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ピラファ火山④立ちはだかる現実

「「「 ……はぁ 」」」 

 まいったね、どうも…。

 ため息しか出てこない。気合を入れなきゃいけない場面でこんな状況とは、本当に情けない。

 包丁が駄目になった後もしばらく戦い続けたのだが、結局俺たちは撤退した。いや、撤退なんて生易しいものじゃない。敗走したんだ。脇目も振らず、みっともなく逃げ出した。

(……そういえば)

 この世界に来てから逃げたことは何度かあるけど、敗けたことはなかったな。個人では勝てなくても誰かと一緒にいて敗けたことはなかった。 

 だから、こんなにモヤモヤするんだ。

 悔しくないかと言われれば嘘になる。けど、悔しさよりも惨めさが溢れ出る。

(駄目だな)

 後ろ向きなことを考えていると、暗い気持ちになって悪いことばかりが頭の中に蘇る。



 ――あの時、なにかできることはなかったのか?



 ――刃が駄目になった時には、戦意はまだあった。

 刃が駄目になっても、俺には打つ手がある。まだ撤退するには早い。

 【炎刃】を発動させ、距離を詰めていく。

 ……じり、……じりっ

 あと少し、もう少し近づいておきたいのにその少しが詰め切れない。これ以上近づくと相手の間合いに入ってしまう。

 なんとなくだがそう直感する。

「こっちを見ろぉ!」

 掛け声とともにハンマーがゲブロッグの背後に落とされる。

「ゲボッ!」

 今だ!手加減なんてしない、全力をこいつに叩き込む!

「おりゃあああ!」

 ジュッ――、切り裂かれた皮膚からそんな音がし、悲鳴を上げ後ずさらせる。その顔には怒りの感情が見て取れる。

(ここだ!今ならこいつを打ち取れる!)

 この時、『今なら倒せる』と確信した。

 だから、俺はがむしゃらに切り付けた。

「加勢するよ!うららららら、らっ!」

 ペルニカさんの猛撃も加わり、あとほんの少しで倒せるところまでは行ったのだ。

 

 ――だが、この時は駄目だった。



 きっかけは少し離れた位置で援護に徹していたリリィさんが発した警告だった。彼女は遠くにいたからこそいち早く異変に気付いていた。

「ペルニカ!シィドさん!その場を離れなさい!」

「「リリィ(さん)?!」」

 なんだ?なんで、今…。

 必死な形相で撤退を指示する様子にただただ困惑し、愚かにも動きを止めてしまった。あの時、動きを止めなければまだ打開策はあったかもしれない。

「……シィド君、急いで!」

 先に異変の正体に気付いたペルニカさんが強引に俺の腕を取り、引っ張られる形でその場を後にする。手の感触にハッとなり、周囲を確認したことでようやくその異変に気付いた。

 俺たちに向かって土煙を上げながらゲブロッグの集団が向かって来ていた。

 リリィさんが撤退を決めた理由がわかるとともに絶望が襲う。一体でも手を焼いていたのに、これ以上は対処できるはずもない。ただでさえ俺の武器はボロボロなのだ。

 こんなところで死ぬわけにはいかない。命を天秤にかけるような状況でないのもわかってる。だが、どうして今なんだと思わずにいられなかった。

 あと少し、あとほんの少し遅ければなんとかなったかもしれないのに。


 リリィさんが弾幕を張り、ペルニカさんの“ガイアサーフィン”で起こした波に乗って窮地を脱し、洞窟に避難している。

 結局俺は何もできなかった。俺一人だけが足手まといだった。

 戦闘では一人焦って、撤退でも状況を見極められず……。個人的な事情で二人を巻き込んでおきながら、ただ足を引っ張っただけで終わったんだ…!

 こんな時だからこそ、落ち込んでいる場合でないのはわかっているのに気持ちが沈んでどうにも動けない。

 憂鬱な気分にカンカンと鎚を振るう音やリリィさんの寝息が聞こえてくる。武器の準備や魔力の回復に努める。次を見越しての行動が俺を咎めているような気がする。

『お前は何もできないのか?』

 何かしなきゃいけない。……なのに、何ができるのかわからない。

 暗い想いは頭を止め、手足を止め、体を止める。

 まるで暗闇で鎖に雁字搦めにされているような、そんな感覚。

(…はぁ、駄目だな)

 こんな気分でいてもいい考えが浮かぶはずがない。

「すいません、ちょっと出てきます」

「えっ、ちょっ、シィド君!」

 静止の声を振り切り、逃げ出すように洞窟をあとにした。



「行ってしまいましたわね」

「……起きてたんだね」

 突如飛び出していったシィド君の背中を追っていると背後で動く気配がしたと思うと寝息を立てていたはずのリリィが起き上がっていた。

「寝てましたわよ?それでも、気配でなんとなくわかりますわ」

「………ねぇ、リリィ。リリィにならわかるかな?」

「……わかりませんわよ。ワタクシはシィドさんではないのですから、彼が何を考えているのかなんてわかりようがありませんわ」

 そうだよね。私にもわからない。同じ落ち人であるリリィなら何かわかると思ったんだけど…。

「それに、ワタクシ達は今すべきことをなすだけですわ。自分に何が出来るかもわからず、できないことを嘆くだけならばその程度の人だったというだけ」

 彼女は、構っていられないと言わんばかりに再び横になった。

「…リリィは強いね。初めて会った時から全然変わってない」

「……ワタクシは強くあらねばならない。そう自分に義務付けているだけですわ。それが、『リリィ』という名前に恥じない生き方ですもの」

 『リリィ』。彼女の名前の意味を聞いたことがある。

 それは、彼女を守って命を落とした家族の名前。一緒に散歩していた時に事故に遭ったところを『リリィ』が助けてくれた、と。だからこそ、自分はその家族の分まで生き抜くのだと。そういう決意を込めた名前だと。

 リリィの人生に影響を与えたのはその『リリィ』を含めて3人。

 一人は彼女の祖母。リリィに生き様を見せた人。

 もう一人はこの世界に来てから彼女を導いた人。

「そういえば、あの人は今何しているのかな?」

「今は王都で女王の直属の騎士をしていると聞きましたわ。あの人も大概自由人ですわね」

 私もあったことはあるが、たしかに自由な人だ。冒険者として第一線にいたのにあっさり引退して友達になったという女王様の近衛になったおそらく国内最強の戦士。

 リリィの師匠で『貴婦人の話題』結成以前に所属してたクランの盟主クランマスター

「……追わなくてよろしいんですの?」

「…へっ?」

 リリィに告げられた言葉にドキッとしてしまう。なんでだろう。

「だ、だって追わないんでしょ?それに武器の修理だって――」

 気づいたら追いかけない理由を必死に言い繕おうとしていた。

「ペルニカ、ワタクシはたしかに追いかけません。それは代表として自分の仲間でもない方にそこまでする義理がないと考えていることと信念に基づいたものです」

 でも、と続けられた言葉は私を動かした。



「まったく手間がかかるんですから」

 シィドさんを追いかけていくペルニカを見送りながら我ながら過ぎたおせっかいに呆れてしまいますわ。

 ペルニカは父親に逆らって冒険者をしていることに引け目を感じているせいか時折、変に考え過ぎてしまうことがある。

「……やりたいことをやればいいだけですのに」

 ワタクシのことを凄いというが、ワタクシはやりたいことをやっているだけ。

 ……父親を尊敬し、凄いと思った人を素直に称賛できる彼女の方が凄いのに。そう考えたからこそ彼女にとって重責になるとわかっていたのに副マスターという役職を任せているのだ。

 上手くいくといいのですけど、シィドさんが立ち直るかどうかはわからない。ペルニカに言ったようにシィドさんがどうなるかはどうでもいいのだ。ただ、そのことで彼女が後悔する姿は見たくない。

 まったく、こんなワタクシが組織の長だなんて……。

 『貴婦人の話題』を設立してから何度も思ったがやはり向いてないのではないかと思ってしまいますわ。それでも、やり遂げて見せる。

 ワタクシを庇って死んだ『リリィ』のためにも。

 いつもワタクシの背中を押してくれたリリィ。ワタクシなんかを庇って車に轢かれてしまった大切な家族。

 ワタクシはあなたのように彼女の背中を上手く押すことが出来たかしら?

 彼女に告げた言葉が蘇ってくる。

『――でも、あなたがやりたいことを否定するつもりはありませんのよ?難しいことを考える前に動いてみるのもたまにはいいかもしれませんわよ』


 ――ペルニカ、あなたがワタクシを支えてくれるのなら、ワタクシはあなたを導き、道を開けるように頑張りますわ。



 自暴自棄になって飛び出し、行く当てもなく散策していて見つけた川を呆然と眺めていた俺の背後からガサガサと草むらをかき分けながらペルニカさんが現れた。

「見つけたよ、シィド君!」

 はぁ、はぁと呼吸を乱し現れた彼女は肩で息をしながら近づいてきて、

「こんの、バカァー!!」

振りかぶった拳を俺の脳天に落とした。


「……ッ!」

 振り下ろされた拳に目の前がチカチカし、なぜこうなったのかを考える間もなく胸倉を掴まれ前後左右に揺らされる。

「なん、っで、一人で思い詰めるの!?失敗は、私たち全員のモノなの!君だけが失敗したんじゃない、私たち全員で失敗したってことなの」

「…いや、ペルニカさ―――」

 言い訳しようとした喉元まで出かかった言葉は彼女の目に溜まった涙に気付いた瞬間、奥に引っ込んでしまう。

「それがわからないようじゃ、パーティで行動している意味がないでしょ!?私たちを蔑ろにするのもいい加減にしてよ!」

 とうとう彼女の瞳が決壊し瞳から涙がこぼれ、嗚咽が混じる。

「……嬉しいことだけじゃない、辛いことも苦しいことも共有するからパーティなんだよ。例え、一時だけだとしても一緒に行動する以上忘れないで」

 告げられた言葉に殴られた以上の衝撃が走る。

 …本当に駄目だな。そんな簡単なことにも気付かないなんて。

「…………」

「…あ、あれっ?大丈夫?」

 沈黙したのをどう受け取ったのかあたふたし始めたペルニカさんがなんだかかわいく思えてしまう。

「…プッ!あははははっ」

 そんな彼女を見ていると先ほどまで思い詰めていたのが急に馬鹿馬鹿しくなって気付いた時には吹き出していた。

 ひとしきり笑ったのだが、顔を憤怒で赤く染めたペルニカさんを見て、正気に戻ると同時にこれから起こる悲劇に肝が冷えていくのを感じる。

 その後、怒った彼女にボコボコにされ顔面を大きく腫れ上がらせたが、顔の腫れに比べ先ほどまで罪悪感で張り詰めていた心はスッキリしていた。


 ちなみに、戻った俺の顔を見てリリィさんは腹を抱えて大爆笑した。こんなに取り乱した彼女を見たことがなく、呆気に取られるとともに淑女がそんな風に衣服を乱しながら笑っていいのかと思ったが、それを言うとさらに顔が腫れることになるだろうから言わないでおいた……のに、結局殴られた。

 ……理不尽すぎるだろう!?









・おまけガールズSIDE

(はわわっ!なんか今になって恥ずかしくなってきたぁ……!)

 シィド君に言ったことが急に恥ずかしくなってきた。そもそも、あんな態度を年下の男の子に見せるのはどうなのっ。あぁ~、これからって時に…って何がこれからよっ!

(なんだか、困惑してますわねぇ。……それにしても、シィドさんのあのお顔ったら、プブゥーッ!思い出しただけで笑いが止まりませんわ!ペルニカもちょっとはしゃいだみたいですし、いい傾向ですわね。彼女がどういう形の好意を抱いているのかはわかりませんが、悪い感情を持っていないのも事実。

 二人がどうなっていくのか、楽しみですわぁ~)

 一方、そんなペルニカをニヤニヤと笑みを浮かべつつ盗み見ているリリィ。本人が聞いたら、見守っているのですわ!と言いそうだが、緩みきった頬が説得力を失わせている。

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