はじめの三歩
お待たせしました。問題児編スタートです。
「……ふむ、大体5ってところか」
ゲブロック討伐から早2か月。新居も完成して仮住まいから移った俺は岩壁にポッカリ開いた穴を見つめていた。
今はゲブロックと戦った時に使った“炎角突き”の練習をしている。あの時は忙しく気にしなかったが、この技を使うとまるで分身したかのように一撃なのに多方向から攻撃が出来るのだ。
ペルニカさんに聞いたところ、スキルを使って自分で考えた技の中にはそういう風に特殊効果が出ることがあると教えてもらった。
それならばどういう効果を持っているのかは練習してみないとわからないというわけだ。
その結果、平均で5体に分身する攻撃になることと対象は1つしか絞れないことが判明している。しかも、対象の大きさも重要らしく、木に放とうとしたが細すぎて駄目だった。そういうこともあり1対1ならば使えるだろうが、複数の魔物に襲われた際などは使えない、使いにくい技。それが正直な感想だ。
「……まぁ、これは必殺技みたいなもんだし、しょうがないか」
必殺技は1対1で決めてこそ意味がある。それこそがロマンだろ。
今日は他にも試すことがあるので早々に気持ちを切り替える。
新居が完成したということで試してみたいものもあるのだ。防臭加工が施された新居のおかげで誰に気兼ねすることなくピリカラシシ団子の開発に取り組むことが出来、激辛味の開発に成功した。
なかなか思ったような味にならず苦労させられたが、それもまた充実感をもたらしていた。
しかし、新商品の開発は思うように進んでいない。
カラシシの実を使って何か作れないかと考えてみたが、どうしても既製品の方が多くなってしまう。
元の世界で料理をしたことなんてほとんどないのだから、創作料理を作れるはずもないのだが…。そういうわけで、この世界のレシピ本や料理本を読むとどうしてもそちらに偏りがちになる。
それでは意味がない。
(やっぱ、オリジナルの方が面白いもんなぁ)
と思って、日々創作活動を繰り広げていたわけだが、結局思いつかなかったので気分転換も兼ねて料理以外のモノを試すことにした。
「……さて、どこかに魔物はいないかなっと」
俺は、フィアードからさほど離れていない森の中を散策しながら獲物(実験台)を探していた。
今日試すのは以前使っていたカラシシの花を粉末状にしたもの。
以前の段階で直接振り掛ければ怯ませることができるのは確認済みだが、粉をいちいち手に持って振り掛けるのは効率が悪い。それに、粉末を投げるとどうしても風の影響を受けてしまう。
実はゲブロックの時に使ってみたが、立っていた位置が風下だったことで粉が俺たちにかかり、激怒した二人にこっぴどく叱られていた。
そこで考えたのは粉を丸めたもの。忍者が使う兵糧丸に近いモノだろう。
それよりも遥かに粉っぽいがな。というか粉だが。
兵糧丸よりは薬の丸薬の方が近いか?
「試作品として作ったはいいが、これがどれだけ使えるか。まあ、あまり使えないだろうな」
……いた!
見つけたのはピィピヨという鳥型の魔物。ヒヨコのような胴体にダチョウのような脚という見事にアンバランスな体形をしている。脚以外に注意すべきところはない。
こいつなら試すのにはもってこいだろう。
普段なら後ろから仕留めるのだが、今回はあえて音を立てながら近づいていく。
「ピッ!」
こちらに気付いたようなので口を狙って投げつけてみたが、簡単に弾かれてしまう。
(やっぱり駄目か)
得体のしれないモノを投げつけられた怒りで襲いかかって来たピィピヨを冷静に処理しながら予想通りとはいえ結果に落胆してしまう。。
この結果はやる前から予想がついていたことだ。そもそもこれは粉を固めたモノだが、予想以上に固まり過ぎて上手く当てないと弾かれるだけに終わって粉が舞うことはない。粉が敵にかからなければ石を投げるのと変わらない。だからこそ口を狙ったのだが、動いている相手の口に入れるのはなかなか難しい。
口に入れば、辛さで悶絶することは間違いないがそのためには技量が足らなさ過ぎた。
試作品1号は完全に失敗作だな。
その後も魔物を見つけては水風船のようにしたものや試作品1号を大きくしたものなど様々な試作品を試していくが、そのどれもが失敗に終わった。
「だー、もうっ!なんっなんだよぉ!!」
あまりの失敗に俺はとうとうキレた。
「くっそー、なんで上手くいかないんだ?」
これが出来れば魔物に遭遇した時に楽になるはずなんだけどな。
悩んでいてもしょうがないということはわかっているのだが、どうしてもそんな思いが頭をよぎる。
――じゃら
「へっ、わ、わわあああーー!!」
歩きながら考え事をしていたが、足に何かが絡まったと思うと勢いよく引っ張り上げられ、宙づりにされていた。
「な、なんだっ?何が起きたんだ」
「キシシシィつ~かまえた」
困惑する俺の耳にそんな声が聞こえてくる。
「だ、誰だっ!?どこにいるっ?」
慌てて周囲を見渡すもやはり姿は見えない。
「ここですよ。ここ!」
声の聞こえた方角に目をやるが、やはり見当たらない。
一体どこに…。
声のした木のあたりを凝視していると、風景がゆらめきバッと何かが捲られるように動き、先ほどまで何もなかったはずの枝の上に人が立っていた。
現れたのは髑髏のマスクを被った怪しい人物だった。
問題児編ではシィドが放浪をするために必要な仲間が登場し、彼に放浪を決意させます。キーパーソンは結構後に出てくる予定ですがそれまでお待ちください。




