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少し変わった世界事情

「あぁっ!そうだ、質問にも答えないとね!」

 そういや、質問をしてたのを忘れてたな。まぁ、あまりいい答えが返ってきそうにもないが……。

「さて、質問は『気配を感じさせずにどうやっていきなり現れたか?』だったよね。まぁ、この質問を答えるためにはさらに深刻な質問が予想されるわけだけど、それは良しとしよう。まず、ボクがどうやって君を見つけたかを知りたくないかい?」

 たしかにそれは、知っておきたいかも。迎えに来たって言ってたんだから、あの神からお告げ?みたいなものがあったのかもしれないが……。

 んっ?それだと、現れたのも神が送ったからと言えるのか?

「ありゃりゃ、混乱させちゃったかな?」

「…いや、すまない。進めてくれ」

 そうだよ。悩んでたってどうせ聞くことだ。だったら、自発的な受動的かはこの際どうでもいいということにしておこう。

 俺の態度を見て、まだ若干納得いっていなさそうだなと思いつつも、この男は話を進めてくれた。おそらく、こちらの世界に来たばかりの人間っていうのは基本的にこんな風なんだろうな。

「…では、第一に君を見つけた方法だけど、それは簡単」

 そう言って、空を指差した。

 俺もそれに従うように空を見上げる。ところどころ雲があるが、青空の見えるいい天気だと言える。

「……空が何か?」

「実はね、君のように異世界から来た人間を【落ち人】と呼ぶのにはわけがあって、ボクらの中では君たちは天上から落ちてきた人と言う考えなんだよ。そして、【落ち人】が落ちる際には前触れがある。落ちる周囲の空から地上へ向かって光の柱が下りるのさ。だから、それを見たら、迎えに行く。そういう決まりがあるんだよ」

「へぇ~。そうなのか。じゃあ、お前が来た場所はここからそんなに離れてないのか?」

「ボクのことは、アフィかフィルと呼んでくれたまえ!」

「……アルタフィル」

「うっわぁ~、そう来るかぁ!!」

 俺が名前を言うと、心底悔しそうに地面に膝を着いた。っていうか、マジで悔しいらしく、地面をバンバンと叩き始めた。どんだけ呼ばせたかったんだ?

「お、おい…?だ、大丈夫か?」

 声をかけると、スックと立ち上がったが、その顔は何か思いつめたようにも見える。何がこいつをここまで追い込むんだ?

「いいかい?君はまだこの世界に来たばかりで名前も思い出せない状態だろうけど、この世界の人間にとって名前は重要なモノなんだ。だから、呼んでほしい呼び方でないと結構ショックなんだよ?」

 そういうもんか?っと思わないでもないが、面倒臭いのでアフィと呼ぶことにした。その後は、普通に絡んでくるのでうっとうしかったが、先ほどよりはマシなので突っ込まないことにした。


 こいつ、いやアフィの話を総合すると、一瞬で現れたのはアフィの履いている靴が原因だということが分かった。アフィの履いている靴は【風呼びの靴】と呼ばれるもので、魔力を集めることで長距離を一気に移動できるようにするものらしい。実際に、見たわけではないからあくまで、らしいだ。

 しかし、それを聞いて当然気になったのは【魔力】だ。なんと、この世界には魔力が存在している。

「君が以前いたのはどういう世界か知らないけど、大抵は人間の知恵で開発可能な技術的なモノが発達した世界のはずなんだ。そして、この世界のように人間の体内に眠る力を解放できる世界は少しだけ上位次元の世界にあたる」

 アフィがそう説明してくれた。実は、アフィもこのことは神が語っていたと聞いた程度なので大して詳しくないらしい。神官のように神に使える人物ならばもう少し詳しく知っているそうだ。

 他にも、意志だけで行動出来たり、精神だけの世界もあるそうだが、それはかなりの高次元世界にあたるそうだ。話を聞いて、俺はむしろそんな世界はお断りだと思ったが。


「つまり、この世界には魔法があるってことでいいのか?」

 魔法。考えるだけでちょっとワクワクしてくる。

「ん~、ちょっと違うんだよね。説明は難しいから実際に見てもらおうか。“ライト”」

 アフィが手をかざし、呪文を唱えると空中に光の球が浮かび上がった。

「おぉ!まさしく、魔法じゃねえか!!」

「…落ち着いてくれよ。話はこれからなんだ」

 ちょっと、興奮してしまった俺を宥めるようにアフィが声をかけるが、俺の耳には入ってこない。まだ忘れていない知識として以前いた世界のことがあるが、そこにはこんな力がなかったのは確かに覚えてる。こんな力が俺にも使えるのだとしたら興奮しないわけがなかった。

 息を整え、いざ「“ライト”!!」と呪文を唱えてみた。

「…………」

「…………」

 ……………あれっ?

 しかし、全く何も起こらない。しんとした空気の中、アフィが堪えきれなくなったように「……ぷっ!」と笑いを零したのでジト目を向けると、言わんこっちゃないとでも言わんばかりに肩を竦めて見せた。

「……どういうことだ?」

 若干の苛立ちを込めて尋ねてみた。

「だから、落ち着いてっていっただろう?ここは、君たちの世界よりも魔力に溢れている世界ではあるし、君も当然魔法を使えるようにはなる。けれど、その前に知っておいてほしいこともあるんだ」

 要するに、俺が先走り過ぎたのだろう。確かに、興奮して我を忘れていたのは事実だ。気恥ずかしく思いながらも話を聞くことにした。


 それからは黙って聞き役に徹した。

 まず、俺が魔法を使えない理由は単純で、この世界に来たばかりである俺は世界的にはまだ不安定な存在であり、こちらの世界の住人とも向こうの世界の住人とも認められていないまさしく狭間の世界を漂っている存在なのだそうだ。この状態は、ひとまず町に行けば解消されるそうなので大した問題ではないだろう。

 また、この世界の法則のようなものを教えてもらった。この世界では、生活に役立つレベルの魔法以外は使用できないらしい。その理由が、威力の強い魔法は争いを呼ぶためだという。なんでも、この世界の神は自称だが同族殺しの神様だという。かつてこの世界にも多くの神々がいたが、それらを滅ぼし唯一神となったのだと。そんな神が、何を思ったか同族間の殺し合いを全面禁止にしているので俺たち人間は高位力の魔法は使えない。さらには、人殺しの可能な明らかに武器となりうるものも生み出しにくいのだという。

 これを聞いたときは、さすがに変だとは思ったが、争う必要がないのならばそういうものなのかとも思ってしまった。

 この世界のことやアフィ自身の他愛のない話をしながら町を目指して三十分も歩くと町が見えてきた。意外と遠いなと思わないでもなかったが、この世界の広さなどは知らないのでこんなものか、と思うことにした。


 ――そして、あと少しで町に入れるという段になって、この世界で初めて体験する恐怖に出会った。

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