沼自体は浅めなのでそれほど危険な魔物はいないそうだが、時折沈んでいくほどの深い沼もあるらしい。

 …道理で周辺に町とかがないわけだ。

「つまり、そこは交通の便が悪いというわけなのですよ。まったく厄介な沼です!」

 ヤノンは憤慨したようにぷんすかしている。何か嫌な思い出でもあるのだろうか?

「で、ベッドバイソンと言うのは移動用の動物ですね。簡単に言えば移動用テントの代わりでしょうか。その子たちを連れてくるということはその子たちが歩ける場所を通らねばなりません。だからこのルートは使えないのですよ」

「なるほど。で、ベッドバイソンって結局のところどんな生き物なんだ?魔物ではなさそうだが、連れてくるってことを考えると面倒なのはごめんだぜ」

「その点は心配いりません。ベッドバイソンは比較的おとなしい生き物ですので。見た目的には短足長毛の牛ですよ。むしろ普通のよりも大きくないので可愛いのではないでしょうか」

 本当か?どうしてもこいつが言うといい加減な気がしてしまう。

 そんな俺の考えを察したのかモニカさんに視線をやると大丈夫ですよと頷いているので間違いないようだ。

「ベッドバイソンとは逆温体毛という変わった体毛を持っています。逆温体毛とは外気とは正反対の温度を保つ毛皮のことです。暑いときには体毛が青く、逆に寒いときには赤くなります」

「そうそう、しかも背中に潜れるほどのスペースがあるのでそこに潜って移動すると快適ということなので貴族なども利用する由緒正しい動物なのです」

 へぇ~、変わった生き物がいるもんだ。

「今回の依頼は本来だったらあちら(アースナルド)側が冒険者を用意する予定だったのですが、王都からの使節団の訪問が急に決まったそうで」

「……ああ、つまり業者の護衛に回す人員が足りなくなったというわけですか」

「…まあ簡単に言ってしまうとそういうわけです」

「だけど、その分給金はいいのですよ!」

 苦笑したモニカさんに代わってヤノンが勢いよく依頼書を突き出してくる。

 なんでこいつはいつもこんなに顔の近くに出してくるんだろう?

 依頼書を引っ手繰って内容を確認すると、


・フィアード冒険者ギルド発行

依頼内容:アースナルドからフィアードまでのベッドバイソン5頭と移送業者の護衛

(注意事項)

 ベッドバイソンおよび業者を傷つけないこと。

備考…食事付き・討伐した魔物の素材は定価で買い取ります!

報酬…50万M・ベッドバイソンの毛皮で編んだ衣類

依頼主アガサ商会


 そう記されていた。

 ふむ、距離の割に報酬はちょっと少なめ…かな?でも、魔物素材を買い取ってくれるってあるしな。

 問題は依頼主か。

 『アガサ商会』。信頼できるところなんだろうな?

「そこは、大丈夫ですよ。アガサ商会さんからは何度も依頼を受けているので身元はしっかりしています。法外な慰謝料なども要求してこない極めて善良な商会です」

 モニカさんが言うなら間違いないな。

「そうですよ!それに私が付いてるんですから大船に乗ったつもりでいてください!」

「…あっ、あはは」

 むしろこっちの方が心配か。見ろ!モニカさんが苦笑しちまってるじゃねえか!

 大船?進んで壊していくような船に乗って誰が安心するんだ。

 依頼まであと少し時間がありそうだけど、アースナルドがスタート地点なら早めに着いておく方が問題は少ないか。食事付きってことはあまり用意するものないはずだし、コンビネーションは道すがら確認するかね。

「じゃあ、この依頼を受けます。ヤノン、早速アースナルドに向かう準備をするぞ」

「あいあいさーなのです!」

「では、いってらっしゃい。()()()()と気を付けてくださいね」

 手を振って送り出してくれたモニカさんの若干含んだ笑顔に背筋がゾクッとするのを感じ、足早にギルドを後にした。

 モニカさん、笑顔の中に何やら黒いモノが見えた気がしたんですけど…?

隣町なのに結構距離があると思われるかもしれませんが、これにはちゃんと理由があります。

そもそも国とは【土地持ち】の上位【キング】というジョブが【土地持ち】から彼らの治める地域を預かって作り上げられた場所です。そのため【土地持ち】たちの治める範囲は小さくてもそれら全てを含むように出来上がります。

彼ら一人一人が収める範囲はそんなに広くありませんし、治める土地を近づける必要もなかったわけです。そして町と町の間は昔ながらの領地でこの町はここまでと決められています。

つまり、地図上のフィアードと実際の町としてのフィアードでは範囲が異なると思っていただければ…。

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