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ピラファ火山③ファーストコンタクト

「あれが、ゲブロッグ」

 思っていたよりもデカい。ぱっと見3メートルってところか。

「…気を付けて。姿は見えないけど、近くに仲間がいるはず」

 群れで行動する。その言葉が思い出され、周囲を見渡す。

「……とりあえず、いないみたいですわね。仲間を呼ばれないうちにさっさと片付けてしまいましょう」

「…うん。シィド君、油断しないで。危なくなったらすぐに逃げる。……いいね?」

 いつもは余裕の表情を浮かべる二人の緊張具合が伝わり、自然と体が強張る。

「そうですわね。単体ならまだしも、群れとなるとワタクシ達もあなたを助ける余裕はありませんわ。各々の判断で撤退は見極めなさい。それも冒険者にとっては必要なことですわよ。じゃあ、ペルニカあなたはシィドさんを連れてゆっくり近づきなさい。私が牽制します」

「わかった。リリィも気を付けて」

「…ふん、あんなぶくぶくガエルに遅れなどとりませんわ」


「シィド君、こっち。私の後にしっかり付いて来て」

「……はい。だけど、リリィさんはいいんですか?」

「うん、シィド君も知ってるだろうけどリリィは遠距離の攻撃の方が有利だからね。逆に私たちは近づかないと攻撃が出来ない。だからリリィが注意を引きつけている間に一気に背後から襲う」

 リリィさんは傘の先端から魔法を飛ばすスタイルが基本。俺たちは武器を直接叩きこまなきゃいけない。そう考えれば、たしかにこの陣形も納得はできる。だけど、それでいいのか?

 リリィさんだけを危険に晒しているようなそんな気がする。

 いやいや、何を考えてるだ!二人はずっと同じクランで戦ってきた仲間だ。俺なんかよりもお互いのことは理解している。 

 だったら俺ができるのは二人の足を引っ張らないように俺のできることを全力でやり遂げるだけだ。


「……そろそろですわね」

 二人がゲブロッグを射程に捉えるまであと少し。

 ワタクシとゲブロッグの距離は約20メートル。この距離なら相手がこちらに気付いた後の初動でちょうど二人が背後を取れる位置になるはず。

(失敗は許されませんわね)

 この世界に来てから何度も戦いを繰り返してきましたが、仲間や知り合いを危険に晒すかもしれない時はやはり緊張しますわね。おそらくこれだけは慣れてはいけないことだと、常に言い聞かせている。それがワタクシの矜持となって生きている。

 失敗は許されない。だけど、それはどんな場面でも一緒。命をかけている時に失敗なんて許されない。そんなことを許してしまえるほどワタクシ達『貴婦人の話題』のプライドは安くはありませんわ!

 得物を構え、ジッと標的を見つめる。

 失敗は許されない。何よりも失敗なんてワタクシが許せない。

「喰らいなさい!」


 ヒュゥーン……パァンッ!!


「始まった!行くよシィド君、タイミングを合わせて!」

 リリィさんのいる方角から派手な音がし、遅れてゲブロッグの体を閃光と衝撃が襲う。それを合図に俺たちも一斉に飛び出した。

「…今の技“誘惑の風(ダンシング・レター)”は派手な音と光で敵の注意を引きつける。つまり、その分リリィに危険が及ぶ。だから、私たちは一刻も早くゲブロッグの足を止める!」

 あと少し…!

「ヤバい!あいつジャンプする気だわ!」

「……っ!?」

 ゲブロッグは優に数メートルは跳ね上がり、一気にリリィさんとの距離を縮めていく。

 このままだとリリィさんに近づきすぎる。

「させるかぁー!!唸れ大地!“ガイアウェーブ”!!」

 ハンマーで掬い上げるように地面を擦ると、地面が波打ちゲブロッグ目がけて直進していく。

「ゲブロォ!」

 大地の波が直撃するかと思われた瞬間、ゲブロッグが頬を膨らませ何かを吐き出し、波を消滅させる。

「なんなんですかッ!あれは!」

「ゲブロッグ最大の武器…、胃液だよ!火山近郊に住んでいるのは硫黄を含む強酸性の胃液を作り出すため…!まったく、厄介極まりないね!」

「言ってる場合ですか!?このままじゃ……」

「心配いらないよ。あれだけの量を一瞬で吐き出せるのは凄いけど、一方向だけじゃ意味がない。私たちは独りじゃないんだから!」


 ……ほんっと、厄介なカエルですわ!

 まさか、あの規模の波を一瞬で消滅させるなんて。

 ですけど、ワタクシに背を向けてしまってよろしいのかしら?先ほどの攻撃がワタクシの全力だと思われているのだとすれば、心外ですわね。井の中の蛙とはよく言った物ですわ。

「クラン『貴婦人の話題』トップ2が揃っててあの程度なわけないでしょう?」

 先ほどの派手なだけのお遊戯はもうおしまい。

「……招待状は受け取っていただけましたかしら?それでは、余興はこれぐらいして、舞踏会を心行くまでご堪能くださいませ?」


 リリィさんの銃撃が始まった。

 初めの一撃よりも音は小さいが、連続して響く銃声。ついで聞こえてくるゲブロッグの叫び声。

 ペルニカさんもほらね?というように先行していく。

(凄い。お互いを信頼し、お互いが何をしてほしいのか、自分に何ができるかを見極めた連携。これが単独ソロではなく、パーティで戦うということか)

 …感心してるだけじゃいられないな。元々この仕事は俺が引き受けたものだ。俺がやらなくちゃ意味がない。

「ハイ、ハイ、ハイィっと!!」

 先行していたペルニカさんはすでに追いついてゲブロッグに猛打の嵐を与えていく。それによって、ゴムボールのようにあっちに跳ね、そっちに跳ねと弾む姿が見える。

 相手もなんとか反撃しようとしているようだが、その糸口を掴めないようだ。

「おりゃあああぁあ!!」

 決まった!振りかぶった一撃が奴を真正面に捉え、ハンマーがめり込んでいく。

「…しまった!シィド君気を付けて!」

「……へっ?」

 攻撃を決めたはずのペルニカさんが慌てて注意を促してくる。その意味がわからず呆気に取られていたが、意味が分かった時には遅かった。

 攻撃の勢いをそのままにこちらに向かって跳んで来るゲブロッグが視界に入った。

 しかも、頬を膨らませ、今にも吐き出す準備をしている。

「……クソッ、何がどうなってんだ!?」

 ひとまず包丁を構え、臨戦態勢を取るがどうすればいいのかさっぱりわからない。

 いざ吐き出そうとした瞬間別方向から飛来した弾丸がゲブロッグを直撃する。

「ゲボ、ァッ!」

 呻き声を上げたかと思うと溜めていた胃液が溢れだし、周囲に胃液の雨を降らせる。

 うっとうしい!

 周囲の大地を溶かす雨を避けていると、狙撃されたゲブロッグが運悪く俺の前に落ちてくる。

 やるしかないか…。

 腹を括って放った一撃だったが、ぐにっとした感触の皮膚に弾き返される。

「なんだそれっ!?」

 攻撃が効かないのかっ!

 …いや、そんなことよりもマズイ!今の一撃でこっちが格下だとわからせてしまった。

 攻撃が通じなかったことで自分より弱いということが伝わってしまい、ニマニマとこちらに向かってくる。

 先ほどの機動力を見る限り、突っ込んでこられたら避けきれない。かと言って、【炎刃】は魔力消費が激しいのであまり使いたくない。

(こいつ一体ならまだしもこれから連戦する可能性もあるんだ。一体に使うわけにはいかない)

 熟考する隙を与えないように再び胃液を吐く構えを取ったのでとっさに包丁を構え防ごうとした。

「……シィド君、受けちゃ駄目だ!」

 そんな俺の耳にペルニカさんの警告が届くが、間に合わない。

 ゲボォ!という嘔吐の呻き声に続き、鼻が曲がりそうな臭い匂いを放つ胃液が体にかかる。

「ぐわああぁあぁ!」

 胃液がかかった箇所が焼けるような痛みを放つ。包丁を盾にしたおかげでかかった範囲は狭かったが、それでも服の大部分が溶けてしまった。

 なによりもアレを防いだ包丁が……。

 包丁の刃先が溶けてほとんど使い物にならなくなっている。

 まさに絶体絶命ってやつか。さぁて、どうするか…。

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